第15話 選ばれた理由

甲子園が終わって、一週間。


 学校に届いた一通の封筒が、

空気を変えた。


 U-18日本代表候補 合宿参加通知


 名前があったのは、二人。


 早乙女 恒一(捕手)

 霧島 恒一郎(投手)


 場所は、

関東の某トレーニング施設。


 表向きは、合宿。

 だが、実態は――


 選考と、視察。


 全国から集められた、

「高校野球の完成品」。


 ブルペン。


 順番に、投手が投げる。


 150キロ台。

 鋭いスライダー。


 捕手たちのミットが、

乾いた音を立てる。


 俺の番。


 マウンドに立つと、

視線が集まる。


 「……ナックルのやつだ」


 囁き。


 捕手は、

他校の代表候補。


 ――早乙女じゃない。


 それでいい。


 一球目。


 ナックル。


 ボールは、

ゆっくり沈む。


 ミットが、ほとんど動かない。


 「……?」


 二球目。


 同じ。


 三球目。


 方向も、距離も、同じ。


 捕手が、

驚いた顔でこちらを見る。


 「捕りやすい……?」


 四球目。


 少し速めのナックル。


 空振り。


 ブルペンの外。


 腕を組んで見ていた男が、

静かに前に出た。


 元プロ投手。

 現・球団投手コーチ。


 「無回転じゃないな」


 誰に言うでもなく、

独り言。


 「だが、

 回転は“制御”されている」


 選考試合。


 短いイニング。


 俺は、

捕手を選ばない。


 ゴロ。

 空振り。


 三者凡退。


 ベンチで、

早乙女が小さく息を吐いた。


 「……やったな」


 「まだだ」


 そう答えた。


 試合後。


 関係者エリア。


 男が、俺に声をかけた。


 「君」


 名刺。


 プロ球団・投手コーチ


 「誰に教わった?」


 「誰にも」


 男は、笑った。


 「なら、

 前世で失敗してるな」


 心臓が、止まりかけた。


 だが、男は続ける。


 「冗談だ」


 「でも――」


 指先を見る。


 「この投げ方、

 プロでも完成させられなかった」


 名刺を、胸ポケットに戻す。


 「正式な話は、

 ドラフト前に来る」


 それだけ言って、

去っていった。


 視界に、

静かな表示が浮かぶ。


U-18評価:

「再現性:高」

「捕手依存:低」

プロ注目度:急上昇


 早乙女が、

隣に立つ。


 「……追いつかれたな」


 俺は、首を振る。


 「違う」


 「並んだだけだ」


 二人で、

前を見た。


 ここから先は、

高校野球じゃない。


 次は、ドラフトだ。

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