第5話 回らない球への答え

次の試合、空気は最初から違っていた。


 相手ベンチが、やけに落ち着いている。

 俺は、それに気づいた。


 ――研究されている。


 初回。

 一番打者。


 早乙女のミットが、外に流れる。


 ナックル。


 投げた。


 ……当てられた。


 バットの先。

 だが、打球はフラフラと外野へ。


 ポテンヒット。


  次の打者も、同じ。


 強く振らない。

 合わせるだけ。


 内野に、ゴロが転がる。


 アウト。


 だが、進塁される。


 ――嫌な感じだ。


 二回も、三回も。

 三振は取れない。


 球数が、増える。


 ベンチで、監督が腕を組む。


 「……やられてるな」


 だが、早乙女は動じない。


 四回。

 二死一、三塁。


 また、勝負所。


 早乙女が、マウンドに来た。


 「対策は、単純だ」


 小さな声。


 「待たれてる」


 ――分かってる。


 「だから、逆を行く」


 ミットが、

高めいっぱいに構えられた。


 ――ナックル?


 いや、違う。


 ストレート。


 投げた。


 思った以上に、伸びる。


 打者のバットが、

完全に遅れた。


 ファウル。


 次。

 同じ構え。


 今度は――

ナックル。


 高めから、

ストンと落ちる。


 打者のバットは、空。


 「……は?」


 三振。


 ――そうか。


 低めだけじゃない。

 高低差。


 五回以降、流れが変わった。


 当てに来る打者ほど、

高めで差し込まれる。


 ナックルは、

見せ球になる。


 最終回。

 一点リード。


 最後の打者。


 早乙女が、

はっきりとサインを出した。


 ――ナックル。


 今度は、迷わない。


 投げた。


 ボールは、

ふわりと浮き、

急に沈んだ。


 空振り。


 ゲームセット。


 ベンチが、どよめく。


 監督が、静かに言った。


 「……対策されても、使えるな」


 それだけで、十分だった。

 ナックルは、

“対策されて終わる球”じゃない。


 ――育てれば、武器になる。


 俺は、確信していた。

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