エースは死んだ

与太郎

第1話 一条は死んだ

 一条蒼真が死んだ。 

これは練習前、監督が淡々と告げた。


事故死。

詳細は語られない。

東北の強豪シニア・上越シニアは、

一瞬だけ沈黙し、そして何事もなかったかのように練習を始める。


 一条蒼真は全国的なスターだった。投げれば三振、打てばホームラン。世界大会でエースを張る本当の化け物。それが一条蒼真。

 僕は雨宮恒一。この上越シニアでずっと2番手投手だった男だ。一条の後ろに立ち、一条を追い、ついに追いつけない。今回は正に勝ち逃げだろう。しかしこのシニアではそんなこと考えている暇もなく練習が始まる。それが強豪シニアというものだ。

 

ブルペンに立つといつもより視界がはっきりとした。

視界は捕手のミットだけ捉え背中はよく開き足も上がる。

なんだ、これじゃ僕が嫌な奴みたいじゃないか。

なんて考えていると捕手が近づいてきた。

「雨宮、お前いつもとフォーム違うけどなんかあったのか?」

「え?」

「なんか…蒼真みたいというか……いや、やっぱ気の所為だわ。ごめんな、止めちゃって。」

 そう言って捕手は戻っていく。その後の練習はいつも通り続いた。


 練習終わり、監督は言う。

「次のエースは、これから決める。」


その言葉を聞いた瞬間、僕の胸に湧いた感情は

悲しみでも恐怖でもなく、安堵だった。

「やっと、あの人がいない」

その感情に気づいた瞬間、僕は自分自身に嫌悪した。

同時に、頭の中に一つの考えが浮かぶ。

――なら、代わりは誰がやる?

絶対的エースの一条がいない。その事実が深く僕の胸に突き刺さった。


神谷が使っていたロッカーは、まだ片付けられていない。

汗の匂い、削れたスパイク、書きかけの投球ノート。

主人公はそれらを見てはいけないもののように扱いながら、

目を逸らせない。


「…みや!雨宮!」

「え、なに!?」

「たく、どうしたんだよ柄にもなくボーとして。一条のことか?今日の雨宮、一条の事を意識してかフォームも球筋もそっくりだったぞ。」

そう監督は言いわれる。

僕はそれに違和感をおぼえた。

(…違う。一条にそっくりじゃない。一条になろう。)


僕はこっそりと一条のロッカーから投球ノートを奪った。


その夜、投球ノートを開く。

1ページ目には大きく、彼しか知らないはずの、

神谷の筆跡でこう書かれていた。


「雨宮へ」




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