第17話 派遣時代の後輩からの電話

 三上が自宅で資料を眺めていると、スマートフォンが震えた。

 画面には、見覚えのある番号が表示されている。


 派遣時代の後輩だ。

 一瞬だけ、指が止まる。


 通話に出た。


 「もしもし」


 『三上さーん。お久しぶりです』


 その声には覚えがあった。

 少し高くて、間の取り方が軽い。


 「久しぶりだな。どうした?」


 『いきなり消えるからですよ。元気なのかどうかも分からなくて』


 「元気だよ。前よりは、な」


 『……ほんとに?』


 一瞬、間が空いた。


 『三上さんがいなくなったあと、プロジェクト、終わりました』


 言い方は軽いが、内容は重い。


 『盾になる人がいなくなったら、私たちが標的ですよ。それで何人か辞めて、最後はまとめてです』


 想像はついた。

 自分がいたから耐えていた歪みが、表に出ただけだ。


 「……ああ。あのやり方は長くもたないな。でもあのおかげで、ダメなマネジメントをやらずに済んでる」


 『え、三上さん、今マネージャーやってるんですか?』


 「マネージャというか、経営な」


 『ほんとに?』


 声のトーンが変わった。

 興味ではなく、確認の音だ。


 「全部説明できる話じゃない。ただ、人は足りてない」


 『……じゃあ』


 間髪入れずに言われた。


 『私も使ってもらえませんか』


 「即答だな」


 『状況整理と、現場回しは得意です。あと、理不尽な上司の下で生き延びる方法も』


 冗談めいているが、実績の裏返しでもあった。


「楽じゃないぞ」


『分かってます。楽そうな仕事、三上さんやらないじゃないですか』


 電話の向こうで、笑う気配がした。


「いつから来るんだ?」


『一か月後で』


「分かった。楽しんできてくれ」


 通話が切れる。


 三上は、しばらくスマートフォンを見たまま動かなかった。


 頭は切れる。

 空気も読める。

 何より、過去を知っている。


 ――使えるかどうかは、会ってからだ。


 そう思いながら、次の予定表を開いた。

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