第12話 護くん


  護くんの笑顔につい、見惚れていた。

 こんなに優しい笑顔をしてただろうか。

 

 「あ! ゆずるさんが副社長さんって初めて知ったのだけれど、本当?」

 私は護くんから目をそらして、気になったことを聞いた。

 以前、働いていた会社の副社長さんだなんて。


 「ああ。母の会社なんだ。黙っていて、ごめん。最近兄が代理で副社長になったんだ」

 護くんは母の会社だと教えてくれた。

 まさか知り合いの経営する会社だと思わなかった。

 

 「兄が副社長になってから、社内調査がされたんだ。あの二人の嫌がらせ・職務放棄など、悪い話が多数。それに……横領など。すぐに解雇されるだろう」

 「そう……なのね」

 私の他にも嫌がらせをしていたらしい。

 もうあの二人とは関わりたくない。


 深呼吸して、気分を落ち着かせた。

 「ありがとう。もう自分で歩けるわ」

 そう言って護くんから離れた。

 

 「そうか。無理はするなよ」

 ふ……と、護くんの手が私から離れて寂しい気持ちになった。

 「うん。あ、そうだ」

 今のうちにブレスレットを渡しておこう。


 「これ、頼まれてたブレスレット。気に入ってくれたならいいけど……」

ポケットから布袋に入ったブレスレットを取り出した。

 護くんは受け取り、袋を開けてブレスレットを手のひらに乗せた。

 

 「……いいな。気に入った」

 そう言い、護くんはブレスレットを左手に着けてみせた。

 太陽の光にブレスレットがキラキラと光っていた。

 「気に入ってくれて、よかった。サイズとか調節できるからきつかったり、緩かったりしたら直します」

 見たところ緩くはなさそうだけど……。

「ん。大丈夫だ。ありがとう。大切にする」

 護くんはブレスレットを、指で撫でた。


 気に入ってくれたようで良かった。

 ホッとしていたら「うん。顔色が良くなってきたな」と護くんが私の頬へ左手で触れた。

 「!?」

 するりと左手の親指で私の目尻辺りを撫でて、じっと私の目を見ていた。

 「俺は……」


 私は別の意味で固まっていた。

 護くんから目が離せなくて、私たちはしばらく見つめあっていた。

 俺は……? 護くんの口からその続きが出てこなくて、いつもの護くんじゃないみたいで戸惑った。


 ジャリ……。

 境内に敷いてある砂利の踏みしめる音がして、私は振り向いた。

 「餓狼!」

 

 どうやら餓狼が迎えに来てくれたらしい。

「迎えに来てくれたの?」

 『ああ』

 話かけると変わらず、素っ気なく返事をした。

 洗い物をしていたのか、着物をたすき掛けしたままこちらへ来たようだ。


 「瑠璃。ブレスレットありがとう。俺はもう帰る」

 「あ、こちらこそ。ありがとう! ゆずるさんにもお礼をしなくちゃ」

 冴羽兄弟には助けてもらってばかりだ。

 護くんが帰るとき、餓狼へ話しかけた。


 「餓狼。瑠璃を休ませてくれ」

『わかった』


 「じゃあ。ちゃんと休むんだぞ」

後ろ向きで手をひらひら振りながら、護くんは帰っていった。

 歩くのが速い護くんは、あっという間に見えなくなった。

 

『大丈夫か?』

 餓狼も心配して顔を覗き込んできた。

 「さっきよりは、大丈夫」

 皆に心配をかけてしまった。とにかく休もうと思う。

 餓狼に付き添われながら自分の部屋へ戻って来た。

 

『瑠璃様――。大丈夫?』

 ねねこにまで心配させてしまった。

 「うん。少し休むわね」

 

『お夕飯は精のつくものを作ります~』

 ねねこは私の袖に掴まって言った。

 心配顔のねねこ。

 「うん。お願いするね」

 

 私はねねこの頭を撫でた。

 さらさらのねねこの髪の毛は、触っていて気持ちが良い。

 私に撫でられて、ニコニコと笑っている。

 

『ほら。ねねこ行くぞ。ここに居ては休めないだろ』

 餓狼がそう言って、ねねこの帯を掴んで持ち上げた。

『ねねこは、荷物ではないです~!』

 軽々とねねこを持ち上げて、二人は部屋から退出していった。


 「はぁ……」

 まさか辞めた会社の元同僚たちがカフェへ来るなんて。

 それにゆずるさんが副社長……。

 冴羽神社の兄弟にまた、助けてもらった。

 

「でも勇気を出して、言えた」

 あの人たちに言えなかったことを後悔していたので、勇気を出して言えてよかった。

 私は着替えて休むことにした。


 

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