第11話 冴羽兄弟再び


  

 「え、なによ! あっ!?」

 「な、なんでここに!? ふ、副社長……!」

 

 二人を睨みつけているのは、冴羽神社の兄弟だった。

 やめるように言ってくれたのは護くんだった。

 その横には、ゆずるさんが立っていた。


 「こんなところで、嫌がらせか。呆れるな」

 いつも温厚なゆずるさんが、怒ってるような低い声で元同僚たちに話しかけた。……今、副社長と言った? 

 ゆずるさんが副社長って?

 

 「瑠璃、大丈夫か?」

 そっと肩を抱いて、少し元同僚たちから離れた所へ移動してくれた。

 「え、ええ……」


 「ちょっ……と、嫌がらせなんて! 誤解ですわ! ねえ?」

 元先輩が元同期へ目くばせをした。

 そうやって、お互いに示し合わせて私を悪者にしていた。

 「そうですよぉ~! 嫌がらせ、なんて。私たちは元同僚の重音さんと、世間話をしていただけです――ひどいわ!」

 大きな声で話してるので、店内がざわざわと騒がしくなった。

 さすがに歌利那さんも気が付いたようだ。


 「なにごと?」

 元同僚二人を見て察しがついたのか、歌利那さんは私の側まで来てくれた。

 ゆずるさんと歌利那さんは顔見知りだ。

 

「ゆずるさん。この人たちは、いったい?」

 ゆずるさんに歌利那さんは、怪訝そうに聞いた。

 「個室、空いてる?」

 何も話さずに、個室は空いてるかとゆずるさんは歌利那さんに聞いた。

 ゆずるさんは怒っているようだ。

 普段、温厚な人が起こると怖いと言われるけどゆずるさんがそうだ。

 

 「空いてるわ。護さん、瑠璃ちゃんお願いしていいかしら? 顔色が悪いから休んでちょうだい」

 歌利那さんは私に、休むように言ってくれた。

 「わかった。連れて行く」

 護さんは頷いて、私を元同僚から距離をとってくれた。


 肩を掴んで私が倒れないように支えてくれている。

 力強い手に安心して体の強張りがとけてきて、動き出せた。

「大丈夫か? とりあえずお店のすみの方へ」

「ええ……」

 元同僚たちは、ゆずるさんに促されて個室へ入っていったのが見えた。


 護くんがお店の壁際の席へ連れていって、私が転げ落ちないように優しく椅子へ座らせてくれた。

 歌利那さんが、お水を持ってきてくれて受けとった。

「落ち着いたら今日はもう、お休みにしましょう? 悪いけど護くん。瑠璃ちゃんの面倒を任せていいかしら?」

「ああ」

 皆に迷惑をかけてしまった。私は申し訳なくて俯いた。

 お店は歌利那さんと折り紙たちで、やってもらうことになった。


 個室は建物の壁と布で仕切られているので、そんな大声で話さなければ会話は聞こえてこない……はず。

「どうして私達が、責められなければならないのですか!?」

 元同僚の大きな声が聞こえてきた。

「そうですよ。どうやら重音さんは体調が悪かったみたいですけど、私達のことを気に入らなかったのか無視されて! せっかく来たのにね。接客業に向いてないでしょ、あの人」

 どこまでも私を悪く印象つけたいらしい。

 また気分が悪くなっていく。


「瑠璃、大丈夫か?」

 護くんが優しく気遣ってくれている。私は顔を上げた。

 「ええ。少し休んでいれば大丈夫」

 歌利那さんが持って来てくれたお水を飲む。

 レモンとミントが浮かんでいて、さっぱりして美味しかった。

 お客さんは少なかったけれど、個室にいる元同僚たちの悪口が店内中に聞こえてるので皆、個室の方を気にしていた。


 「……ごめん。ちょっと話をしてくる」

 私はお店の様子が悪くなってきているのに耐えられなくなり、元同僚がいる個室へ向かった。

 「え! 瑠璃!?」

 引き留めようとした護くんを置いて、私は個室にいる人たちへ声をかけた。


 「お話し中、失礼します」

 続く私の悪口。

 ゆずるさんは黙って元同僚たちの話を聞いていた。

 「まあ、重音さん! ご気分はいいのかしら?」

 振り向いて、私に気遣うような言葉をかけてきた。

 私の悪口をさんざん話してたのによく言える。

 

 「ええ。ご心配おかけしました。ところで……」

 私は息を吐いてから二人に向き合った。

 「なによ? お冷くらい出しなさいよ。サービス悪いわよね」

「本当! 評判良いし、だから来たのに」


 私はその言葉を聞いて、何かが切れた。

「お言葉ですが。お客様ではないあなた方を、もてなすことはありません」

 元同僚たちは私の言葉を聞いて、見る見るうちに顔を赤くした。

 「なんですって!?」

 「私たちが客じゃないって言うの!?」

 ガタン! と二人は立ち上がって目を吊り上げていた。


 「それに仕事を私に大量に押し付けて、サボっていたあなた方に言われたくないですね」

 続けて言うと、ギリリ……と奥歯を噛んでいるように見えた。

 いつも疲れ切ってしまっていて言い返せなかった私が、言い返してきたので驚いているのだろう。

 

 「それにお店で、大声で騒がないでください。他のお客様に迷惑ですので」

 きっぱりと「迷惑」と言った。

 「なっ!」

 「迷惑って!? 失礼よ!」


 「そこまでだ」

 ゆずるさんの鋭い声が二人を制した。

 ビクッと二人は体を揺らして、おとなしくなった。

 「失礼なのは君たちだ。お店で大声を出して、店員さんの悪口を言う。営業妨害にあたる」

 座ったまま鋭い目で二人を睨んでいた。

 

 「で、でもっ!」

 「そんな……営業妨害だ、なんて!」

 二人がゆずるさんに近寄ろうとした。

 

 「ほかのお客様に迷惑なので、静かにしてください。言いました」

 私は折り紙たちを使い、二人の足の甲へ大きな重石替わりの折り紙を置いて足止めした。

 「えっ!? なにこれ!」 

 「どこからこんな、大きな亀が!?」


 「社内調査でも君たちの嫌がらせで、10人も会社を辞めていることが分かった。それに……。自分の受け持った担当の仕事を、他の者にやらせていることも聞き取り調査でわかった」

 ゆずるさんにの話で、私の他にも嫌がらせされている人、仕事を押し付けられている人がいると知った。

 ひどい……。


 「君たちは会社にとって不利益なので、辞めてもらうことにした。追って連絡する」

 ゆずるさんは二人の腕を取って、個室から出た。

 「ちょ……っと、待って……」

 「そんな……」

 二人はゆずるさんにズルズルと引っ張られて、お店から出て行った。


 はぁ……と、ため息をついて私も個室から出た。

 するとお店で見ていたお客さんから拍手が起こった。

 「え?」

 私が呆然としていると、護くんが目の前まで来てくれた。

 

 「お客さんも、心配してくれてたらしいよ」

 店内を見渡すと、まばらだったけれどお客様が私に向かって拍手をしてくれていた。

 「よくあの、うるさいお客に言ってくれましたね!」

 近くに座っていたお客様から笑顔で言われた。

 「ほんと。あのお客、こっちの気分が悪くなりそうだったよ! 追い出してくれてありがとう!」


 店内のお客様の反応に私は驚いてしまった。

 ただ精一杯、お店を良くしていきたくて頑張ってきたので、邪魔されたくないと思った。

 

 「良かったな。ただお前は、休まなくてはダメだ。顔色悪くして接客はしない方がいい」

 「わ、わかった……」

 護くんが私の肩へ手をかけて、お店から家へ連れて行ってくれた。


 家へ向かって歩いているとき。

 「まさか、個室へ乗り込んで行くとは思わなかった」

 護くんが微笑みながら話しかけてきた。普段ムスっとしているから笑顔は珍しい。

 「……夢中だったから」

 自分でも驚いた。だけど結果的に良かったと思う。


 私には味方になってくれる仲間がいる。それだけで勇気が出せた。

 

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