第10話 護さんのブレスレット


 「瑠璃ちゃん、休憩に入って」

「は――い」

 歌利那さんに休憩へ入るように言われたので自分の部屋へ戻って休憩することにした。

 護さんのブレスレットは、空き時間に少しずつ作ることにした。


 折り紙を小さく切ってピンセットで狼の形へ折っていく。

 豆粒くらいの狼の折り紙になる。

 「こうやってみると可愛いかも」

 野性的な狼も豆粒サイズだと可愛い。


 豆粒くらいの折り紙を特殊な固まる液で、丸型に閉じ込めていく。

 固まる間に、ブレスレットに使う天然石を選ぶ。

 石には意味があって、その人の願いなどに合った石を選ぶと良いと言われている。

 護くんから聞いてないので、健康や金運・厄除け開運などの意味を持つ石を組み合わせた。

 中心の豆粒くらいの折り紙を閉じ込めた玉の他は、天然石でブレスレットを作っていく。


 知らない間柄じゃないので、健康や厄除けなど願いながら完成させた。

「出来た。気にってくれるかな?」

 出来上がりにホッとして、タエコさんが淹れてくれたお茶を飲む。

 その時、餓狼の呼ぶ声とノックの音がした。

『入るぞ』

 「どうぞ」

 

 ここの部屋は私の部屋なので遠慮して、中にはあまり入って来ない。

 だけど時々、私を呼びに来る。

『お茶菓子を、鈴子さんから頼まれて持ってきた』

 「ありがとう。あ、餓狼。護さんのブレスレットが出来たのだけれど、見てくれないかな?」


 餓狼は私の部屋に入って、お茶菓子とお茶の入った急須を別のテーブルの上へ置いた。

『ブレスレット?』

 「そう。頼まれている、護さんのブレスレット」

 餓狼は無言で座って、私の湯飲みにお茶を淹れた。

 良いお茶の香りが漂う。トレイに柔らかい布を敷いて、その上へブレスレットを乗せて餓狼に見せた。

 「どうかな?」

 季節ごとに神社へ納めるブレスレットを作っているけど、自分や身内以外に個人用へ作るのは初めてなので緊張していた。なので、餓狼に出来を見てもらいたかった。


『悪くない、と思う』

「ん――。悪くないか」

 餓狼はハッキリしているから、悪くないというのは誉め言葉と思っていい。

 少し安心してトレイを作業机へ戻して、お茶菓子に手を伸ばす。

 練り切りだ。菓子楊枝の黒文字を使っていただく。


 「ん。美味しい」

『これは冴羽神社の兄弟が持ってきた和菓子だ』

餓狼が教えてくれた。なるほど。美味しいはず。

 いつも重音家うちに美味しいお菓子を持って来てくれる。ありがたい。


 和菓子をじっくり味わっていた。

『そろそろ休憩時間が終わるじゃないか?』

 「あ!」

 のんびりしすぎた。

 餓狼に言われて時計を見たらもう戻る時間だ。

 「餓狼、ありがとう! 悪いけど片付けてくれる?」

『ああ』

 私は慌てて歌利那さんのお店へ戻った。



 「すみません!」

 ちょっと遅くなってしまったので歌利那さんに謝った。

 「大丈夫よ~」

 予約のお客様は午後からで、店内を見るとフリーのお客様は少なかったので良かった。

 

 「そういえば。瑠璃ちゃん」

 つつつ、と意味ありげな微笑みで歌利那さんが私に近寄って来た。

 なんだろう怖い。ふと見ればお会計が終わり、お客様が帰られて店内に誰もいなかった。

「な、なんでしょうか?」

 お客様が帰られた後の食べ終わった食器類を、片付けていた。

 テーブルを拭いていた手をとめて歌利那さんに返事をした。


 「冴羽兄弟の次男に、うちの神社のブレスレットを作ってあげるんだって?」

 にっこりと微笑んで私に聞いてきた。

 どこでその話を聞いたのだろう?

 「ええ……、まあ」

 なんとなく気まずい。

 お願いされたから……、ブレスレットを作っている。テーブルを意味なく拭いてしまう。

 「ごめん、ごめん! 家族以外、断っていたのにどうしたのかなと思って!」

 歌利那さんは両手を合わせて頭を下げた。


 そうだった。

 前に頼まれたっことがあったけれど、断っていたのを忘れていた。

 「お、幼馴染だし。いつも心配かけているから、特別に」

 そう。幼馴染だし!

 「そうね! ちなみにそのことを教えてくれたのは、瑠璃ちゃんのポケットにいるよ」

 歌利那さんが誰に聞いたか教えてくれるとポケットの折り紙が、カサリ! と動いた。

 ウサちゃん、あなたなのね……。


 「特別……?」

 自分の言ったことを考えて、なぜか顔が赤くなった。

 歌利那さんが、あらあら……ふふと笑っていた。

 

 なんだろう。

 今まで暗く広い空間を彷徨っていたのに、目の前へ、ポッ……と明かりが見えてきたみたい……。

 働いていた会社を不本意でやめて、両親を事故で亡くしてから、ただ言われたことをやっていただけだったのに。

 なんだろう? このは……。


 「瑠璃ちゃん――! お客様ですよ」

 「あ、はい!」

 ぼ――っとしてしまっていたので、急いでテーブルをきれいにセッティングした。

 キッチンへ戻ろうとした時……。


 「あら? 重音さんじゃない?」

「そうよね? 重音さんだわ」

 聞き覚えのある女性たちの声がした。私はドキッ……! として体が固まってしまった。

 以前、働いていた会社の同僚たちで、この人たちが原因で辞めることになった。

 私は返事もできず、動けずにいた。

 どうしよう……手が震えてきた。


 「久しぶりね! 会社を辞めてどうしてるのかしら、と思っていたわ!」

 髪が長くスタイルの良い、私より年上の先輩。

 「ほんと。久しぶり。あなたが辞めて残念だったわ! 雑用係がいなくなって大変なのよ~」

 チクチクと嫌味を言う同期に会社へ入社した人。

 仲良くなんてなかった。

 まさかここで再会するなんて……。


 私は歌利那さんに助けてもらおうとしたけれど、接客中だった。

 キッチンへ戻りたいけど、足が動かない。

 「なによ。無視してるの? 生意気ね」

 元先輩が私の肩をトンッ! と叩いた。

 いつもやられていた。

 

 元先輩はケガしない程度に叩く。軽く叩くけれど痛い。

 やめて……! と言いたいけれど声に出ない。

 「ここでも役立たず、なのかしら?」

 あははは! と二人は笑った。


 私は倒れそうになりながら、じっと耐えていた。

 もっと言い返したい。もっと強くなりたい。……でも元会社でやられていたことは、忘れたくても忘れられない。

 誰か、助けて……。


 「もういい加減にしてくれないか?」

 聞き覚えのある声が、元同僚たちの後ろから聞こえてきた。

 

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