第7話 折り紙の栞(しおり)
「瑠璃ちゃん。お一人様、相談処の予約が入っているけれどいいかな?」
お食事と相談の予約をしているお客様のお食事が終わって、お悩みの相談の時間になった。
「はい」
片付けが済んで待機していたキッチンへ、歌利那さんが静かな声で知らせに来てくれた。
エプロンを外してキッチンから相談処の小部屋へ向かう。
花模様状の透かしでつくった花狭間桟唐戸の似たようなものを特別につくってもらい、小部屋を仕切った。
お互いの顔が見えにくいため、安心して悩み事を相談できるというわけだ。
私が小部屋に入ると、悩み事を抱えた方が仕切りの向こう側に座って待っていた。
「こんにちは。よろしくお願いします」
少し声色を変えて相談者さんへ挨拶をした。
すると相談者さんは、私が入って来たのに気が付いて「こんにちは。よろしくお願いします」と、挨拶を返してくれた。女性の方だ。
念のために私は頭から薄いベールを着けている。
「失礼します。紅茶になります」
向こうの相談者さんの所へ飲み物が届いた。
お茶を飲みながら、リラックスして話をして欲しいと思ってワンドリンク付だ。
「ありがとうございます」
声の感じからして少し緊張しているようだ。
「あっ……。可愛い」
壁へ貼った折り紙たちに気が付いたようだ。
和紙で和柄の折り紙で折った、折り紙たちは大人の雰囲気。
リラックスしてもらうように草花を多めに飾ってみた。
「飲み物をどうぞ」
私は飲み物を勧めた。相談者さんは飲み物を一口飲んだ。
「折り紙はお子さん向けばかりじゃなく、折り紙で作った小物入れや封筒、
「これが、そうなのですね」
仕切りの両面にテーブルのその上に、折り紙で作った小物れの中へキャンディーや一口チョコを入れておいた。
甘いものは人をリラックスする。
「栞も……、折り紙で作れるのですね」
相談者さんが、ふと呟いた。
「気になる人がいて……。私も、その人も読書が好きで。図書館で知り合って色々お話しして……」
「はい」
相談者さんは、少し言いにくそうにいった。
「好きに、なってしまいました」
うつむいて恥ずかしそうに話してくれた。
「告白……は、しましたか?」
「いえ、まだです」
バッ……と顔を上げて言った。
恥ずかしそうに相談者さんは横を向いた。
「好きです、と伝えたいのですが、なかなか勇気が出なくて」
なかなか自分の思いを伝えるのは勇気が出ない。
何か、お手伝いが出来ればいいけれど……。
「あ。読書好きと聞きましたが」
「そうです。私も、あの人も読書が好きです」
それならば……と私は相談者さんへ折り紙を渡した。
「一言、あなたの思いを書いて、栞をその方へ渡してみては? 折り方はお教えします」
私は微笑んだ。お二人とも読書が好きなら、役に立つかもしれない。
「あ……! ちょうど、栞が欲しいと言ってました! 教えてくださいますか?」
「はい。よろこんで」
私はゆっくりと、相談者さんに折り方を教えた。
折り紙を折りながら、相談者さんは相手のことを話してくれた。
「隣で偶然同じ本を読んでいて話しかけてくれて、時々図書館で会うようになって……話が合うし、優しいし……」
照れながら話をする相談者さんは素敵だった。
「好きになっちゃった?」
「はい」
たぶん顔を真っ赤にしている相談者さんは、折り紙を折り終えた。
「できた! ちょっと勇気が必要だけど……! 頑張って渡して告白してみます。ありがとうございます!」
「頑張ってくださいね」
私が話しかけると相談者さんは、椅子から立ち上がった。
「うまくいっても、いかなくても報告しますね! うん。勇気を出そう!」
できれば良い報告が聞きたいと思った。
「ヘンに恋のアドバイスされるより、背中を押してもらったので。ここで悩みを聞いてもらって良かったです。ありがとうございます!」
「いえ。良ければまたいらして下さいね」
相談者さんは声を弾ませて、小部屋から退出した。
「ご苦労様です」
歌利那さんが顔を出した。ちょうど時間だったらしい。
「相談者さんは、私にもお礼を言ってお帰りになったわ。良かったわね」
とにかく相談者さんが勇気を出してくれたようで良かった。
「よかったです」
ふう、と息をはいた。
「ご相談が終わったところだけど、今度はこちらを手伝ってもらえる?」
「……お茶を一杯飲んでからで、いいかな?」
ふふっと二人で笑って、この日の初相談処は終えた。
その後、例の栞の相談者さんから「告白して、お付き合いすることになりました」と、嬉しいお知らせを聞くことになった。
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