第5話 折り鶴の舞 通り魔とまさかの遭遇


 「毎度ありがとう! 瑠璃ちゃん、ガロウ君!」

「またお願いしますね」

 

 ご近所に古くからある、顔なじみのお酒屋さんで料理酒とその他を購入した。

 餓狼も何回かお使いで買いに来ているので、顔見知りになっているようだ。

 二人で頭をペコリと下げてお店を後にした。


 『瑠璃、買ったものを持つから渡してくれ』

 餓狼は外では姫様呼びをしていない。

 他の人に聞かれたら嫌だと言ったら、外だけ姫様呼びをやめてくれた。……呼び捨てだけど。

 「あっ、お願い」

 料理酒とその他日本酒も買ったのでズシリと重い。

 遠慮なく餓狼に持ってもらった。

 私は両手で持っていたけど、餓狼は片手で軽々と持って歩き出した。

 「助かる」

『ん』

 

 来た道を戻って家へ。

 明るい時間帯なので、ワンちゃんを散歩している人とすれ違って挨拶をしたりする。

 「あら。瑠璃ちゃん、ガロウ君。こんにちは」

「こんにちは。橋本さん、クロちゃん」

 「ワン!」

 

 近所に住んでいる橋本のおばあさんと、飼い犬の黒い毛並みのラブラドルレトリバーのクロちゃんに挨拶をした。餓狼は、橋本さんにペコリとお辞儀をした。

 

 「さっき……。黒づくめの、何かを探しているような、あやしい人を見かけたから気を付けてね。念のため通報したわ。お巡りさんが見回りに来てくれると言ってくれたけど、心配だわ」

 通り魔が出没したので、ご近所の人も警戒している。

 不審な見かけない人を見れば、いつもより注意しあうだろう。


 「気をつけますね。ありがとう御座います」

「じゃあ、またね」

 橋本のおばあちゃんと笑顔で別れた。

 でも、不審な人がいたなんて怖いな。ちら、と餓狼の方へ視線を向けた。

 

『怖いか? ……いざという時は、俺が守るから』

 餓狼は、前をまっすぐに見て言った。頼もしい言葉に強張った体の力が抜けた。

 

『ま、瑠璃の方が強かったりするけどな』

 「え!? そんなことはないでしょう?」

 餓狼より強いなんて……! 

 腕力では敵わないし。私は餓狼の腕を掴んだ。

 

『冗談だ』

 「え、ちょっと……冗談?」

 餓狼が冗談を言うなんて。珍しくて腕を掴んだ指に力を入れた。


 歩きながら私たちは話していたけれど、餓狼が急に立ち止まった。

 勢いで餓狼の肩に額をぶつけた。

『ん!? 急に立ち止まってどうした……、の』

 

 ピリピリとした殺気を感じた。

 両側を塀に囲まれた住宅街。歩いていた先に立っていた人が、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 黒づくめの服にブランと下げた腕。光のない瞳。

 手には……刃物を持っていた。

 

『様子がおかしい。ここは俺が……』

 餓狼は一人で刃物を持った人と対峙するつもりだ。無茶だ。


 「まともに相手をしてはダメよ。私がすきを作るから、相手が怯んだ隙にお願い」

『……わかった』

 周りには誰もいない。

 私はポケットから大量の折り鶴を取り出して空へ放り投げた。

 「!?」


 「重音家 次期当主 瑠璃が命ずる。折り鶴よ、飛べ」


 右手の人差し指と中指をそろえて伸ばし他の指は曲げ、腕を天へ揚げた。


 すると、カサカサッ! と折り鶴たちがバラバラに空を舞った。

「な、なんだこれは!?」

 刃物を持った人物は驚き、刃物を自分の前に構えた。

 

 「行け……!」

 私が命令すると、折り鶴たちは刃物を持った男めがけて突いていった。

 折り鶴だけど、特殊な紙で折っているので、想像していたより痛いはずだ。

 

「痛っ! なんだ!? 痛い!」

 男は腕で攻撃している折り鶴から自分を守っている。

『いいぞ、瑠璃!』

 「餓狼! 取り押さえて!」

 私が声をかける前に餓狼は動いていた。

 すばやく男に近づいて刃物を蹴り飛ばし、腕を取って投げ飛ばした。


 男をうつぶせにし、腕を背中に回して取り押さえた。

「ぐぅぅ……」

 男は抵抗したけれど餓狼の方が、力が強かった。

 「折り鶴、戻れ!」

 再び命令をすると、折り鶴たちは私の手の中へ戻って来た。

 

「どうしましたか!?」

 そこへお巡りさんが来てくれた。

 先ほど橋本のおばあちゃんが、通報してくれたから見回りに来てくれたのだろう。

 

 「お巡りさん! 刃物を持った男の人を取り押さえました!」

 私は餓狼が男の人を取り押さえている方へ指をさした。


 男から黒いのようなものが、離れていくのを見えたような気がした。


 

 それから警察の方がたくさん来て大騒ぎになった。

 近辺で出没していた、通り魔が捕まったことで警察からお礼を言われた。

 私たちは目立ちたくなかったので、感謝状等は遠慮させてもらった。

 

 「餓狼、お疲れ様」

「良くやってくれたね、餓狼」

 

 私と祖母は、通り魔を取り押さえた餓狼を労った。

 餓狼は私をじっと見た後に、ふう……と溜息をついた。

『姫様の折り鶴たちが、犯人の動きを止めてくれたおかげですよ』と言った。

 「でも取り押さえてくれたのは、餓狼よ」

 私が言うと皆が黙った。え、どうして?


 「その気になれば瑠璃の力で、取り押さえられたかもね……とみんな折り紙たち思ってるようだね」

 「まさか!」

 祖母の言葉に私は驚いた。私にそんな力はないと思う……。

 

『……男から得体の知れない、黒い煙のようなものが離れていったのが気になる』

 餓狼が私と同じを見たようだ。

 気のせいではなかったようだ。

 

 「私も餓狼と同じく、男から離れていった黒い煙を見ました」

 私と餓狼が祖母へ伝えると驚いたのか、カッ! と大きく目を開いて私達を見た。


 「まさか……。いや、そんなはずは……」

 そう言って祖母は考え事を始めて黙ってしまった。

 

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