#6
トタ、トタ、トタ、トタ……
今日もボールと追いかけっこで息が切れる。
(ホント、もう、鞠は投げないで欲しい……)
あれから一週間ほどが過ぎた。
その間ずっと、座敷童の遊び相手をしていて、疲労困ぱいである。
き、今日はもう、このくらいで帰ろうか……
そう思ったタイミングで――
バタン、バタン……
車のドアの音が響いた。
「ここかぁ……デカいなぁ。」
「おい、リツ、手袋とマスクしろよ。」
「おー、サンキュー」
二人の男性の声が聞こえてきた。
(やっと来たか……)
さて、どうしたものか……。
今の吾輩の身体は真っ白だ。
目の前に現れれば、神の使いに見えなくもない……。
(うーん……)
姿を現そうか、隠れていようか、迷う。
悩んだ挙句、とりあえず様子を見ることにした。
「靴は脱がなくてもいいかなぁ」
「むしろ脱いだら危ないだろう。このまま行くぞ」
そう言うと、二人は玄関の鍵を開けて中に入ってきた。
「ホコリがやばい、歩くたびに舞い上がってるじゃん」
「もう何十年も人が住んでないみたいだからなぁ……あれ? おい、アレ見てみろよ」
二人は縁側の板に目を向ける。
「何かの足跡だ。うちのノアと同じくらいの大きさか。猫が入ってきたんだろう」
(正解! まぁ、猫又なんだけどね)
「祖父さんが言ってたのって、何だっけ?」
「祖父さん自身もうろ覚えみたいだったな。
『昔からの言い伝えがあったみたいだ』って言ってただろ。
まだ小さかった頃、曾祖父さんから聞いたような気がするって」
「で、最近になって毎晩夢にうなされるようになり、思い出したってことか」
やはり、この二人の祖父の代には、もう引き継がれていなかったようだ。
「祖父さんが思い出したのは、神棚だって。
今、全部の部屋を回ったけど、それらしいものはないなぁ」
「そうだな。祖父さんの勘違いだったってことだ。
じゃ、帰るか」
(うぉーいっ、諦めるの早すぎだろー!)
帰られたら元も子もない。
吾輩は玄関方向へ先回りして、チョコンと座って静かに待った。
「うわっ、びっくりした!
猫だ。
お前か? この家に住んでいるのは?」
「ニャー」
と、究極可愛く小首を軽く傾けて鳴いた。
(さぁ、ひとたまりもないだろう)
元々猫を飼っている家だ。猫好きに決まっている。
二人とも心臓を鷲掴みにされたことだろう。
「こんなホコリまみれの家なのに、綺麗な毛だなぁ。艶々じゃん」
「ホントだ。ここに住んでるわけじゃないんだな。散歩コースか」
(? 思ったほどの反応じゃない……)
黄色い歓声が上がるかと思っていたので、なんだか面食らってしまった……。
(ウ、ゥォホンッ)
気を取り直して、二人の足元にすりすりと身体を押し付ける。
少し歩くと、目で『付いてこい』と合図し、後ろを振り返った。
座敷童の部屋まで案内すると、そこに座り
「ニャー」と一鳴き。
そして一度部屋を出て、巻物を咥えて戻ってきた。
その間、二人とも白い猫の不思議な動向を目で追い、じっと見つめている。
二人の足元に巻物を置いた。
しばらく、二人は足元の古びたそれを見つめていたが、やがて視線を上げ、互いの顔を見合った。
金縛りにでもあったかのように、体は動かせない。
「ニャー」と声をかけると、ビクンと肩を震わせ、吾輩の顔を見た。
(早く見ろやコラッ)
という目を向け、前足で巻物をチョンと触ってみる。
「お、おい、ガク、お前それ、広げてみろよ」
「えっ、なんで俺? リツの方が歳上じゃんか。これは兄の役目だろう」
(どっちでもいいよ。じゃぁ、兄、お前やれ)
と言いたい顔で、リツと呼ばれている方をじっと見つめる。
ゴクリッ。
リツは唾を飲み込み、
「よしっ」
と小さく発して、巻物に手をかけた。
ペラペラ…
と、巻物がゆっくりと伸びていく。
「えっと…もう薄くなってて読みにくいなぁ。字もなんか達筆な感じだし…。
『此の家に座敷童をお祀りし、後の世に伝え継ぐこと、絶えさすべからず。
其の事、子孫にて守らんことを厳に誓うべし。
富をもたらす者にして、家を栄えしめんと欲する者、これを尊び、敬うべし。
されど、己が為のみと心得ることなかれ。
代々、誤りなく伝え参らせよ。』
んーと…この家に…」
「おい、ここ、『座敷童』って書いてないか?」
「ホントだ。お祀りして…」
「それを代々、後世に伝えていくこと…。
絶対に途絶えさせてはならない…かな」
「えっ、そんなの初耳じゃん。途絶えてる…これ、やばいやつじゃね?」
「やばそうだよね。」
(やばいやつだよ。)
「じゃあさ、祖父さんが言ってた神棚はどこにあるの? この様子なら絶対にあるはずだよね。」
二人は困った顔で見つめ合った。
リツが吾輩を見る。
「ねぇ、白猫さん。もしかして神棚がどこにあるか知ってるかな? なんつって。」
猫が教えてくれるわけないかと笑っている。
(教えてやろーじゃないのー。)
吾輩は「ニャー」と鳴き、付いてこいと目で合図して歩き出した。
「これ、また付いてこいって言ってるよね?」
二人は後ろからついてくる。
あらかじめ箒の場所は確認済みだ。
吾輩は前足で箒に触れ、二人に「手に取れ」と伝える。
「箒…。」
背を向け、また少し歩き、付いてこいと視線を送る。
「えっ、ここじゃないの? また付いてこいって言ってる…。」
「なぁ、これって箒を持ってこいって言ってない?」
「ニャッ」(正解)
と短く鳴いた。
「そうだって言ってるみたいだよ。それ、持って行ってみよう。」
「あ、あぁ。」
ガクは箒を手に取り、歩き出した。
吾輩はそれを確認すると、また座敷童の部屋に戻る。
「なんか、あってそうだね。」
そんな声が後ろから聞こえた。
さて、問題はここからだ。
人間たちは、壊すことに躊躇するだろう。
(天井を壊せって、どうやって伝えるかだなぁ…)
座敷童はお手玉で遊んでいる。
ニコニコしながら、たまに吾輩たちに目を向ける。
(お手玉を天井にぶつけるか…。いや、どうやってあそこまで上げられる?)
うーん、うーん…としばらく考えていると、
「で、白猫さん、この箒どうしたらいいの?」
と、のんびりした声で聞いてくる。
(もう、静かにして!)
足を踏み鳴らした。
(?…これだ!)
そう思いつくと、サッと走り出し、天井の穴から屋根裏に上がる。
神棚の下の天井を思いっきり踏みつけた。
ドンッ!
とすごい音が響き渡る。
同時に、人間たちの
「うわーっ!」
という声も響いたが…。
何度か踏みつけると、天井の木がバリバリと音を立て、吾輩も一緒に下へ落ちていった。
まぁ、なんてことはない。
クルリと体勢を立て直し、10点満点の着地を決める。
孫たちは、恐怖に震えながら抱き合っているようだ。
まずは二人を落ち着かせなければと、二人の前で優雅に毛繕いを始めた。
(ほら、吾輩の可愛い仕草に癒されてみなさいよ。)
落ち着いてきたのか、二人は辺りを見回し始める。
吾輩が開けた天井を、ポカンと見上げている。
しばらくそのまま、静かな時間が流れた。
突然、ガクが立ち上がり、箒を握る手に力を込めた。
そして、おもむろに天井の穴へ、箒の柄を突き上げていった。
「お、おい、どうしたんだよ、ガク。」
弟の気が触れてしまったのかと心配したのか、兄は声をかける。
「あっ!」
弾けるようにガクが声を上げた。
「リツ! あそこに神棚がある!」
「えっ?」
リツがスマホのライトを天井の穴に向ける。
「ホントだ! 神棚がある!」
おぉーっ! 二人で歓喜の声を上げた。
リツはもう一度スマホを操作し、祖父さんに報告しているのだろう。
ガクは
「白猫様〜、ありがとう。」
となぜか両手を合わせ、拝み出した。
これで、座敷童は救われるだろう。
童歌に合わせてお手玉をする座敷童に目を向けた。
(これで一件落着)
鼻歌混じりで商店街に向かうと、
(? あーっ、
一件落着じゃない! 目的は大間のマグロじゃないかー!)
「ニャオーン」
と、辺りに吾輩の悲痛な叫びが響き渡った。
吾輩は猫又である。名前は死ぬほどある。
知略と行動力を併せ持つ猫。
そして何より so kind なのである。
吾輩は猫又である 〜総集編〜 @hachio_haru
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