#3

一度町を歩けば、町中の人間たちが吾輩に釘付けになる。


口々に「綺麗な猫」「可愛い」「美しい」と称賛の声を上げる。

今日もまた、大漁の貢物が差し出された。


施しとして、この艶やかな毛並みを少しだけ触らせてやったり、

コテンッとお腹を見せたりすれば、

ハートを撃ち抜かれた人間たちから、ため息が漏れてくる。


さすが港町とあって、食べ物はうまい。


この辺を縄張りにしている地域猫から、じとっとした視線が向けられるが、

(申し訳ない。格が違うのでね。)

と、気にしない。


(さてと、座敷童のところへ行くか。)


お腹が満たされ、眠くなった目をなんとか開けながら、

かつて豪邸だった平屋へ向かった。


座敷童は今日も、童歌を口ずさんでいた。


「猫又、来てくれたのね。

 今日は何をして遊びましょうか?」


「追いかけっこなんてどうだろう?」


座敷童は、ぱっと明るくなるような笑顔で

「楽しそう。」と言った。


「それじゃぁ、捕まえるわよ、猫さん。」


そう言って、両手を広げて追いかけてくる。


(捕まるわけないけど……

 もう少しで捕まえられると思わせてあげるのが、ミソなのだ。)


「あー、惜しい。

 今、少し毛を触れたのに。」


そう言って、悔しそうに――でも、とても楽しそうに追いかけてくる。


吾輩は、少し逃げる範囲を広げてみた。

間続きの隣の部屋へ移動すると、

座敷童はピタッと走るのをやめた。


そして、小さく寂しそうに笑いながら、

「ここから先は、行けないの……。」

と言った。


(やっぱり……。思った通りだ。

 座敷童は、この部屋から出られないのだ。

 何か結界のようなものがあるのかもしれない。)


座敷童は、富を運ぶ妖怪だ。

どの家でも、座敷童を迎え入れたいと思うだろう。


この家が裕福だったのも、座敷童を丁重に祀っていたからなのだろう。


でも、今、この家には誰も住んでいない……。

衰退してしまったのだろうか。


いや、座敷童がいる家でそんなことは起きないはずだ。

富を得た人間は、どうするか……。

(別に、移り住んだのかもしれないな。)


それでも、座敷童はここに居続けている。

代替わりの間に、座敷童を祀っていたことの伝承が途絶えてしまったのかもしれない。


この家には、きっと座敷童を留めてしまう何かがあるのだろう。


それから毎日、座敷童のところに通い、

遊びという名の拷問を受けつつ、

家中の壁や本を調べ始めた。


(目立つところには見当たらない……。

 どこだ……。)


150年前の記憶を引きずり出す。


(この家、どことなく違和感があるんだよな……。

 前とは違う……)


もちろん、かなりの年月が経っているのだから、

電化製品の進歩により家具や内装はだいぶ変わっている。

でも、こう……なんていうか、

建物自体に、何か違和感がある気がする……。


違和感の正体がわからないまま、数日が過ぎた。


今日も町のランウェイをモデルウォークで歩く。

ここの人間は、吾輩に「ミルク」と名付けたようだ。


「ミルク、おはよう。鰹節食べる?」

「ミルク、チュール食べるか?」


「チュール」というワードが聞こえると、

グルッと声のした方へ顔を向ける。


(チュール!

 人間はなんとも魅力的な貢物を作ったものだ。

 褒めてつかわそう。)


そう思いながら、桜の花びらのような舌でいただいた。

このペロペロ舐める仕草が、どうやら好ましいらしい。

ホント、人間とは変わった動物である。


商店街を抜けると、吾輩の真っ白い身体は、景色の雪と同化してしまう。

座敷童のいる家は、雪の重さに潰されてしまいそうだ。


外から改めて見ると、この平屋は二階建てかのように屋根が高い。

室内に入ると、普通の家と変わらないのに……。


(そうか、違和感の正体がわかったぞ。)


答え合わせを急ぐかのように、足を早めて中に入った。




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