#2

目の前には、大きな平屋の家が建っていた。


(……まだ、そこにいるのだろうか。)


久しぶりの再会を期待しながら、吾輩はその家の敷地へと足を踏み入れる。


(? おかしい……。

 人間の生活の匂いがしない。

 ――もう、住んでいないのか。)


近づいてみると、木枠はところどころ朽ち、ぼろぼろになっていた。

屋根からは緑の植物が伸び、生き生きと育っている。


家の中に明かりはなく、

生きている気配も、まるで感じられなかった。


大きな家を、ぐるりと一周してみた。

やはり、人間は住んでいないのだろう。


(はぁ……。

 ここは裕福な家だったから、ご馳走にありつけると思ったのになぁ……。)


そう考えていた、そのとき。

吾輩のギザギザの三角耳が、微かな音を捉えた。


(……歌、だ。)


耳を澄ますと、

童歌が、確かに聞こえてくる。


割れた窓から、室内へと身体を滑り込ませる。

柔らかな肉球に、細かなガラスの破片が張り付いた。


(危ないなぁ……。)


片足ずつ、フルフルと振りながら歩を進める。


長い年月、この家は主を失っていたのだろう。

かつてあったはずの生活の匂いは消え、

カビの気配すら乾ききって薄れ、

残っているのは、積もり続けたホコリの匂いだけだった。


間取りは、なんとなく覚えている。

迷うことなく、目的の場所へ辿り着いた。


「久しぶりだな、座敷童。」


そこには、着物を着た小さな女の子がひとり、

畳の上に、ちょこんと座っていた。


「うわ、久しぶりね、猫又。

 百五十年ぶりかしら。」


「うふふっ」


そう言って、

座敷童は本当に嬉しそうに、微笑んだ。


「また、前みたいに遊んでくれる?」


そう言って、座敷童は小さな鞠を手に取った。


(……そ、それは!?)


座敷童は、鞠を一メートルほど先へ転がす。

次の瞬間、吾輩は反射的に駆け出していた。


――悲しいかな、猫の習性というものは抗えない。

動くものを追ってしまうのだ。

いくら情けない姿だと思っていようとも……だ。


ぜぃ、ぜぃ、ぜぃ……。

肩で息をする。


(つ、疲れた……。

 こんなに動いたのは、久しぶりすぎる……。)


一方で、座敷童はというと、

ずっと楽しそうに笑っている。


「次は、何をして遊びましょうか?」


そんなことを、何の悪気もなく言うのだ。


――これだから、子供というものは恐ろしい……。


「いや、今日はもう帰るよ。

 さっきこっちに来たばかりだからね。」


「そうだったの。

 猫又、明日も遊んでくれる?」


座敷童の顔は、無邪気そのもの。

だが、どこか、ほんの少しだけ悲しさも滲んでいた。


温かい場所を求めて歩きながらも、

吾輩の頭の中は、座敷童のことでいっぱいだった。


(いつから、あの子は一人でいるのだろう。

 普通なら、家が寂れれば、座敷童は次に財を成す者の元へ移るはず。

 なのに、なぜあの場に居続けているのか……)


しばらく、様子を見に行くことにした。

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