#4
天井をグルリと見渡す。
(上に上がれそうなところは……ないか……)
そのまま視線を落とし、自分の身体を見渡す。
(このモフモフ毛皮じゃ、ホコリ取りの箒になるだけだな……)
そう言うと、みるみるうちに姿が変わっていく。
大きな身体に、二つに分かれた二又の尻尾がユラユラと揺れている。
気配を感じたのか、天井裏でバタバタと音がした。
ネズミたちが逃げ出しているのかもしれない。
「ワン、ワン、ワン」
外では犬が鳴いている。
「猫又、来てるの?」
と座敷童の声がした。
尻尾で天井の板をグッと押すと、バリバリと音を立てて穴が空いた。
その穴から、天井裏に入る。
辺りは、一筋の光も差し込んでいない。
真っ暗な中、視線を這わせる。
(思った通りだ。)
昔、この家の天井はもっと高かったのだ。
吾輩がこの地を去ってから、寒さ対策で住人がこの下に新しい天井を作ったのだろう。
座敷童のいる部屋の天井裏にやってきた。
そこには、豪華な作りの神棚が、昔と同じように静かに佇んでいた。
(これだ……。座敷童をここに留め続けているものは……)
これのせいで、座敷童は新しい家に行くことも、消えることもできずにいる。
座敷童は姿こそ子供だが、何百年も生き続けている大妖怪だ。
あのように笑顔でいるが、自分では気づかないうちに、
存在意義を忘れられた悲しみが、確かに根付いていることだろう。
スタンッ
華麗な着地を決めたところで、モフ白に戻る。
(さて、ここからどうするか……)
座敷童はしばらく、外の世界を知らずに過ごしている。
きっと、自由になれるという発想すら、もう無くしている。
ただただ、あの部屋に居続けるのだろう。
吾輩にとって座敷童は、見知った間柄だ。
人間たちがよく口にする「友達」という関係が、一番しっくりするだろうか。
(妖怪の世界には、友達という概念はないが……)
座敷童を、ここから解き放ってあげたい――
素直に、そう思った。
座敷童のところへ行くと、お手玉で遊んでいた。
「座敷童、お主はいつから一人でいるのだ?」
座敷童は真っ直ぐこちらに顔を向け、少し首を傾げた。
「ほんの100年くらい前かしら…。」
100年前……。
人間たちは、この100年の間に三代ほど代替わりしていることだろう。
座敷童の存在は薄れ、天井を作った時点で、すでに忘れ去られていたに違いない。
祀ったのは人間だ。
吾輩には、どうしてやることもできないのか……。
ここにきて、初めて自分の無力さを知った。
それでも、何か役に立つものがあるかもしれない。
これだけ立派な神棚を作ったのだ。
後世に知らせるための何かが、残されていてもおかしくはない。
来る日も来る日も、埃まみれの本を読み漁る。
天井裏にも何かあるかもと、もう一度登ってみた。
よく見ると、神棚の隙間に何かが挟まっている。
二又の尻尾で器用に引っ張り出すと、ホコリで二回りほど大きく見える巻物が出てきた。
(咥えたくないな……)
そう思い、天井の穴までコロコロと転がす。
二つの尻尾で挟むと、そのまま飛び降りた。
尻尾をブラシ代わりにしてホコリを叩き、モフ白の姿に戻ることも忘れて、巻物を伸ばしていく。
「これだ……」
そこには、座敷童を祀っていること、
そしてそれを代々受け継いでいくことが、はっきりと記されていた。
(なぜ、こんな大事なことを引き継いでこなかったんだ……)
人間とは、つくづく身勝手な生き物だ。
良いことがあれば神のおかげだと崇め、
悪いことが起これば、なぜ救ってくれなかったのだと神を責める。
神も妖怪も区別がつかず、
挙げ句の果てには、こうして妖怪までも結界の中に閉じ込めてしまう。
そして――用がなくなれば、忘れ去る……。
常に、自分たちのことしか頭にないのだ。
(さてと……)
家探しをしていて、ひとつ分かったことがある。
それは、この家族の引っ越し先だ。
埃まみれの古い年賀状の中に、八戸の住所と差出人の名前が書かれたものを見つけた。
手書きで、墨の色も少し褪せている。
どうやら、こちらに移り住んでほしいという意図で送られたらしい。
(ここの住所の様子を、見に行ってみるか……)
座敷童に、数日留守にすることを伝えると、吾輩は八戸市へ向かった。
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