#2

ドアロックを外して車外へ出た。

トラックに乗る前に感じていた、身体中にまとわりつく空気中の水の粒たちも、

ここでは執拗に立ち上ることもなく、爽やかな風が吹いていた。


慣れ親しんだ場所へ向かう途中、旧軽井沢銀座を通り抜けようとした。


「なっ、なんだ ここはー!」


人間・人間・人間! どこを向いても片手に食べ物を持ってスマホにポーズをつけている。

しかも、日本語はほとんど聞こえず、英語、中国語、韓国語、今までに聞いたことがない言語まで頭上を飛び交っている。


たった十数年、この地を離れただけで別の街へと変貌を遂げたようだ。


(まさか、住宅地までは変わっていないよね……。)


祈るような気持ちで、裏路地へと入っていく。


小洒落たバターやバニラエッセンス、

人間たちのコスメが混じった香りから、

白樺の幹の匂いと、庶民的な醤油や味噌の香ばしい匂いへと変わってきた。


記憶が戻る。当時のまま。


西陽に照らされた鳥居の影が、長く伸びていく。


眠るための神社の境内には、先約がいるだろうか……。


変わらないでいてくれた風景でも、

生きるものたちは、変わっているだろう。


影は闇の中に溶けた。


今日は安心してこの境内で眠れそうだ。


✳︎


東の山の頭が薄い輪郭を浮き出してきた頃、


「待てコラーっ」


とトタトタと走る足音が響く。

この辺りに野良猫はいないのか、ネズミが大きな顔をして歩いていた。


追いかけずにはいられない!


………

「オホンッ。」


(さて、街のパトロールに出かけるか。)


家々は朝ごはんの用意が始まる。


吾輩がひとたび「ニャオーン。」と鳴けば、人間たちは貢物を差し出す。


顔馴染みもいる。


「あれー、シロじゃない、久しぶりねー。」


「おー、タマ。お前、どこに行ってたんだ?」


(次の家は…っと。)


まさじぃの家だ。

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