第二章 夏毛編

吾輩は猫又である。名前は死ぬほどある。


行きつけの魚屋では「タマ」と呼ばれ、公園を歩けばガキンチョたちが「ミー」と呼んでくる。最近名前コレクションに新たに加わった名は「きなこ」である。


連日の雨で、自慢の髭がしんなり下向きになってしまう時期もそろそろ終わりを迎える。


「さてさて。そろそろ引っ越しするかな。

函館のホッケか、佐渡の鯵か…。」


避暑地と旬の魚の組み合わせを色々考える。


「よし、決めた! 軽井沢の鮎にしよう。」


大型トラックが停められるスペースのあるコンビニエンスストアに向かった。

ここには色々な県から来ている長距離トラック運転手が休息を取っている。

 

「えーっと、長野、長野…っと。」


数日間、この駐車場を見張る。


(おっ、きたきた。長野のナンバープレートだ。)


人間が車から降りる隙を狙って、車内に飛び込む。


(よし、成功。

いい感じに物が溢れかえってゴチャゴチャしている。これなら、モノに紛れて見つからないだろう。)


こうして吾輩は、日本全国津々浦々、どこにだって行くことができるのである。


「バタン。…ガタン…。」

車が大きく振動した。


(………? 


静かになった。着いたかな…。)


背中に乗った衣類や物の間から運転席を除く。


「誰もいない……な。」


身体を一度山なりにしてからその場に座る。


「ふわぁ…っ。」


大きなあくびをした。


窓から外を観察する。


「ここは…っと。」


辺りを見回しても、トラックや高く積まれた段ボールと、都会とは違う緑色を多く使っている景色以外目に入らない。


「ここからじゃぁ、無理か…。」


そういって、ギザギザにキレた誇り高き耳に意識を集中する。

木々が揺れる音がメインだったところから、だんだんと車や人間の発する音が多くなり、やがて電車の音が聞こえ出す。


「……ざわー、かるいざわー。」


(聞こえた!)


「当たり!

さすが吾輩。一回で軽井沢まで来れた。」


サイドミラーに自分の姿が映っている。


(さて、衣替えをしますか。

ここに来たのは、いつだったっけなぁ…。)


古い記憶を引っ張り出す。


「あー、つい最近きてるんだった。

10年くらい前だ。

確か、白猫だったよな。

鼻と…肉球は確か…

ピンク!」


そう言うと、全身が激しく震え出す。

みるみる三毛だった毛色は白へと変化した。


「おっと、遊びこごろなんて言って、尻尾の先っちょだけ黒にしたんだ。


もう一度、サイドミラーに視線を戻す。

そこには、もふもふの毛皮を脱いだ、シュッとしたスタイルの白猫が映っていた。


細く長い尻尾を左右に大きく振る。

そして、座っている足元に巻き付けた。

さすがオシャレ番長、この差し色がキマッテいる。


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