第七話 夢をつぐもの

 初めて乗り込んだMFのコックピットは、思いのほか広かった。


 コックピットのハッチが閉まって、モニターに色々な文字と情報が流れてる。

 コックピットは機体の背中にある。中には座席が一つと、左右の操縦桿。足元にはペダルがある。

 周囲は全面がモニターになってて、外の世界を鮮明に映してた。って言っても、ただのジャンクヤードなんだけど。


 こんな大きいロボット、自分に動かせるのか不安だけど、昨日だってパイロットなしで戦闘してたんだから、大丈夫よね。


『――操縦は私がやる、あなたはイメージして』

「イメージって何を?」

『空を飛んだり、戦うイメージ。そうすれば、その通りに機体は動く』


 それは私の仕事なんだ。

 ……大丈夫、アイリスを助け出す為。私もやるって決めたから。


「ねえ、LMF-0って呼びにくいんだけど、何か名前ない?」

『アネモネ』


 あー、そうなるのね。

 アネモネが立ち上がる。コックピットの揺れに、操縦桿を握る手がこわばる。


「大丈夫。大丈夫だから……」


 アイリスを助けるんでしょ。

 ……でも、手の震えが止まらない。

 右手を胸に当て、落ち着かせようとしても、体は言うことを聞いてくれそうにない。


 次第に呼吸も早くなっていって、逆に笑えてきた。

 ははっ、どうしよ……どうしよう。

 やっぱりだめ。前を見るのも怖くなってきた……目を開けてられない。


『レナ――』


 頭に浮かんだ。アイリスが私を呼ぶ声。

 自然と手の震えが収まっていく。

 恐る恐る目を開けると、いつもよりずいぶんと高い目線で見る、いつも見ていたはずの世界があった。

 正直、怖い。でもなんでだろ、今ならどこへでも行ける……そんな気もする。


『――大丈夫かい、レナ?』

「大丈夫ではないかも……だけど」


 アイリスが待ってるんだから。


「行こう、アネモネ!」


 私の声に応えるように、機体が動き出す。

 既に足が地を離れ、宙に浮かんでいるらしい。


 加速が掛かって、座席に押し付けられるような感覚が強まっていく。

 コックピットからしか様子は分からないけど、下を向けばどんどん地面が離れていくのが分かる。上を見上げれば空に吸い込まれていくよう。

 そんな風に思ってる間に、街はミニチュアみたいに小さくなって、雲すら突き抜けていった。



―Do the Android Dream of the Girl? Episode7 : The Dreamer―



 雲の上の空は、眩しかった。

 どこまでも晴れ渡っていて、何の境界もない。

 太陽が全てを照らして、空も、地面のように広がる雲も、その光を全身に浴び、輝いて見えた。


 私の生きている世界の上に、こんな世界が広がっているんだって、初めて知った。

 その世界を高速で駆け抜けていると、次から次へと雲が後ろへ流れていく。

 空を飛ぶって、こういう感じなんだ。


 瞬間、視界を切り裂くように一筋の光が昇った。


「なんなの――っ!?」


 咄嗟に機体を傾け、背後を見ると遠くにいくつか黒い点が見えた。

『軍のMFが多数いる。戦うよ、レナ』

「軍のMFって……、もうこっちの動きに気付いたっていうの。早すぎない?」


 私たちの動きが把握されてた可能性は……ないでしょ、私たちを泳がせたって軍の人間が得するわけないんだから。

 ……ああだめね、考えてたってしょうがない。

 軍のMFが少しずつ距離を詰めてきてる。


 戦うしかない……、そうは言ってもどうすれば。

 昨日のアネモネは何をやってた?


「ねえアネモネ、あのレーザーは?」

『――任せて』

「任せてって……えぇ!?」


 機体から後方に伸びていくレーザーが、幾条もの光の線を空に描きながら、軍のMFを襲うのが見えた。

 レーザーってあんな風に曲がるんだ……。


 いくつかの機体が爆発する中、華麗に躱して向かってくるのもいる。

 あの爆発した機体のパイロットって……どうなるんだろ。

 もう、死んじゃったのかな。

 考えれば考えるだけ、操縦桿から手を放したくなる。


 ……知らない。しらないしらない――しらないしらないしらないしらない……。

 先に撃ったのはあっちなんだから。だから、しらない。しってたまるか。


 ……何?

 警告音がコックピット内に響いてる。

 急に機体が揺れ、下へ、そして上へと急上昇しながら加速してる。

 軍のMFの方を見ると、さっきと違ってレーザーを連射しながら追いかけてきていた。

 こっちは機体から振り落とされそうなくらいの衝撃の中にいるっていうのに、相手も速度を上げて食らいついてきている。


 何度かレーザーを発射してるっていうのに、それをことごとく避ける一機の軍のMFがいる。


 一機……また一機。

 他のMFが墜ちていくのに、あいつだけが墜とせない。

 ほんと何なの、あいつ。戦争してるわけでもないっていうのに、あんなにうまく操縦なんかしちゃって。


『目的地まで、もう少し』


 そう言ってアネモネは高度を下げ、また雲を、今度は下に突き抜けていく。

 雲の先には、海が広がってた。

 視線の先には目的地。アイリスを閉じ込める要塞。軍の研究施設。


 私たちの後ろには、さっきの軍のMF。

 海面スレスレを飛行する機体が、水しぶきに包まれてる。

 すぐ横をレーザーが何度も通り過ぎていく。いつこっちに当たるかわかんない。

 さっきから海の音もレーザーの音も、うるさくってしょうがない。


「どうするアネモネ、このままアイリスのところまで突っ込む?」

『任せるよ』

「任せるってなによ、こんな時に――。でもじゃあ、突っ込む!」


 追いかけて来るMFを無視して加速を掛け、軍の施設に……って。

 目の前に壁が迫ってきてる!


「待ってよアネモネ、体当たりは聞いてないんだけど!」

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