第四話 夢のおわり

―Do the Android Dream of the Girl? Episode4 : The End of The Dream―



「もう、タイムリミット……なんですかね」


「……なに、どうしたの?」


 ゲームセンターを出た私たちは、次の場所に向かおうとしていた。

 そんな時、アイリスは群衆の中で、一人立ち止まった。


 アイリスの視線の先には、軍服を着た男たち。

 その人たちは電話か何かで話しているような軍人も。

 本部に何かを報告してるって訳ね。


「軍の連中よね……、場所を変えましょ」


 ……アイリス?

 立ち止まったまま、アイリスはうつむいていた。


「もう、いいんです……これ以上レナに迷惑はかけられません」

「迷惑って、そんなこと――」


 ザァっという、風の揺れる音とともに、空から光が差し込む。

 咄嗟に上を見ると、こちらを照らしているのは軍のヘリだった。

 ヘリの音が、喧噪をかき消していく。


 もう場所なんてバレていた。

 逃げ場なんて、なかった。


 空から降りてきた軍のMFが、ゆっくりとその手をこちらに差し出す。

 アイリスに、乗れと言っている。


 私は無意識のうちに、アイリスの手を握っていた。

 もう、アイリスとは一緒に居られないの――?


 キィィィィィィィィ――――ァァァァァァ!

 耳を突き刺すような甲高い、金切り音のような、叫び声のような音が響くと同時、一筋の光が空を切り裂いた。


 遅れて強い風が吹くと、周囲のビルの窓が一瞬にして揺れる。


 ――そして光は、地上に舞い降りた。


 スクランブル交差点のど真ん中、光の正体は、一機のMF。

 その機体は白く、今までに見たことのない、機械なのに、どこか生物的な姿をしていた。20mを超える、白いMF。


 白いMFに気が付いた軍のMFが、立ち上がった。

 しかし、走り出した白いMFからタックルを食らい。よろけた軍のMFはビルの外壁を粉々にし、窓ガラスの破片が地上に降り注ぐ。


 逃げ出す人々、動画を撮影する人。けどみんな恐怖を感じたのか、次第に人は離れていく。


 軍のMFが動きを止めたことを確認すると、白いMFの各部に流れる緑色のラインが光る。

 すると、光ったラインから幾条もの光が空に伸び、軍のヘリを襲った。


 一瞬の事で何が何だか分からなくて、ヘリが爆発した光が、花火のように見えた。


 ――白いMFは、一体何なの?


 今度は切り落とされた軍のMFの腕が、火花を散らしながら宙を舞う。

 脳を揺らすような大きな音と振動とともに、巨大な腕は地に墜ちて、同時に私の頭も真っ白になって、ただ茫然とその光景を眺めるしかなかった。


 何が起こっているの――。


 ビルに倒れていた軍のMFは、いつの間にかバラバラになって。爆発して。

 すると、次から次に軍のMFがやってきて……。


「何……何なの……。ねえ、アイリス――」


 アイリスを握る手に力が入る。


「動くな、IR-15。お前は既に包囲されている」


 周囲を見ると、私とアイリスは銃を構えた数人の軍人に囲まれていた。


「私は動きませんよ」と、感情のこもっていない声でアイリスは言う。


「そちらの一般人を解放してもらう。いいな」

「はい。ご自由にどうぞ」


 さっきまで繋がっていた手が、アイリスによっていとも簡単に解かれた。


「ねえ、アイリス、…………アイリス?」


 話しかけてもアイリスは表情一つ変えない。

 そして、私の言葉は予想外のものに遮られた。


「私はアイリスではありませんよ、人間さん」


 微笑むアイリスの表情とは裏腹に、その声も瞳も、ずっと遠くなっていた。

 なんで、どうしてそんな表情をするの。


「……もっと、レナと遊びたかったな」


 ――アイリス?。


「さあ、こちらへ。ここは危険だ」


 一人の軍人に手を引かれて、アイリスから離される。


「いや、でも……」

「言ったはずだ。これ以上踏み込まない方がいいと」

「え……」


 その言葉もその声も、聞き覚えがあった。

 あの時、ジャンクヤードで聞いた……。

 軍人の顔を見ると、それは確かにジャンクヤードで会った軍服の男だった。


 男に連れられ、私は何も出来ずに軍人の包囲を抜けると、街が静けさに包まれていることに気が付く。


 それだけじゃない、あの時と同じように、世界が霧がかっていてよく見えない。

 だけど、男の顔だけは見えた。

 怒ってて、でもどこか悲しそうな。そんな表情をしていた。


「君はどうして、あの子を助けようとするんだ」

「どうしてって、そんなの……」

「なんとなくや、ただの正義感で踏み込んでいいものじゃない、踏み込むべきじゃない」


「でも、アイリスは――」


 私は彼女と一緒に夢を――。


「アンドロイドだ。……彼女は一人の少女である前に、アンドロイドなんだ。それも、軍の」

「そんなこと、わかってる」


 アイリスはアンドロイドで、軍から抜け出してきて……それで……。


「分かっているから何だ。君に、君一人で何ができる」


 ……なんで。


「なんでそんなこと言うの」

「……もう時間か。君にひとつだけ言っておく。……彼女の事は忘れろ」


「――ッ」

「君に、それでも救いたいと、そう言えるだけの意志がないなら」


 ――もう一つ。君が傷つけば、彼女も傷つくことを忘れるな。

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