第三話 夢のもりびと

 咄嗟にアイリスの手を掴んで走り出しちゃって、ほんとどうしようって感じだった。


 わかんないけど、わかんないけどッ――。


 駅に駆け込んで、人の波が止まって見えるくらい走って、息が切れそうな状態で路線図を端から端まで見て、どこに行けばって考えてた。


 どこに行けば、アイリスは楽しいままでいられるのか。

 どこに行けば、私はアイリスといられるのか。

 もっと人混みに紛れて、もっと人の目につかない、いっそのこともっと遠くまで……。


 なんだか悪いことした後の犯罪者みたい。


「……ここ、聞いたことがあります」


 アイリスが一つの街を指さしたのをきっかけに、私たちの小さな逃避行ははじまる。


「行こう、今すぐ」



 夜だから、仕事帰りに繁華街に遊びに行く人たちが大勢乗り合わせてた。

 私としては、むしろアイリスが軍に見つかりにくくなるから好都合。


「どうしてレナは、わたしにここまでしてくれるんですか?」

「なんでだろ、わかんない。ただなんとなく、アイリスの夢を……一緒に叶えたいなって、そう思って」


「夢を、一緒に、叶える……」


 今のアイリス、今日一番に目を輝かせてるかもしれない。

 ほんと、理由なんて私にもはっきりとはわからない。

 ただ、アイリスといるのが楽しいから。それだけかもしれない。


「アイリス、やりたいことない? 何でも言ってよ」

「でも、さっき本も買ってもらったのに」

「いいの。むしろアイリスがやりたいことを、私もやりたいし」

「そう……ですか? じゃ、じゃあ、お花屋さんに行きたいです。あと、ゲームセンター? あと、それと……映画も見てみたいです」


 そう言ってアイリスは映画のポスターを指さす。

 遠慮しないでとは言ったけど、ここまでとは……。

 やりたいこといっぱいあって、なんだか羨ましい。


 それに、うれしかった。

 アイリスが私を引っ張って行ってくれるのが。

 初めて、やりたいことができた気がしたから。



―Do the Android Dream of the Girl? Episode3 : The Guardian of The Dream―



 駅から続く地下街を散策していると、アイリスが生花店の前で足を止めた。

 生花店からは色々な花の匂いがして、それでいて鮮やかで、けどやっぱり私の目には、花を眺めるアイリスが一番眩しく見えた。


「何か気になるのがあった?」


 これです。と言って、一つの花を指さすアイリス。


「一度見てみたかったんです、わたしの名前の由来なので」

「そっか、アイリスって花の名前なんだ」


 アイリスの花を見たのは初めてだった。三枚の花弁の内側から空に手を伸ばすように伸びる内側の花弁。

 花の近くに付けられてるPOPには、説明が書いてあった。


「信じる心と、希望……かぁ」


 私には似合わないけど、アイリスにはピッタリかも。アネモネさんのネーミングセンスに拍手を送りたいくらいに。

 なんて、ボーっと考えてる間に、今度はゲームセンターに行ってみたいというアイリスは、地上へと私の手を引いていく。



 迷路みたいな地下街をアイリスは迷いもなく抜け出して私たちは外に出た。


 夜だというのに外には人がごった返していて、鮮やかに光り輝くビル群の中で、大型ディスプレイには映画の予告が映っていた。少年と少女の乗ったロボットが華麗にミサイルを躱して、虹の光がその機体を包んで……。どんな映画かは知らないけど、希望に満ち溢れている、そんな風に見えた。


 もし私が軍と戦うことになったら、アイリスを守りきれるのかな。

 アイリスは、どうしたいんだろう。外の世界を見たら、施設に戻りたいのかな。

 まだ、何も知らないんだ、私。


「レナ、どうしたのですか? もう信号は変わってますよ」

「え、あ、ほんとだ。ごめんごめん」


 みんなスマホを見てて、アイリスだけが景色を見てる。

 私たちの当たり前が当たり前じゃない、それってどんな気持ちなんだろう。


 商店街の通りに入ると、すぐにゲームセンターはあった。

 入るや否や、アイリスは興味津々の様子で歩き回る。


「ねえレナ、このぬいぐるみ。とってもかわいいとおもいませんか!?」


 そう言うアイリスが釘付けになってたのは、なんか不思議な、生き物かすらよくわからない白いぬいぐるみだった。

 腕みたいのはついてるし、脚みたいのもある、大きな顔のなんか全体的にずんぐりとした何か。いやわかんないんだけど。確かにその顔見たいのはかわいい……ようなきはするけど。


「これ……かわいい……のかな?」

「わたしは、かわいいと、思います!」

「じゃあ、千円あげる。やってみて」

「やったぁ! ありがとう、レナ!」


 小銭を受け取ったアイリスは、座標がどうとか計算がどうとか。超高速の独り言を言いながらレバーを操作すると、たった数百円でぬいぐるみをとっちゃった。

 UFOキャッチャーとか取れたことすらなかったから、ほんとびっくり。


 こんなところでアンドロイドらしさを垣間見ることになるなんて、思ってもみなかった。


 ――そう、アイリスはアンドロイド。


 そんなこと、忘れそうになってた。

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