第一話 夢をしるもの

 少女は、こちらに気が付くと首を傾げた。


 その瞳は青く輝いていて、透き通るような真っ白の髪、 すごく整った顔立ち。人間みたいだけど、よく出来すぎてるって思った。

 マネキン? なら動いたのが怖いって。それに瞳の輝きは、まるで瞳そのものが光ってるみたいに眩しい。


 少女は、こっちを数秒眺めてからにっこりとほほ笑んだ。


「こんにちは、人間さん」


 そう言って少女は軽い足取りで近付いてきて。

 いつの間にか触れられるくらいの距離に。

 思ったより小さい。私が159だから…・・150あるかないかくらい。


 近付かれると、より瞳の光が眩しいっ、物理的に。

 しかもずっと見つめてくるし、さっきの男といい何なのって感じ。


「あの、すみません。充電が切れそうなので助けてほしいです」

「充電? あー、スマホのね」


 眩しさに目をそらしていると、目を合わせるように視界に入り込んでくる。

 眩しいったらありゃしないんだけど。


「違うんです! 私の充電……あ、自己紹介がまだでした」

「は、はぁ……」


「私はAF-IR-15。AシリーズF型のアンドロイドです。気軽にアイリス

と呼んでください!」

「アンドロイド!? 何それ、映画でしか聞いたことないんだけど。実在したんだ……いやでも、ほぼ人間みたいだし」


 もう驚くとか通り越して、ただただ意味不明の連続。

 アンドロイドって言ってるけど、ほんとは人間かもしれないし。まだわからない。

 あれ、IR-15? どこかで聞いた覚えが……いや、そんなわけないか。


「施設では私のようなアンドロイドがもっとたくさん――、これは企業秘密でした。ぺこり」


 なんで頭をさげるのに「ぺこり」とか言うのよ、無駄に可愛いし。


「一応こっちも名乗っておくわ。私はレナ、七瀬レナ。間違ってもナナナなんて呼ばないでよね」

「はい! ナナナナ!」

「ちょっ――」


 なによ、いきなりふざけだすから、調子狂うじゃない。


「と、とりあえず私は何したらいいの? 充電しないとなんでしょ?」

「えーっと、それはですね……どうしましょう」


 それは私の方が聞きたいっての。


「とりあえず、そこら辺の廃車のバッテリー引っ張ってきて、使えそうなのを……って、どうやって充電するの? Type-C、とかじゃないだろうし」

「大丈夫です! 色々とコネクターはありますので」


 え、ちょ。こっちが答える間もなくアイリスは背中を向けると、背中の一部が開いて、中からいくつものコネクターが露出した。

 ほんとにアンドロイドなんだ……。


「とりあえずやるだけやってみるから、その目のライトだけ消しといて。眩しいから」

「あ、すみません! 今消します!」


「……別に、謝らなくていいのに」



―Do the Android Dream of the Girl? Episode1 : The Knower of The Dream―



 アイリスの充電をしながら、他愛もない話をしてる途中、あの子の目を見た。

 瞳はカメラのレンズみたいで、きれいだけど、機械なのがはっきり見えて、ほんのちょっと怖くて、でも少し面白いって思った。


 アンドロイドか。

 正直、そこにいるんだから理解はしてるつもりだけど、今日初めて見たし、まだちょっと実感ない。


「アンドロイドってもっと無機質で無感情なイメージだったから、やっぱり意外」

「それは仕方ないと思いますよ。実際私みたいなアンドロイド、少ないですから」


 ……他のアンドロイドとは違う。じゃあ、アイリスは何なんだろう。

 どうしてアイリスは、こんなにも。

 それに人間味のあるアンドロイドは少ない、希少ってこと? なら何でこんなところに。


「ねえ、あなたってどこから来たの? もしかして、あの軍とか」

「すみません、よくわかりません。……ということでもないんですけど、秘密です」


 前半分ちょっと機械っぽく言ってたけど、アンドロイド流のジョークってやつなのかな。


「そういえば、あなたの名前。アンドロイドってみんな名前あるの?」

「みんなは大体型式番号ですね。IR-15とかAN-331みたいな」

「じゃあアイリスは?」

「友達が付けてくれたんです。その子はアネモネといって、外の世界の話をしてくれました!」


 あれ、アイリスって施設にいたのよね。施設では、って言ってたし。


「外の世界ってことは、他にもアイリスみたいに外に出るアンドロイドがいたってこと?」

「えーっと、そうなんですけど、そうじゃなくて……。その子は外の世界の夢をみて、その話をしてくれたんです」


「それは、どんな夢?」

「夢で、アネモネはレナという一人の女の子と出会って、他愛ない話をして。最後はレナに看取られながら幸せに眠る――」

「待って!」


 なんで夢の中でアネモネって言うアンドロイドとレナが出てきて、リアルではアイリスと私が出会ってるの?

 正夢? 運命ってやつ? それに何、レナに看取られて、って。これから私がアイリスが死んじゃうのを看取るっていうの?


「あの、レナ?」

「……その夢で、アネモネはどうして死んじゃうの?」


 私はアイリスの両肩に手を置いて、目を合わせて聞いた。

 ほんと、そんな運命は御免だから。


「充電切れです!」

「…………。はぁああ!?」


 なによ、こっちはこれから来るかもしれないアイリスの死を受け入れたり、どうにか回避しようと奔走したり、覚悟決めて何かしようとしてたところだったのに。

 もう回避してるじゃない。心配して損したぁっ!


 ……。

 …………。


「ねえレナ、聞いてもいいですか」

「ん……、何?」

「レナは、どこから来たのですか?」

「学校。ここから歩いて30分くらいの」


 アイリスは目をキラキラさせて、パッと明るい笑顔を見せた。


「いいなぁ、……学校って憧れます!」

「そう?」

「レナは、学校が嫌いですか?」

「まぁ、普通かな。友達とかいないし。そんな面白くはないっていうか」

「なんでです!? レナはこんなにもいい子なのに……」


 そう言ってくれるの、アイリスだけだよ。

 でも、それがすごく嬉しかった。


「聞きたいことなんでも聞いて、アイリス」

「いいんですか! わたし、色々知りたいことがいっぱいあって。ずっと施設の中にいたから……」


 一体その施設ってどこなの。アンドロイドを作れるような場所で、やっぱり軍?

 そういえば朝の事聞きそびれたし……またあとでいっか。


「ねえアイリス、何かやりたいこととか、行きたい場所、ない?」

「えーっと、いっぱい、あります。でもいっぱいありすぎて……」


「じゃあ、行こうよ。二人で」

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