アンドロイドは少女の夢を見るか

とみなが夕

序章 夢をみるもの

 巨大なロボットに乗れたら、あの手の届かない空を飛んで、遠くに見える街にも、行ってみたい場所にもいつだって行けるのかな。

 父の好きなロボットアニメを父の隣で見ていた幼い頃の私は、そんな風に思っていた。



「行ってきます」


 家から出ると、返ってくるのはドアの閉まる音だけ。

 少しため息をついてから、寄り道しよう、と歩き出した。


 私が中学に入った頃から両親は仕事で殆ど家にいない。高校に入った今はもっとひどくて、帰ってきてもずっとパソコンとにらめっこしてる。機密情報だからと言って、仕事の事何も話してくれないし、秘密ばかり、隠し事ばかり、嘘ばっかり。

 そのくせ料理も洗濯も掃除も、家事は全部私に押し付けて感謝の一つもない。


 私の日常には、何の面白いことなんてない。何のために生きてるかもわからない。何もない。そういうの、無味乾燥っていうの? そういう感じが延々と続いてる。


 あー、毎日が退屈。また30年前みたいに地底人と巨大ロボットの戦争とかやってくれた方が、なんだか楽しそう。なんて考えながら登校してた。ま、30年前はまだ生まれてないから、よく知らないけど。


 そういえばあの巨大ロボット、なんて言ったっけ。MF……マシン・フレームだから。あ、MFエムエフだ。 お父さんとお母さんが、ずっと軍の施設で何か作ってるのも、きっとMFそれ


 家が海に近いから、寄り道するときは海が見える場所を選んでみたりする。

 空が曇ってて最悪だけど、それでも十分。海も空もどこまでも続いていて、その隙間から陽の光がほんの少しだけ見えてた。


「いっそ軍からMFエムエフ奪って、あの空の向こう側まで……なんて無理か」


 広がる景色に手をかざして、カッコつけて。自分の馬鹿らしさに思わず笑っちゃった。


――そんな時だった。


「なに、あれ」


 それは流れ星のように、空を横切る光だった。彗星? あれ、だんだんと光が眩しく……っていうか、なんか落ちてない!?


 数秒もしないうちに、ドシャァァン!という大きな音がここまで届いた、墜ちた場所は多分ここからそんなに遠くないはず。

 でも向こうって、もしかして軍のジャンクヤード? えー、お気に入りの場所だったのに。……いやそれよりも何なの、ちょっと気になるんだけど。


 キーンコーンカーンコーン。チャイムの音が聞こえてハッと我に返った。

 あ、やば。私登校中だった。

 ……これから面白そうなとこだったのに。



―Do the Android Dream of the Girl? Introductory Chapter : The Dreamer―



 ……急いで学校に行っても、結局私はひとりぼっちだった。


 授業の内容は頭に入らないし、昼休みは昨日の夕飯の残りを詰めたお弁当で面白くない。午後は学園祭の準備をしてて、みんな楽しそうに話してる。けど何言ってるかなんて、砂嵐みたいにしか聞こえない。


 友達でもいれば少しは楽しいのかなぁ。昔は友達いたんだけど、親が軍の研究者って言ったら避けられるようになって、もう自分から友達作るのもやめちゃった。

 なんで避けられたか最初は分かんなかった。けど考えてみれば簡単な事。軍の施設なんて昔からずっとあって、今となっては何をやってるのかみんな知らない。むしろ兵器を持ったやばい場所、くらいに思ってる。


 軍の方は最近、宇宙進出を目指してるとか言ってたけど、そんなの誰も聞く耳を持ってないっての。


 思い返すと、親が軍に関わってて良かったことなんて一つもなかった。


 ふと窓の外を見ると。灰色の空は、私を拒んでいる。そんな気がした。

 外はずっと薄暗くて、学校の中は明るいのにじめじめしてて、ため息を一つつくたびに、自分が空気に融けていってしまいそうな、そんな感覚。はぁ。


 今日は天気が悪いから遠くが見えない。おかげで黒塗りの立方体みたいな軍の施設は景色の中にない。それだけがちょっと救い。


 あ、そういえば。朝に墜ちてきたのは何なんだろう、彗星か、隕石か。

 外見てたら気になってきた。……よし、行こう。

 


 まだ学校終わってないけど、五限終わりのチャイムで教室を抜け出した。

 どうせあのまま教室いたって、たまに手伝いする以外やることないんだし、それならもっと楽しいことした方が有意義ってもんでしょ。

 それに、みんな楽しんでるのに、私だけ楽しんでないのは不平等だし。


 廊下に跋扈する、休憩時間なのに頑張ってる若人たちをすり抜けて、学校だって飛び出して。

 ――なにか、面白いことがおきる予感がした。


 いつもはため息つきながら行く場所だけど、今日はなんだか楽しい気分でそこに向かう。私のお気に入りの場所、いつも行ってる場所。



 ……ついた。15分くらいは走った。

 軍のジャンクヤード。みんなはゴミ山って呼んでる。まあ、そういうところ。

 MFの腕とか軍の機械のスクラップ、廃車とか、誰かが捨てていった家具とか、もういろんなものがごちゃごちゃで山になってる。そこは一応軍の敷地内。だからほとんど人は来ない。私だってほんとは用もなく入っちゃいけない。


 けど、親が軍の研究者なら私も関係者みたいなものでしょ。って、入り口から堂々と入って行く。ま、別に警備なんていないし。

 でも、朝何か墜ちたなら軍の誰かが来ててもおかしくないかも。ちょっと気をつけよう。


 そうして足を踏み入れたんだけど。あれ、何かがおかしい。

 ジャンクヤードに足を踏み入れてすぐ、視界が何だかはっきりしなくなった。何これ、いつの間にか視界が真っ白に霧がかってる。こんなこと今までなかった。


「それ以上、進まない方がいい」


 えぇ何、誰の声? どこからか男の声がする。

 左右を見ても誰もいない。そうして振り向くと、そこにはどこか見覚えのある服を着た男がいた。


 その見覚えの正体はすぐに分かってしまった。だって、親がいつも来てる軍の服と同じだったから。


「えーっと、誰? どこかで会った?」


 こっちは霧の事もよくわかんないのに、次はよくわかんない男?


「君は、進むべきじゃない」

「いや質問に答え……て」


 同じこと言ってると思ったら、こっちが言いかけたところで霧の中に消えていっちゃたし、霧も晴れたし。何だったの、変態の類?


 もしかして夢? って頬をつねると痛い。夢じゃない……。

 進むなとか言ってたけど、何があるんだろ。むしろ気になっちゃったんですけど。



 …………。

 ちょっとのもやもやと、増していく好奇心を抱えてジャンクヤードを進んでいくと、散乱したジャンクが現代アートみたいに、ただ複雑に転がってた。

 もしかして、朝のが墜ちたのはここ?


 そんなジャンクヤードの最奥で、錆だらけになったスクラップたちの中で。



 ――私は、一人の少女に出会った。

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