第4話 どうやら俺は平凡らしいです
まさか、この国の第一王女に救われるとは思いもしなかった。
ラノベならば、こういう時は逆の立場。主人公が王女を救って……、という展開になるのが一般的だが、どうやら現実は違うらしい。
「それで、あなたの名前は何て言うのかしら?」
「セト・アキトです」
今の所は至って普通の会話であり、どこもおかしなところはない。礼儀正しいし、人間的に好ましい。アカシアはおかしな方とは言っていたが、まだその片鱗は見えていない。
「そう。こんな所で話すのもあれですし、私の家で話しましょう」
ミリアはそのまま森の奥へと進んで行く。そして、俺とアカシアは後ろから付いていった。辺りを見渡してもどこもかしこも同じような木しか並んでいないのだが、ミリアは躊躇することもなく歩いていく。
これが俺ならば、確実に迷子になっていただろう。
歩いて数分経った所で漸く同じような景色から脱することが出来た。
視界にとらえたのは、俺が召喚されたヴァルディオス王国の王城にも劣らぬほどに大きく、立派な屋敷がそこには建っていた。
これだけの大きさならば、王城からでも見えそうなくらいなのでもっと早く気づいていてもおかしくない。だが、なぜかある地点を境に急に視界に入って来たのだ。
「ようこそ、私の屋敷へ」
「で、でかいですね。これだけでかいのに何で見えなかったんだろう?」
それは誰もが思う疑問だった。
これだけ大きな屋敷があるというのにどうして気が付けなかったのか。
もしかすると俺の不注意なだけかもしれない、とも一瞬考えたりはしたが、二度来て気づかないことなどあるだろうか。
「ふふふ。気になりますか? 私が創った魔法の効果なんですよ!」
ミリアは先程までの態度とは打って変わって、無邪気な子供のような輝きを見せていた。
そして、その目を見て俺は確信した。これは絶対にめんどくさい奴だと。
「実はこの魔法は結界魔法の一つで外部からの認識を拒絶する効果があってね。しかも従来の魔法だと城サイズのものは完全には隠せないんだけど、私が創った魔法はそれを可能にしたの! 長年、結界魔法は魔力を薄い壁にしてそれに効果をくっつけるのが主流だったんだけど、私が創った結界魔法は魔力と効果を混ぜ合わせて薄い壁にしたものなんだ。これがね――」
思っていた通りにめんどくさい奴であった。
だいたいあのような目をしている奴は一度語り始めると自分が満足すまで語り終わらないタイプなのだ。前世の俺の親友が同じだったように。
いつまで聞けばいいんだ。そう思った時、流石にしびれを切らしたのかアカシアがミリアの話の最中に割り込んでいく。
「ミリア様。魔法の事で熱くなるのは構いませんが、やるべき事をやってからにしてください。それに勇者殿はまだ魔法のことについてほとんど知りません」
「あ、あら、ごめんなさい。魔法の事となるとつい……。それでは中に入りましょうか。勇者様」
屋敷の門に近づいていくと扉が勝手に開いていく。そして中は真っ白な空間であった。そしてその白い空間の中にミリアとアカシアは何の躊躇いもなく入っていく。すると、その姿は消えていった。
俺だけどっか違う場所に飛ばされたりしないよな、流石に。
見方ではあるけど低確率の不慮の事故とかを平気で引く俺だから、少し怖いな。
そんな心中を察してかは知らないが、ミリアはこちらに早く来るように呼んできた。もうどうにでもなれ、という気持ちで目を瞑りながら屋敷の中に入っていく。
そして目を開けた瞬間、そこは大きな広間になっていた。そして中央の階段まで続くようにたくさんのメイドがその両脇に並んでいた。
「「「お待ちしておりました。勇者様」」」
両脇に並ぶメイドから無機質な声で歓迎される。だが、その声質はどのメイドも同じで、どこか意識が入っていないように見えた。
まるで人形のような、そんな感覚がした。
「家の見張りお疲れ様。休んでていいよ」
ミリアがそう声を掛けた途端、並んでいたメイドは砂のように崩れ落ち、風化していく。そして、それに驚き思わず声を出してしまった。
それがミリアの暴走のきっかけになってしまったのだと気づいた時にはもう既に遅かった。
「気になりますか? 勇者様。特別に教えて差し上げましょう! このメイドは――」
ミリアが暴走しかけたとき、アカシアによって長々な説明が始まる前に終止符を打たれる。その表情は表面上は笑っているようにも見えるが、その内心は決して笑っていないのだと分かるような圧がこの場に漂っていた。
「ミリア様。その話はあとにしましょう、ね?」
「シアちゃんごめんね。また熱くなっちゃいましたね」
気を取り直し、中央にある階段の方へと向かって行く。
道中は何事もなく、さくさくと部屋まで案内された。
もし、そうだったのならどれだけ良かったことだろうか。中央の階段までにいくのに20回、階段を上りきるまでに9回、そして部屋に辿り着くまでに40回と屋敷に入ってから部屋に着くまで計70回もの魔法の説明をしていたのだ。そのほとんどが序盤の説明でアカシアの止められたが、それでもかなりの時間がそれに費やされた。
屋敷の玄関から部屋まで普通に歩けば5分程度で部屋についたであろう。だが、部屋に着くまでに掛かった時間は30分。
この王女ヤバい。なんで屋敷内の移動だけでこんなに疲れるんだよ。会社で働いていた時よりも精神的に疲労が溜まる。
これは確かにアカシアの言う通り、物凄く変わった方だ。というか、オタクだ。生粋の魔法オタクといった所だろう。
「それでは勇者様。そこでじっとしといてください。今から、鑑定をしますので」
ミリアはこちらをじっと見つめ始めた。すると、右目の黒い瞳が少しずつ青い瞳へと変化していった。その瞳はきらきらした宝石のようで、ついつい見入ってしまう程には綺麗だった。
そして、ぽつりと呟いてしまった。
「きれい…」
「へ?」
あ、しまった。と思った時にはもう既に遅く、ミリアは困惑し、アカシアからは物凄く鋭い視線をを感じた。
こればかりは、自分の口の緩さに嘆きたい。
「ふふ。勇者様は不思議なお方ですね。普通は私の眼をみると怖がるんですよ」
これほどにも綺麗な眼をしているのにどこに怖がるような要素があるのかは理解できない。だが、ここで何か余計な事を言えばアカシアに殺されそうなので適当に相槌だけを打っておく。
そしてその後、数分を経て瞳の色が元の色へと徐々に戻っていく。その時のミリアの表情はどことなく気まずそうな表情をしていた。
ミリアの右手に白い粒のようなものが集まっていき、何も持っていない右手に一枚の紙が出来上がっていた。
「勇者様。その非常に申し上げにくいのですが、勇者様の能力はその……」
その一言で俺は全て察した。これまでの経験則からしてこの状況は非常に良くない。これで実は勇者ではなかったというパターンまではないにもしろ、相当弱いステータスなのだろう。
「…ものすごく平凡なのです」
平凡と告げられたと同時に右手に持っていた紙も一緒に机の上に乗せた。その紙に書かれているのは俺のレベル、体力など基本的なステータスだった。
レベル0 体力・攻撃力・防御力・素早さ・魔力量 1
すべてのステータスが1だった。
しかもなぜか全ての項目が一緒の数値のせいかまとめられており、少し腹が立ったが、絶望のあまり声を出す気力すらなかった。
「基礎能力は全て一般の方々と同じで、スキルもこれでは使えないでしょう」
先程まで明るかった雰囲気が今ではお通夜のような雰囲気に変わっていた。
能力をただ鑑定してもらっただけなのに、いやしてもらったからこそなのだろう。つくづく自分の悪運を呪いたくなるくらいだ。
「で、ですが! そう落ち込まないでください。勇者の加護はしっかりありますし、レベルを上げれば基礎能力も上がります。そしたらスキルも使えるようになるのでこれから一緒に頑張りましょう!」
「ありがとう、ございます」
明らかに落ち込んでいた俺を見てか、ミリアは頑張って気を利かせようとしてくれた。だが、正直このショックは相当に大きい。自分の期待が大きかったせいか、その反動は想像以上にくるものだった。
「それでは早速――」
「ミリア様。アレイン様が王城にお呼びですので後は私にお任せを」
「えー。まあ、でも仕方がないわね。勇者様も頑張ってくださいね」
どうして――どうして、俺はこんなにも弱いんだ! 勇者って大体チートだろ。異世界転生って大体チートだろ。なんで俺は一般人と同じステータスで勇者と戦わないといけないんだ。なんなら、俺よりも王女様の方が全然強いまであるし……。
はぁ、胃が痛くなる。
俺はただ自分が勇者である意味、この世界に召喚された意味が全くない事にただただ心の中で嘆く事しか出来なかった。
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