第3話 何でこうも厄介事に巻き込まれるのだろうか?

 王城を出て南の森に入った俺達は何事もなく順調に進んでいた。

 日光を遮る木々、色鮮やかな花が所々に咲いているこの森は地球とはまた違った植物が多い。そして、もとの世界にはいない魔物の存在もこの森では珍しくないものだ。

 幸い、この森は王女の管理下にあるので魔物との遭遇率は低く、この世界でも比較的安全な森と言ってもいいだろう。


「そう言えば王女様ってどんな方なんですか?」


 この森についてのことを説明が終えた後、ふと疑問に思ったことを口走った。

 王女は普通、王城で暮らしているものだろう。だが、この国の王女は森の中に住んでいるのだ。気になってしまうのも仕方がない。


「王女様は物凄く変わったお方だ。まあ、会えば分かる」


 質問が誑かされた、というよりかは、言葉では表現が出来ずこれ以上の説明の仕様がないといったような返答が返って来た。

 実際に会う前にもう少し知りたかったが、この様子では無理そうだし、森の中で暮らしている以上なにか事情があるのだろう。


「そういえば、俺って何日くらい寝てましたか?」


 本当に今更の質問ではあるが、聞いておくぶんには損はない。


「二日だな。医者がいうには魔力枯渇だとさ」


 魔力枯渇。名前から察するに魔力がかっらぽになったのだろう。

 おそらく原因は気を失う前の脳内に流れてきた声だ。その時の言葉をはっきりとは覚えていないが、あの直後に俺は気を失った。そして、その時の感覚が魔力吸収を使った直後と同じ。

 そこから一つの仮説が思い浮かぶ。もしかすると、俺のスキルは相手に対してではなく自分自身に対して発動してしまうのではないかということだ。


 そうなってくると案外スキルが使えても、使えなくても、あまり意味が無い。というか、むしろ使えない方が誤ってスキルを使う可能性が減る。

 結果オーライ、かもしれない。


「魔力枯渇は自身の魔力が極端に少なくなることだ。最悪の場合死ぬ」


「もしかして、俺も死んでた可能性あった?」


「可能性はあるが、魔力枯渇で死ぬのは余程の事が無いとあり得ない。魔力枯渇で死ぬ確率は一千万人に一人といった所だ。だから、そこまで危険な状況でもない」


 アカシアの説明を聞いて、改めて自分の運の悪さに嘆きたい気分だ。

 一回目の魔力枯渇で一千万分の一を当てていたと考えると本当に自分の悪運には神がかっている。そんなことで神がかりたくはないのだが。

 それはともかく、二連続で死ぬことが無かったのは良かった。


「そもそも初めての魔力枯渇で死ぬことなんてないし」


「っう!」


「そう簡単に魔力枯渇なんてならないし」


「っう!」


「魔力枯渇で死ぬのは貧弱なやつだけだ」


 アカシアの言ってきた言葉が物凄く、心に突き刺さる。その全てが身に覚えがあり、実際に経験した。

 特に最後の言葉はその通り過ぎて言葉すら出なかった。


「どうした? 体調でも悪いのか?」


「い、いや、ちょっと馬車に慣れていないだけだから」


 その上、情けまでかけられるのは勘弁して欲しい。

 自分の運の悪さで魔王討伐どころか、人類が破滅してしまうのではないだろうか。

 そう思うと、急にやりたくなくなってきた。


「勇者殿っ!!」


 アカシアが突如、叫んだかと思えば、次の瞬間には飛びついてきた。そしてそのまま頭を抑えられ、前屈みになった。

 慌てた様子で押さえつけられたので少し首が痛いが、幸い怪我はなかった。


「痛いな。いきなり何するんだよ」


 あともう少しで首の骨が折れるかもしれないという所だった。あれ以上の強さでやれば確実に骨の一本は逝っていた。

 痛めた首を軽く動かしながら顔を上げると、信じられないような光景になっていた。


 先程まで乗っていた馬車は半壊していた。上半分が無くなって吹き抜けになり、そして周囲にはその上半分の破片が散らかっていた。

 そして、地面に一つ御者の生首が転がっていた。


「え?」


 御者の死体に動揺はしたものの、込み上げてくる恐怖の感情は何かに阻まれるように出てこなかった。


「大丈夫か?」


「あ、はい、なんとか」


 どうして、こんなにも厄介事に巻き込まれてしまうのだろうか。

 最早、運が悪いとかそういうレベルを越しているような気がする。


「あら、まだ生きていらっしゃいましたか」


 背後から聞き覚えのある透き通るような声がした。

 後ろを振り向けば、そこには白いシルクハットに白いスーツ姿の男が不気味な笑みを浮かべていた。

 そう、その男は――


「こんにちは、こんばんわ、おはよう。人間諸君。そして初めまして。わたくし、魔王軍の三使が一人、ベルゼブブと申します。わたくしの要件はただ一つ。死んでください」


 ――前回、手も足も出なかった敵であり、避けるべき死亡フラグの一つベルゼブブであった。


 そして、すぐさまにアカシアは腰に携えていた剣を抜刀し、警戒態勢に入った。

 それに呼応する形でベルゼブブはシルクハットから一本の杖を取り出し、地面につける。

 この場面は前回と全くとも言っていい程に同じ状況。しかし、違うとするならば俺が恐怖に支配されていないということ。


 ただ、俺が動けるようになったからと言って、戦闘経験皆無の俺に出来ることなど一つもない。スキルも使えなければ、武器もない。

 結果的に依然として状況は全く変化していなかった。


「それでは、さようなら」


 次の瞬間、アカシアは膝から崩れ落ちれ、抵抗虚しく戦闘不能になった。だが、アレイン王からの命令に忠実な彼女は決して諦めず、剣を杖の代わりに立ち上がろうとする。そして、使命を果たすために俺に一言告げた。


「勇者殿。ここから逃げろ。ここは私が時間を稼ぐ。これはアレイン様からの命令だからな」


 このままでは前回の二の舞。だが、力のない俺にはベルゼブブに到底敵わない。そしてこの場から逃げようとも逃げれないだろう。


 本当にないのか。この場を切り抜ける最善の一手は本当にないのか。これでは結局、日本にいた時と何も変わらないじゃないか。何も出来ていないじゃないか。

 この世の中はなんでこんなにも理不尽なのだろう。何でこうも俺は厄介事に巻き込まれるのだろう。


 そんな想いを心中にこの状況を打開する策を練り上げる。


「なかなかにしぶといですね。それではまず、あの勇者から消えてもらいましょうか」


 こちらに目線が映り、目と目が遭った瞬間、俺は反射的に瞼を閉じてしまう。次に目を開いた時は既に死んでいるのだろう、そう覚悟した。


「そこまでですわ!」


 ベルゼブブが攻撃を繰り出したであろう瞬間に凛々しい声が森の中に響いた。

 目を開けた瞬間、目の前に立っていたのは藍色のドレスを着た水色の髪の少女だった。


「流石にあなたを含めて三対一は分が悪いですね。今回は見逃すとしましょうか。では、さようなら。人間諸君」


 先程まであれだけ優勢にたっていたベルゼブブがその姿をくらました。この目の前に居るのは何者なんだ?

 魔王軍の幹部があっさり退くくらいだから、相当の強者のなだろう。


「さてと。あなた、大丈夫?」


 ベルゼブブという脅威が退いてくれてひと段落したところで、目の前の少女はこちらを振り向いた。そして、手を差し伸べた。


「あ、はい、なんとか」


 俺は差し伸べられた手を掴み、起き上がった。辺りはぼろぼろで馬車は原型すらとどめていない状況だった。

 そして、少女はすぐさま怪我が酷いアカシアのもとへと行った。


「シーアちゃん。酷くやられちゃったね。今、治療するから動かないでね」


「申し訳ございません、ミリア様。私が不甲斐ないせいで」


「いいの、いいの」


 ミリアと呼ばれる少女がアカシアが損傷したであろう足に手をかざした。すると、そこの部分が光り始め、徐々に薄くなっていった。

 おそらく治癒の魔法か何かなのだろう。


「さて、シアちゃんがここに居るってことはあなたが勇者なのね」


 アカシアの怪我の手当を終え、こちらに話しかけてきた。

 アカシアとは親しい関係から怪しい者ではないだろうが、どうしても警戒してしまう。年相応には思えない程のオーラがそうさせていた。


「そんなに警戒しなくていいわよ。私の名前はミリア・ヴァルディオス、ここヴァルディオス王国の第一王女よ」

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