第2話 これはもしかして詰んだ?
「え? これは一体……?」
不可解、その単語だけが頭によぎる。
先程会った神らしき人物は俺が日本でビルから落ちて死んだと言っていた。だが、俺は魔王軍の三使と称するベルゼブブと会い、恐らくそこで殺された。その筈なのに神らしき人物はそんな出来事が無かったかのように話を進め、個々に転生させた。
あれが夢とは思えないが、現実だとしても引っかかる部分はある。
「困惑するのも無理はない。お主は確かに死んだ。だからこそ、我々はお主をこの世界に勇者として召喚できたのだ」
ここまで台詞が一緒だと死に戻ったと言うのが最適解なのかもしれない。
そうなると、俺はまたベルゼブブと遭遇して殺されてしまうのではないだろうか。あれ、これって詰みじゃね。
「ふむ。自己紹介がまだだったな。余の名はアレイン・ヴァルディオス。ここ、ヴァルディオス王国の王だ」
「あ、えっと、俺の名前はセト・アキトです」
今回は出来るだけ丁寧な言葉使いで対応した。ここで無礼を働けば、アカシアからの印象が下がってしまうのは必然。印象が良ければ、もしかするとこの先の出来事が変わるかもしれない。
ただ問題なのは俺がこの世界の礼儀作法を知らないということ。自己紹介ならまだしもそれ以外はどうすればいいのか分からない。
「それではセト殿。お主が一番気になっているであろう召喚の理由について話そう」
それから、前回聞いたこの世界についての大まかな事情を退屈ながらももう一度、聞くはめとなった。
全く同じ台詞なので新たに得られる情報もなく、死亡ルートを避けれそうな方法も思いつかなかった。
このままでは確実に詰む。
というか、もう既に詰んでいる気がする。
「セト殿にはステータスというものが見れるはずだ。頭の中で念じてみよ」
自身のステータスはもう知っているので見なくてもいいとも思っていたが、もしかすると何かが変わっているのかもしれないので一応、確認だけした。
〈ステータス〉
セト・アキト Lv0(1)
スキル:魔力吸収 急所の一撃 致命の一太刀 絶命の言霊 自決
加護:勇者の加護 神の祝福
自身のステータスを見たとき、自分の目を疑った。先程まではなかった加護、そしてレベルの隣に(1)が追加されていたのだ。原因が何かは分からないが、もしかすると死亡ルート回避の手がかりになるかもしれない。
「それで、早速で申し訳ないのだが、ここから南に向かって森の奥にある小屋に行って欲しいのだ。そこに余の娘が居てな。あ奴は魔眼という特殊な目の持ち主で人の能力を事細かく見れるのじゃ。セト殿には能力を見てもらうついでに娘をここに呼んで欲しいのだ」
そして予想通りに話は進んで行く。
ここで承諾をして対策を練るのもありだが、ここでアレイン王に事情を話せば何か変わるかもしれない。信じてくれるかどうかは別として、やってみることには価値がある。
「その、実は一つ話したいことが――」
今までの出来事を通して話せば出発する日やルートを変えられるかもしれない。そう思い、話始めようとした瞬間に何かに強制的に口を止められる。そして、それに続くように機械染みた声で淡々と脳内にアナウンスのようなものが流れてくる。
(キンクをカクニン。マリョクキュウシュウのキョウセイジッシをカイシ)
その次の瞬間、体の奥底から何かが抜けていくようなそんな感覚がし始めた。段々と力が抜けていってしまい、意識も朦朧としていく。この感覚は一度、経験したことがある。それは、ベルゼブブと対面して魔力吸収を使った後と全く同じ感覚だ。
これ、詰んだわ。死ぬかも。
意識が闇に堕ち、俺はそのまま地面に倒れ伏せた。
目が覚めればそこは見知らぬ天井だった。
今までのパターンから察するに俺はまた転生したのだろうか。だが、それにしては体が重く、倦怠感がある。一度、起き上がろうとしても体に力が入らない。
起きてても何もすることが出来ないので、取り敢えず確認のためにステータスと頭の中で念じた。
〈ステータス〉
セト・アキト Lv0(1)
スキル(使用不可):魔力吸収 急所の一撃 致命の一太刀 絶命の言霊 自決
加護:勇者の加護 神の祝福
ステータスは今までと同じように開けるし、表示項目も一緒。違う世界に来たという訳ではなさそうだ。だが、一つだけ違うとすれば、スキルが使用不可になっているということだ。
だが、ここでふと疑問に思った。スキルが使えないのは致命的なのではと。
これはもしかして詰んだのでは?
確かにそんな簡単にチート能力なんて授かってたらここの人達も苦労はしないか。世の中、そんなに甘くはないのか。
まあでも、加護があるしなんとかなるか。不安だ。
そんな感じで悲観してため息を吐いていたら、扉のノック音が部屋に響く。そして、聞き覚えのある声と同時に部屋の扉が開く。
「失礼する」
声のする方向に振り向けば、そこには一人の女の兵士が立っていた。
深い藍色のショートヘアに白を基調とした軍服、腰には白い鞘に納められている剣を携えている。その女の兵士はアカシアであった。
「もう目覚めたのか。ちっ」
今、心配されているのかと思えば舌打ちがされていたような気がするのだが、もしかしてもう既に好感度が下がっている感じなのか?
何もやらかしてなんかいないと思うのだけど、どこかで地雷を踏んでしまったのだろうか。
「え、えっと、今、舌打ちされた気がするんだけど」
「きっと、気のせいだ。それよりもこちらの準備が整ったので出発する。勇者殿」
何の準備を整えたのだろうか。俺は今さっき目覚めたばかりで体も起こせない状況なのだ。
出発すると言われても身動きがとれる状況じゃないので物理的に不可能だ。
「何をしているのだ。早く起き上がらないのか」
「体が動かなくて……」
アカシアは無言のまま固まり、何か思いついたのか俺が寝転んでいるベットまで近づいた。
そして次の瞬間、命をも取りそうな勢いで布団を投げすて、瞬く間に俺の体は浮かんでいた。
これが、あの伝説のお姫様抱っこというものなのか。男女が逆なので少し違うかもしれないが、まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。
そう、宙に浮かばされる日が来るとは誰も思いもしなかった。
「あ、あの、これは……」
「魔法だ。これで馬車まで運んで行ってやる」
比喩などではなく、実際に宙に浮いていたのだ。どういう原理なのか全く分からないが、魔法によって俺を宙に浮かべたらしい。
そして何よりも心が踊らされた。ラノベとかによくある実は魔力量がチートだった展開がこの先待ち受けているのかもしれないと。スキルは無いに等しかったが、魔法はまだ可能性がある。それだけでまだこの世界の楽しみは残っているのだ。
もっと乱雑に運ばれるのかと思えば、意外と丁寧で先程の態度からでは想像できない程だ。
階段を降りるときは廊下を歩く時よりも遅く、障害物には決して当てないように慎重に周りを見ながら歩いていた。
「そう言えば、これってどこに向かうのですか?」
「王女様の所に決まっているだろう」
「今日、偶然起きただけなのに手際が良くないですか?」
「はっ。それは今日、叩き起こしてでも行くつもりだったからな」
この人なら本当にやってきそうなのがまた少し怖いのだ。
しかも、なぜか好感度が既に低いのだ。殺す勢いで叩き起こされたかもしれないと思うと、運が良かったことに感謝する。
そして、しばらく城の中を歩き、ようやく城門らしき所に着く。そこには馬車と馬車の御者が待っていた。
それ以外は誰もおらず、護衛らしき者もいなかった。
「これから馬車に乗るが、歩けるか?」
「歩けるけど、護衛っていない感じ?」
「何を言っている? 私が勇者殿の護衛だぞ」
うん、予想はしていたが、本当に的中するとは思わなかった。出発する時刻が前回よりも大幅に遅れていたとは言え、それでも護衛がアカシアなのが変わらないのか。
願うことなら、このまま何も起きずに、ベルゼブブとも遭遇せずに乗り切っていきたい所だ。
そして、馬車は南の森にいる王女に会いに行くために王城を発ったのであった。
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