即死級能力の勇者 ~こんな能力でどうやって魔王を倒せと?~

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第一章 それぞれの決意

第1話 異世界転生、そして転生

 この世の中は不条理で、運命というのは理不尽だ。

 人の生と死は平等に訪れる。誰もが当たり前に思うことで、変わりようのない事実とも言える。

 だが、果たして本当に生と死は平等に訪れているのだろうか。ある人は障害を持って生まれ、ある人は健康な体で生まれる。ある人は心置きなく死に、ある人は自我も持たぬ内に死ぬ。命が誕生する事象と命を落とす事象は等しく訪れるが、どのような状態なのかは不平等だ。


 そして、俺は今、それを肌身を以て実感している最中だ。


 30メートル程ある10階建ての高層ビル。その屋上から不幸にも落下しているのだ。

 昼休憩に屋上で柵にもたれながら、大きなため息をついただけだというのに、柵と一緒に崩れ落ちてしまった。

 錆びついていたせいなのか、ネジが緩んでいたのか、原因は分からない。ただ一つ言えることは、俺の運が悪かった。それだけの事だ。


 幼い頃に両親が死んで、親戚の家に引き取ってもらった俺は高校を卒業して直ぐに就職した。少しでも早く自分を育ててくれた親戚の人達のために恩を返したかった。

 恋人も欲しかった。何より、まだ生きたかった。たった21年しか生きていないのだ。


 だが、そのどれもが叶わない。欲しいと願ったのものは全部俺から離れていく。

 この世界は不平等だ。それだけが、胸の奥に残る。


 俺の頭頂部はそのまま地面に着いた。その衝撃で全身に痛みが走る。一瞬の苦痛だが、それが何よりも耐え難い痛みであった。

 視界は朧げに、視線の先には自分の血が広がっていて、数人の通行人の足元が見えた。


 そこで俺の意識は途絶え、この世を去った。




 そう思っていた。

 なのになぜ、意識がこうにもはっきりしているのだろうか。


「おぉ。せ、成功したのか。やっと」


 声のする方に意識を向けようとする。

 視界に入ったのは豪華な飾りつけの椅子にそこに座っている王冠を被ったご老体。その後ろには自身の権威を象徴するかのように大きな絵画が飾ってあった。

 その周囲にはご老体を守るように武装した兵士が四人並んでいる。


「な、なんだ、ここは? 俺は死んだはずでは……」


 そんな俺の疑問を知ってか、ご老体は話しを始める。


「困惑するのも無理はない。お主は確かに死んだ。だからこそ、我々はお主をこの世界に勇者として召喚できたのだ」


「は? 俺が勇者……?」


 先程までただのサラリーマンとして生涯を終えた俺が、この世界で勇者として生きていく。つまり、ラノベでよくある異世界転生ってやつなのか。


 正直、今の光景に目を疑っている。異世界転生なんてただの空想で起こるはずがない。そう思うのが普通なのだ。

 だから、目の前の出来事は俺の夢に違いないと思ってしまう。

 だが、これは正真正銘の現実である。


「ふむ。自己紹介がまだだったな。余の名はアレイン・ヴァルディオス。ここ、ヴァルディオス王国の王だ」


「え、ええ? じいさん、王様なのか!?」


 いきなりの自己紹介でしかも異世界で最初に会った人が一国の王であると告げられたのだ。これに驚かない人などいるだろうか。

 そしてその驚ぎで冷静さを搔けてしまっていたのは事実だ。冷静さが掛けた状態で気づかぬ間に思っていたことを口に出してしまったのが運の尽き。


「貴様!! アレイン様に何と不敬なことを! いくら勇者とはいえ、許されぬ」


 アレイン王の横に立つ女の兵士が腰に携えていた剣に手を添え、牽制するようにこちらを睨む。

 この時になって自分の言ってしまった言葉に後悔をする。


「よいよい。勇者殿はこの世界に来て間もないのだ。それより、お主の名前を聞かせてもらえぬか?」


 敵意剥き出しだった女の兵士はアレイン王の言葉で剣を手から放し、取り敢えずはその怒りを治めた。そして王はこちらに向かって、何事もなかったかのように微笑んだ。


「お、俺の名前は門廻せと彰人あきとだ」


 まさか、こんな形で自己紹介をすることになるとは思いもよらなかった。

 自己紹介など人生で数回しかしたことがない。そのせいか、少しカタコトになってしまった。


「それではセト殿。お主が一番気になっているであろう召喚の理由について話そう」


 簡単に要約すれば、魔王を倒して欲しいということだ。

 この世界では魔王が居て、かつてその魔王は先代の勇者に封じられたそうだ。しかし、近年になってその封印が解けてしまい、人類に多大な被害をもたらしているらしい。そのために俺をこの世界に召喚したとういことだ。

 ありきたりで王道とも言える展開。そしてこういう時は大抵がチート能力持ちだ。


「セト殿にはステータスというものが見れるはずだ。頭の中で念じてみよ」


 チート能力に期待しつつ、言われるままに頭の中でステータスと念じてみる。

 すると、どういう理屈かは分からないが、頭の中ではっきりと文字が思い浮かび、視界にそれが映る。



 〈ステータス〉

  セト・アキト Lv0

  スキル:魔力吸収 急所の一撃 致命の一太刀 絶命の言霊 自決



 おぉ。これぞまさにチートと言ったスキルがずらりと並んでいる。どのスキルも強力そうな名前だ。ただ一つだけを除けば。一瞬、自分の見間違えかと思ったが、どうやら違うらしい。なぜスキルに自決なんてあるのだ。死んでどうするんだよ。

 そう心の内でつっこんだものの、使わなければいい話だ。幸いと言うべきか、どれも強そうなスキルだ。


 一通り見終わったタイミングでアレイン王が喋り始めた。


「それで、早速で申し訳ないのだが、ここから南に向かって森の奥にある小屋に行って欲しいのだ。そこに余の娘が居てな。あ奴は魔眼という特殊な目の持ち主で人の能力を事細かく見れるのじゃ。セト殿には能力を見てもらうついでに娘をここに呼んで欲しいのだ」


 悪く無い提案だ。ステータスで見れるのは自分の名前とレベルとスキルの名前くらいだ。正直、自分の強さがどの程度なのかは分からない。それを知るためにはいい機会だ。


 断る理由も特になく、二つ返事で引き受けた。




「チッ。なぜ、私がこのような無礼者を案内しなければならないのだ」


 王城から出てすぐにアレイン王の娘が居るという南の森に向かっている途中。

 知らない土地へと向かうのだから、当然、案内人はいるわけだがその案内人が先程俺を睨んできた女の兵士だった。案内人の人選に異議を申したかったが、案内してもらう立場である以上なにも言えなかった。


 そして、そのまま女の兵士の案内を受けていながらも、所々で愚痴が漏れている。わざと聞こえるようにしているのか、少しこちらの方を睨みながら舌打ちをしたりもしていた。

 正直な感想を言えば、凄く居心地が悪い。


「あ、あのぉ」


「何だ?」


「お名前を教えていただけないでしょうか」


 こころよくは思われていないが、一応律儀に案内をしてくれているので名前くらいは覚えた方がいいだろう。初っ端からやらかして良くない印象を持たれているが、多少は良くなるだろう。

 そう思い、恐る恐る聞いてみた。


「ふん。お前に教えるものか、と言いたいところだが変な仇名でも付けられたら面倒だ。特別に教えてやる。私の名前はアカシアだ」


 適当に相槌を打ち、会話が途絶える。

 アカシアがこちらを嫌悪しているのだから無理もないが、無言で少し不気味な森を抜けるのは心細い。


 歩いてもう1時間はとうに経過しただろう。足に大分疲労が来ており、ただひたすらについて行くのが精一杯。

 それなのにアカシアはスピードを緩めるどころか、あまりの体力の無さに呆れ、見下す。


 そんな矢先に何か不吉な音がした。

 近くに何か悍ましいものでもいるかのように、本能が恐怖を感じ取り、体を硬直させる。立っているだけでも心臓が押しつぶされそうな感覚がする。


「誰だ? この場にいるのは分かっている。姿を現せ」


 この不気味で気色の悪い雰囲気が漂う中、アカシアは腰に携えた剣を抜き、警戒態勢に入る。

 恐怖に支配されて動けない俺とは違い、彼女は冷静さを保ち、四方八方どこからの攻撃でも防げるように辺りを見回す。


「なるほど。一筋縄ではいかなさそうですね」


 透き通るような声が流れ、それとほぼ同時に目の前に白いシルクハットを被った白いスーツの男が姿を顕わにしていた。

 雰囲気と外見がマッチしておらず、それが更に不気味さを増していた。


「こんにちは、こんばんわ、おはよう。人間諸君。そして初めまして。わたくし、魔王軍の三使が一人、ベルゼブブと申します。わたくしの要件はただ一つ。死んでください」


 不敵な笑みを浮かべながら、シルクハットを胸に当て律儀にお辞儀をする。

 所作だけ見れば紳士な男、しかしそれ以外が邪悪で恐怖そのものを体現していた。


 いきなり魔王軍の幹部っぽい奴が現れるなんて流石に反則だ。やはり、俺は運が悪い。このまま何も出来ずに第二の人生が潰えてしまうのだろう。

 それならば、せめて最後に生き足掻くまで。


 自身の頭の中でステータスと念じ、動けない状況でも使えそうなスキル、魔力吸収を選ぶ。

 どれだけの効果があるかわは分からないが、ダメもとでもやるしかない。


 アカシアとベルゼブブが互いに戦闘態勢に入る。

 ベルゼブブはシルクハットの中から一本の杖を取り出す。その長さは帽子の何倍もの長い形で現れる。そしてその杖を地面につき、帽子を再び被る。


「それでは、さようなら」


 その声が聞こえたとともに、俺の目の前に立っていたアカシアが膝から崩れ落ちた。外傷はどこにも見受けられず、力が一気に抜けたかのようにバタリと。

 アカシアは己の剣を突き立て、何とか立とうとするも立ち上がれない。


「おい、勇者。ここから逃げろ。ここは私が時間を稼ぐ。死ぬほどむかつくがこれはアレイン様からの命令だからな」


 だが、俺はそれを無視し、胸が張り裂けるような恐怖を押し切って口を開く。

 それはアカシアへの返事ではなく、スキルの名前を言葉で綴った。


「魔力吸収」


 その瞬間、視界が歪み、かき混ぜられるように景色が混沌と化す。それにより、平衡感覚は失われ、地面に倒れ込む。そして、そのまま意識は底へと落ちていった。




 その筈だった。

 と言う展開はもう二度目だ。先程までが夢だったのなら、どれほど良かったことなのだろうか。だが、現実はそんなに甘くなかった。


「あなたがセト・アキトね。私は世界の管理者。人間たちの言う神みたいな存在だ。わたしのミスで君は日本で死んでしまったの。だから、君を今からヴァルディオス王国っていう所に転生させるね」


「え?」


「それじゃあ、頑張ってね」


「お、おい、ちょっと待てよ。もうちょっと詳しく」


 だが、声はもう聞こえなかった。

 白い空間に一筋の光が現れ、そこに吸い込まれるように体が引っ張られる。


 こちらの質問にも答えず、聞く耳すらも持たない。丁寧な説明もなく、次から次へと情報だけ流して、反応も出来ぬままに勝手に消えていってしまう。なぜこうも神みたいな奴は傲慢なのだろう。

 事態が余計にややこしく、そして複雑となって、何が何だか分からなくなってきた。




「おぉ。せ、成功したのか。やっと」


 声のした方向に意識をかたむけた瞬間に全てを理解をした。

 目の前にいるのは紛れもなくアレイン王、そして四人の兵士。その中にもちろんアカシアは居た。


 今まで起きたことは全て現実なのだろう。

 何かの予知夢かとも思ったが、あんなにはっきりとした予知夢があるわけがない。つまり、一度転生して死に、時間が戻ってもう一回転生したということだ。


 俺は異世界に転生して、そしてもう一回転生したようだ。

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