福袋の鍵とお節介な神様たち

山田

本文

 20XX年1月1日、俺は戦場に出ていた。

戦いの場は、とある大手家電量販店。


「うぐっ」

(くそっ押すなよ!………ぃよっしゃ!)



「ご購入ありがとうございます。20,000円でございます。」

俺は鼻の穴を膨らませながら店員に金を払い、お目当ての福袋をゲットした。周りの欲深い民達たみたちを尻目にその場を離れる。俺の純粋なまなこで見定めたこの福袋の中身は、日頃の行いも込みできっと良いものに違いない。競歩の速度で真っ直ぐ家に帰宅する。



この福袋は計500袋売られている。その内の2袋には最新のゲーム機【スペック2】が入っているのだ。俺の狙いはそれだ。他の福袋にはソフトなどのゲーム関連の物が入っていて、中には俺には一生縁のないBLのソフトが入っている袋もあるようだ。

神様、スペック2……スペック2を!よろしくお願いします!

そう神頼みしながら開封する。



 俺は中身を見た瞬間、支払った20,000円を思い出す。

……そう、この世に俺の願いを聞いてくれる神様なんていないのだ。そこには二つ、ゲームソフトが入っているだけだった。俺の日頃の行いが引き当てたのはBLのソフトだった。それも二つとも。どうやら俺の神様は腐女子だったようだ。俺の20,000円……っ。

ショックで頭の血が下がりながら震える手でソフトを取り出し、少し泣きそうになりながらしぶしぶ袋を折り畳む。



(ん?)


袋を畳む手に違和感を感じた。袋の底に何かがある。まだ何か入ってたのか…?ほんの少し目に光を取り戻した俺は、ガサゴソと袋を開き中を確認する。



(え、鍵…?)


鍵は古そうで、ゲームのダンジョンにある宝箱の鍵のような見た目をしていた。指の先で摘まむと、それは金属のような冷たさでザラザラとしている。持ち上げると茶色のサビがポロポロと袋に落ちた。



汚い。どう見てもおまけには見えない。誰かがイタズラで入れたのか?そう思いながらどうするか悩んでいると、思考をシャットアウトするように俺の脳裏にぼんやりと何かが浮かぶ。

古そうな建物だ。薄汚れたレンガの壁にはツタが這っていて、扉には円形の窓があり、そこからオレンジ色の灯りが漏れている。


瞬きをした瞬間、建物の姿が脳裏から消えた。


(なんだ…今の…)



俺はその建物と鍵に何か繋がりがあるのではと本能的に感じた。

とりあえずその鍵をティッシュに包み、そのまま処分したい気持ちもあったが呪われる可能性が頭をよぎりそれはやめる事にした。



しばらく考えていたが一向に脳がスッキリしない。新年早々の不運とモヤモヤしたものを切り替えるため、せっかくの元日、初詣に行こう。そして神様に俺がいかに日頃良い行いをしているか報告して、神のご加護を貰うのだ。

気持ちを新たに俺はティッシュに包んだ鍵をそっとテーブルの端に置き、初詣へ出かけた。



 毎年俺の厄を半分押しつけている近場の神社に行き、神様に俺の日頃の良い行いを報告した。ついでにスペック2と可愛い彼女をお願いした帰り道、俺はなぜかいつも通らない道を通りたくなり散歩のような感覚でフラフラと歩く。俺はヤマダ歯科医院の前を20分間に三度通った。やばい。スマホで道を調べようとしたが不幸な事に電池が切れていた。


俺は思った。さっきの初詣はなんだったのか。俺の日頃の良い行いの話を、神様はきっと餅でも食いながら聞き流したに違いない。


「はぁ……」


目を閉じ、どデカいため息を吐きながら冷えた手をポケットに突っ込んだ。すると冷たくザラザラしたものが手に触れ、胸がザワめき背筋に緊張が走る。

なぜか置いてきたはずの鍵がポケットに入っていた。

息つく間もなく俺の耳にカランカランと鈴のような音が響く。音の方へ視線をやると、古い建物があった。俺は建物を凝視ぎょうしした。



(……え?!)

あの建物だ。

ゲーム好きの俺だが、さすがにこの状況に恐怖を感じた。


しかしその恐怖とは裏腹に、入りたい。なぜかそう感じた。まるで魔法にかかったかのように俺の脚はゆっくりと建物の扉へ近づく。扉には大人の頭サイズの薄汚れた丸い覗き窓がついていた。俺はそっと中を覗き込む。喫茶店のように見える内部にはサイフォンがいくつか並び、壁にはいろいろとカップが飾ってある。そしてそのカップの隣には、一つずつ鍵が立てかけてあった。



(あの鍵……)



俺は引き込まれるように扉を開ける。

店に入ると小太りの着物姿の二人がいた。


片方は白地にコーヒー色や金や赤のラインが複数入った上品な着物を身にまとい、お餅を食べている。カウンターの中にいるのでこの男がここのマスターだろう。


もう片方はゲームをしている。こちらのよそおいは、なんと言えばいいのか二人の裸の男が印刷された着物を着ている。見せられないよ!という、かの有名なキャラクターで体を隠された、なんとも言えない雰囲気のイラストが施された着物を着ている。見てはいけないものを見たので目をらした。




 「やっ……僕もうダメっ……♡」

ゲームから男の音声が漏れている。というか大音量でそいつはゲームをやっている。この人は関わってはいけないと俺の純粋なまなこはマスターへ目線を向ける。

マスターは俺に気づくとゆっくりと微笑み、


「おや、いらっしゃい」

と暖かな声を発した。

俺はその声色で顔の力が抜けた。

「あ…あの…」

相変わらず大音量でアンアン言ってる男の声に掻き消されまいと必死に言葉を続ける。

「あの……!そこにある鍵……」


マスターの帯に付いている朝日のような輝きを放つ鍵が一層光った。


「さあさ、こちらへどうぞ。ゆっくりしていったらいい」

マスターにある席へ促される。そう、カウンター前にいる腐女子疑惑の席から二つ離れた場所だ。ひたいの色が悪くなるのを感じながら席へ座る。椅子へ座ると視線を感じるが目が合わないようテーブルを見つめた。マスターは注文もしていないのにコーヒーを作りはじめた。


「ぐふふ……あんた受けね!」

突然腐女子が声を上げた途端、俺の背後からあふれるように薔薇が湧き出る。

「だっ誰が…!」俺は頬をバラ色に染めながら否定した。いやそれよりもなぜ薔薇が…?!どうなってんだ?!そう思った時には腐女子の頭の上に、俺のあられもない姿が映像として実際に浮かび上がっていた。

「ひっ」

こいつ…人間じゃない!やばい!俺は立ち上がろうとしたがそのタイミングでマスターがコーヒーを差し出してきた。



ひたいを青くしながらも、俺はそのコーヒーカップを見て本来の目的を思い出した。俺のあられもない姿や薔薇は後回しに、俺はマスターへ問いかける。

「あのっ…俺っ……僕…鍵が……えっと…」謎の腐女子のこともあり脳から煙が出そうになりながら必死に話そうとするが、俺は言葉に詰まる。



「ああ、鍵だね。見せてごらん?」



マスターはなぜか俺が鍵を持っていることも知っているようだった。コーヒーと薔薇の香りに包まれながら、俺はポケットへ手を入れる。

(あれっ…ない!)

焦った俺はポケットをあさる。ひたいに汗をかき、目をテーブルに移すとなぜかコーヒーの横に鍵が出ていた。

俺は青ざめる。普通じゃない、あり得ない。そう思ったが体が動かない。

横では俺のあられもない姿を楽しんでいる腐女子と、得体の知れないマスターに挟まれ、俺は自分の寿命を感じた。



 マスターはそっと鍵に触れる。触れた途端あの汚らしい古い鍵が朝日のように光り始めた。それに誘発されるように目の前のコーヒーが優しく波立つ。


俺の脳が急に静かになった。マスターの目を見る。俺の体がポカポカと優しい熱に包まれ、先ほどの混乱などなかったかのような雰囲気で俺はコーヒーを見つめる。躊躇ちゅうちょもなくコーヒーを口へ運ぶと、あわい記憶が蘇る。



小さな頃、今は亡くなった祖母と近場の神社へお参りに行った。祖母は熱心に何かを願っていたが、俺は帰り道に買ってもらえるアイスのことで頭がいっぱいのまま手を合わせていた。



(この子がずっと幸せでありますように)



俺の目からしずくが零れ落ちる。

マスターは相変わらず微笑んだまま、俺の鍵に触れている。



「あら、あんた泣き顔も可愛いじゃない♡」

空気を読まずマイペースな腐女子の声で我に返る。俺は目の前のマスターに聞きたいことが山ほどあったが、腐女子に悪態をつく。

「その映像やめてくれませんか」

アンアン言ってる俺の姿を睨みつけながら涙を拭き取る。鍵はマスターの手から離れ、ただのボロい鍵になっていた。



俺は鍵にそっと触れる。暖かさを感じた。


「大切なものは目に見えないものなのよ♡」

俺の映像をうっとりと見つめながら腐女子が言う。


「コーヒーは美味しかったかい?」

マスターは俺をさとすように話し始める。

「それを飲みほしたら、まっすぐ家にお帰り。ああ、この鍵は預かっておくよ、お婆さんにお願いされたものだからね」


俺はふんわりとした空気感に心地よさを感じコーヒーを嗜む。横で腐女子が俺と誰をカップルにするか一生懸命話しているが、どうでも良かった。

マスターは微笑みながら腐女子の話を聞いている。腐女子が福袋にイタズラした話も耳に入ってきたが、今はどんなことも許せるくらい俺は寛大かんだいになっている。


「ご馳走さまでした」


俺はコーヒーを飲み終え、目を閉じ小さな吐息を吐く。

するとほんのり男臭い匂いが漂い、眉間に少ししわを寄せ目を開けると自分の部屋にいた。



俺は思わず立ち上がる。

「えっ?!あれっ?!」

あたりをぐるっと見回して、諦めたように座り込む。



 カチコチと時計の針の音が響く。

俺は目の前に乱雑に置かれた福袋へ目をやる。念のため手で触れ中身を確認するが今度は何も入っていなかった。テーブルにはクシャッとなった空のティッシュと、BLのソフト二本が無造作に置いてある。


現実を肌で感じ、心が空っぽのような寒さに目がうるむ。BLのソフトを手に取るとその下にお守りがあった。俺は心のざわめきを押さえ、お守りに顔を近づける。厄除け守り。ふんわりと、コーヒーと薔薇の香りが漂う。



(あ……)



手に取ると暖かかった。ここ最近の俺は、欲ばかりだった。物理的な物で心の隙間を埋めようとして、うまくいかないことは全て運のせいにしていた。

自分の本当に欲しかったものは最新のゲーム機よりも、子供のころ周りが無条件に与えてくれた愛情だったのかもしれない。

あの腐女子の言っていたことも、間違ってはなかったのかも……。というか、あの人達ってもしかして……。



ピンポーン



俺は突然鳴ったチャイムに一瞬体を震わせながら、インターホンに出る。どうやら宅配のようだ。何か頼んだかな?と思い出しながら玄関の扉を開ける。そこには男から見ても美形でイケメンの宅配業者が立っていた。


「お届けものです。お名前お間違いないですか?」




トゥンク……




俺の新しい物語が始まりそうな予感がした。




​――(完)



​※本作は「小説家になろう」でも掲載していますが、本人による投稿です。


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