第2話「出会い」

自販機の前で、俺は少しの間立ち尽くしていた。

…さっきのマダムからもらった現金10万エン。

全部万札なだけにこの自販機じゃ使えねーじゃ

ねぇか!


どうやらこの世界の自販機も基本、札を使うなら千エン札しか入れることができねーらしい。


あーめんどくせぇ!

せっかく大金が手に入ってウハウハだったってのに…途端に飲み物が…少しだけ遠い存在に

なっちまった。


ま、多分コンビニみてーなのもあんだろ。

少し歩いて探せばいいだけさ。


それに、だ。俺は豪運&カリスマの融合型の

才能持ちのはず。

…あのときの選択がこの世界の俺自身に適用されているならばだが…


さっきのがただのまぐれとは考えにくい。


つまり!豪運を持つ俺ならば、適当にほっつき

歩いていれば何かが起きるはず!

犬も歩けばなんとやらっていうしな!


……なんて考えながら適当に歩いて数分が経過。街灯の光が少し薄暗くなる方へと足を向けた、その時だった。


「だぁーからぁ!何回も言わせんなよ〜?」


相手を見下しているような、挑発気味の声。


反射的に足を止める。

視線を向けると、建物と建物の隙間――いわゆる路地裏。


そこに、スーツ姿の男が一人。

そして、それを囲むように立つ三人組。


いかにも、って感じの連中だ。

フードを深く被った若そうな男が二人。

もう一人は、ガタイがよく、腕を組んで余裕ぶっている。


やーっと人を発見した。…変な形で、だが。


この街…つーかこの地区?

住宅街と廃ビルらが混ざり合ったようなよくわからん土地…さっきから歩いていて気づいたが、

よほど真夜中だからなのかやはり人通りが圧倒的に少ない。


ここにくるまでにあのひったくりとマダム以外の人間の顔は見ていないわけだし…

恐喝かなにかしらんが、とりあえず人を見れて

不思議と安心している自分が怖い。


とはいっても…

スーツ姿のリーマンには悪いがこの街じゃ恐喝

くらい当たり前だろう。

そういう世界観なわけだし。


「さっきから言ってんだろ?通行料だよ、通行料。ここは俺らのシマなんだわ」


「……そんな話は聞いたことないな」


スーツの男は落ち着いた声で返す。

逃げる様子も、震える様子もない。


むしろ――

この状況を面倒くさがっているように見えた。


「は?聞いたことねぇとか関係ねーんだよ。犯罪犯しちまって、これが犯罪だなんてしりませんでしたぁ〜って言ってるよーなもんだぜ?兄ちゃん」


「高そーなスーツ着ちゃってさ〜調子乗ってんじゃねーぞ」


フードを被った男2人が支離滅裂な挑発をする。

見たところ、スーツのリーマンもガタイは

まぁまぁよさそうだが3対1じゃ分が悪いか…


「おい…いい加減そろそろ半殺しにしちまうぞ?あんた。」


…とドスのきいた声を放ちながら、今までずっと黙って余裕こいていたガタイのいいボス猿と思われる男が、ついに…リーマンの胸ぐらをつかむ。


「その大事に大事に持ってるカバンをさぁ…よこせって言ってんだよ。どうせ財布もそこに入ってんだろ?」


……おいおい。

これはアレだろ。

完全に豪運主人公、第二の“イベント”って

やつじゃねぇか。


助けるか?

見て見ぬふりか?


普通なら見なかったことにするが――


「……まぁ」


俺は頭をかいてボソッとつぶやく。


「犬も歩けば、なんとやら…だな」


正直、リスクはある。

相手は三人。

こっちは一人。

(リーマンは戦力になるかわかんねぇ)


だがさっきのひったくり事件で、なんとなく分かっている。

この体、前世の俺とは別モンだ。


それに何より――

俺は足元を見る。

さすが豪運型!鉄パイプがたまったま俺の足元に落ちてましたよと!


…犬も歩けば鉄の棒に当たることもあんだよな!


「ビビって口もきけなくなっちまったか?…もう待てねぇ、力ずくでもらってくぜ」


ボス猿がリーマンのカバンに触れようとしたその瞬間。


今だっ!


「…でぇい!」


「!?」


フードのモブ2人が驚いたようにこちらを振り向く。


ボス猿の後頭部を鉄パイプでぶん殴る。


「ぐ……っ!?」


鈍い音と同時に、ボス猿の体がぐらりと揺れた。

だが――倒れない。


「……っ、てめぇ……!」


振り返ったその顔は、怒りよりも困惑が勝っていた。それもそのはずだ。

俺自身、分かってる。


(……浅い)


手応えが、軽すぎる。

ビビって無意識に力を抜いてた。


そりゃそーだよ、人生初の“対人フルスイング”

ですから


「チッ、ガキが……!」


ボス猿が体勢を立て直そうとした、その瞬間だった。


…音もなく、スーツの男が一歩前に出た。


ドンッ!!


鈍い衝撃音。

何が起きたのか理解する前に、ボス猿の巨体が一気に崩れ落ちる。


見れば、スーツの男――

さっきまで胸ぐらを掴まれていたはずのリーマンが、

肘を引いた状態で静かに立っていた。


(肘打ち……?)


「な、なんだおめぇら!」


フードのモブ二人が一斉に動く。


一人がナイフを抜いてスーツ男へ。

もう一人は、俺の方へ突っ込んでくる。


素手で鉄パイプに突っ込んでくんのかよ!?


距離感とかよくわかんねーけど人生2度目の

豪快フルスイング!


ゴンッ!!


鈍い感触があった。

ビビって目ぇつぶっちゃったけど…ちょーど

脇腹にクリーンヒット!

さすが豪運!


…と同時に、もう1人のフード男が吹っ飛んできて脇腹ぐちゃぐちゃ男に激突。


「うわっ!」


…と、マヌケな俺はこれにビビって腰を抜かした。なにがなんだかわからない。

とりあえずは三人ともぶっ飛ばせたみたいだ。


「…いっててて…」

…腰を抜かした俺はおそるおそる顔をあげて前を見る。


「…ありがとう。」


そこにはとりあげたナイフを片手に、スーツ男が俺を見つめていた。


「君は、恐喝から…俺を助けてくれたのか?」


スーツ男はそう言いながらナイフを投げ捨て、倒れた三人を一瞥し、何事もなかったかのようにカバンを拾った。

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ネオ・ヴァルカ〜最凶最悪の超巨大都市で成り上がる〜 @issso

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