第1話「一文なしのハルイチ」
一旦…落ち着け。まずは状況整理といこうぜ。
ほんの少し前まで、俺は確かネオ・ヴァルカを
プレイしていた。
いや、正確にいうとプレイはできていない。
キャラメイクの段階だった。
深く考えず、軽めに調整。現実の自分より…少しだけマシな顔に。
たしかそんな感じでキャラメイクは適当にこなし、確認ボタンにカーソルを合わせた瞬間だった。唐突な吐き気、耳鳴りと共に視界が…世界が暗く塗り潰されていった記憶がある。
ドス黒い闇に。
底がなく…落ちていく感覚だけが続いていた。
そして、気づいたらこれさ。
状況から察するにやっぱりこれはゲームの世界に入り込んじまったみたいだ。
よくある…いや、よくみる…本当によくみる
マンガやアニメのあのおきまりのやつ。
ふつーゲームに入る時とか転生の時って明るい光にパーッと包まれてさ!気づいたらハッ!て感じじゃねーの!
せめてもうちょい清らかにこの世界に送ってくれよ……
そう。その上。その上だ。送り込まれた先がこの世界。
簡単に言えば、ゲーム自体は成り上がりシュミレーションゲーム。ゲームそのものとしては
圧倒的に自由度が高く、なにより面白いらしいんだが…その世界にいざ自分が入るとなると話は別。
舞台は…
なんと設定上、人口は3000万人にも及ぶとか。もはや国だと思っただろう。まさにその通り!
肩書きや言い方が違うだけで一つの国みたいなもんさ。この世界じゃ数少ないが独立型都市って
言うらしい…。
んでもって問題がこの街の特徴。
とにかく規模がド派手で、昼は金融と貿易の
中心、夜はマフィア・ギャング・企業・政府の
裏取引が蔓延る…治安も場所によっちゃ最悪で…
まさに暴力と金、権力が渦を巻く最凶最悪の
カオスタウン。
正直いってこの状況は早いとこ無理にでも飲み込むしかねぇ。
泣いても叫んでも元の世界になんか戻れねーだろうし。
…まだ若者ながら、まぁまぁに落ちぶれた人生だったな。
何者かになろうとしていたけど結局のところあのままいってても何も成し遂げられなかった気がする。
未練は…あるっちゃあるけど…
「あー!もーめんどくせぇ!」
思わず口に出ていた。
親にレールを敷かれて…色々失敗して…よくわかんねー人生だったけど!
せっかくこのゲームに、この街に。また新たに「生まれ変わる」ことができたんだ。
設定じゃ主人公の肉体の年齢は18!俺も一浪したばっかで18だったからあんまかわんねぇや!
「燃えてきたぜ…」
きっとどこかで憧れてたんだよなぁ、
new人生。
こうなったら新しい人生、この街で成り上がってってやるよ…一文なしのイチハルからな!
そうそう。名前を今初めて出したな。俺の前世の名前はイチハル。
確かゲーム名もそれにちなんでハルイチ…に統一してるはずだから…訂正。今俺は一文なしのハルイチだ。
もー決めたぜ。こっからだ…こっからぜったい成り上がってってやる…
リスクはとんでもねーがその分荒稼ぎしやすいはずだぜこのドリームタウンは!
意思がかなり強く固まった。
少し遠くに見える巨大タワーを再度眺める。
あれは間違いなくヴァルカタワー、だ。この
超巨大都市のシンボル、象徴的タワー。
そしてあのタワーはおよそ、この超巨大な土地の中心部にあるという設定があった。
おそらく見た感じタワーと現在地の距離はそこまで離れてはなさそうだ。
3000万人も暮らす広大な土地の中でのこの
距離。おそらく中心部に近い栄えてる大都市
部分からのスタート。
…しっかしどうしたもんかなぁ。
そもそも俺は主人公になったのか?それとも別の特殊な…?
いや、少なくとも見た目は俺が選んだ主人公なわけだしそのまま単純に主人公になったって認識でいいのか?
だとしたら、やはり何か特別なイベントが発生するはずだ。
…残念なことに俺はそもそもこのゲームの知識としては今まで語ってきたことくらいしか知らない。もっと事前情報を入れてたら、チートコースみたいなのを歩めたのかもしれない。
マジで惜しいことしたっ!受験落ちてヤケクソで始めちまって…あー前世の俺なにしてんだよ…
一体何をどうすりゃいいんだ!?
とりあえず、わけもわからないまま公衆便所のある公園から出て、道を適当に歩いていた…その時だった。
「キャァァァ!ひったくりぃーー!」
そう叫ぶ声が少し遠くに聞こえた瞬間、黒い物体が俺の横を通り過ぎようとする。
「うぉっ!?」
とりあえず直感的に足を出す俺。
「うがっ!」
黒い物体は…若い男だったようだ。
おそらく夜なのもあって、全身真っ黒の服でわからなかったが見事に俺の足に引っかかった。
一瞬で理解した。さっきの声は明らかに女性の声。おそらく年配の…マダム!
んでもってこいつが手に持ってるのは高そーな
ブランド物のバッグ。
声が聞こえてきた方向とこいつが走ってきた方向。状況を見るに今ぶっ倒れてるこの男はひったくり犯だろう。
「…」
無言でバッグを取り上げる。
「なにすんだテメェ!かえしやが…」
そう言って立ちあがろうとする男の腹に俺は強めに蹴りを入れる。
「…かひゅ…」
うまくみぞおちに入ったみたいだ。
前の俺は喧嘩なんかてんで弱いし人を殴ったことすらなかった純粋清楚ボーイだったが、
キャラメイクで体格をいい感じにしといたおかげか身体能力やパワーがかなり上がってるのを
感じる。
「息がうまくできなくて苦しいだろ。見逃してやっから早いとこ行っちまえ。」
俺がそう言い放つとひったくり野郎は苦しそうにおろおろと闇へ消えていった。
それからというもの、十数秒も立たないうちにやはり年配マダムがやってきて事情説明。
服装などから俺はひったくり犯じゃないことを証明すると…なんと10万エンの現金をお礼として俺に渡してくれた。
(補足:この世界の通貨の単位はエン。円じゃなくエン。価値は円と同じで、札も日本とおなじで基本三種類。差別化のためにカタカナにしてるだけなので日本人が知る円と同等のものだと理解しておこう)
思いもよらぬ形で大金が手に入ったのでとりあえず自販機でも探してなんか飲むことにした。
喉乾いたし。
自販機を探しながらふと考える。
今のはなんらかのイベントだったのか?
…だよな。
こんな真夜中にわざわざタイミングよく俺の目の前でひったくりが起きるわけねぇ。
くわえてお礼の金まで…
ネオ・ヴァルカは面白さもそうだが圧倒的自由度が売りのゲーム。
ゲーム上でさえ色々なことができ、
確か選択と共に数多の成り上がりの道がある。
とにかく行動をすれば何かに繋がったり、何かが起きたり…起きなかったり。そういうゲームだったはずだ。
つまりこれは主人公補正のイベントだったっつーことか?
軽くしかリサーチしていないばかりに、考察しなければならないポイントが多いのが…
なんともめんどくせー。しかしなぁ…
…さっきからなにか大事なことを忘れている気がする。
…何か、もっと根本的に大事なこと…。
「おもいだした!!」
これだ!
これはゲームの世界に入り込む前の話だ。
キャラメイクの前の名前を入力した後、
性質…とでといえばいいのだろうか。…型?
だったかな。
主人公の型を決めるところがあったんだ。
確か武力型、豪運型、カリスマ型、ミラクルランダム。これはそれぞれ、主人公の才能を選ぶもので…
武力型はそのまま、腕っぷしが最初の時点でかなり強くなる。身体能力も超上昇。
豪運型は単純に超豪運に、
カリスマ型を選べば誰とでもすぐに仲間になれる傾向に。人脈構築にめちゃくちゃ便利。
そしてミラクルランダム…これは完全に確率の話で、今述べた基本三つ、もしくはもっと弱い
どうでもいいような才能、もしくは……
三つの複合型の才能が低確率で出る。
ただしデータを消してやり直すことは基本できないため型のリセマラをするには
別の「ネオ・ヴァルカ」を買う必要がある。
つまり、あまりにも優柔不断なヤツ、ワンチャン狙うヤツはミラクルを選ぶんじゃねーかな。
どれがみんなに多く選ばれる傾向にあるのかは
正直わからないが、俺はめんどかったのでとりあえずミラクルを選んで…
豪運・カリスマの融合型が出た。
となると…おそらくさっきの10万マダムイベは豪運型のおかげ…と踏んでいいだろう。
融合型、か。
どんだけの確率かしらねーが、これ…チートスキルってやつなんじゃねーか!?
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