02
四月、下旬。まだ、時々肌寒い日があるものの、日は高くなり、書店を後にした時間でも、そこそこ明るかった。
少し寄り道をする。
県有林に接するその細路地は、電灯も立っておらず、細く、狭く、昼でも少し薄暗い。夜は真っ暗だ。
トトロの舞台となった田舎の町のような閑散具合の場所がある。
林に面した狭い道の続く道。反対側は小川が流れ、ここを車で通るのはかなり厳しい。標識はないので進入禁止ではないらしいのだけど。
そんな道の一角に、それはある。
小さな、小さな、祠。
いわゆる無縁仏? が祀られるような感じの木造のもの。ただここの祠は仏様も入らないんじゃ、ってくらい小さな、木箱のようなちいさなものだ。
その木の枠組みも朽ち果てて、地震でもあれば倒れそうな、そして倒れたらバラバラに壊れてしまいそうな、そんな祠。申し訳程度の屋根と枠組みの中にちょこんと収まっている。
それが、平らに削ってつくられた石の段に乗っているのだ。
俺はその石段の横に座り、財布から小銭を出して祠、というか木箱の前に置いた。
「あざーす、まいどあり!」
元気な声がする。多分、俺の頭の中にだけ。
「神さまこんにちは。今日も元気そうでよかった」
「おうともさ、あんたさんが俺の存在を繋ぎ留め、そして今日もこうして賽銭をくれる。少しずつ、少しずつ、おれは力を取り戻しているぜ!」
「神通力ってやつですかね」
「そうだが表現が違うな。おれらがあんたさんのような信頼する相手に力を渡す。これがあんたさんにとっての神通力となるわけだ」
「なるほど、だから神に通じる力、なんですね」
「そうそう。いずれ、もう少し力が戻ってきたら、少しずつ洋太に裾分けしてやるから、楽しみにしときな!」
「そ、それはどうも。楽しみにしときますよ」
「フフン。ん? 今日はどうした? 恋煩いでもしてるような顔して」
心読まれてるのか? いや患ってはないが。
「そうですね。実は今日は、神さまにお聞きしたいことがありました。今まで敬遠していたんですが、心霊というか、憑き纏う連中への対策を知りたいんです」
「ほほぉ。洋太もいよいよ全面戦争する気になったんだな。いいだろういいだろう!」
「戦争はしませんが、ありがとうございます」
「こっちこそだぜ! あんたさんは欲が無いからな、おれは常々供物をもらってばかりで、礼のひとつでもしたかったんだが、洋太が何も欲しがらないから悶々としてたんだぞ」
「そ、それはすみません。でもお礼が欲しくてお供えしてるわけじゃないですから、そこは気にしないでくださいよ」
「そうはイカのキ〇タマだぜ、以前も言ったが、どんな事もバランスが大事だ。偏り過ぎるのはマンタイだ」
マンタイ? モーマンタイの反対ってことか? あとイカのキン〇マってなに? 昭和のスラングなのだろうけど、まあ覚えておかなくて大丈夫だろう。
「じゃあ、今日は久しぶりに座学をしよう」
「お願いします」
ここで回想に入らせて欲しい。
というのも……誰にも言ってない事があるからだ。この事は店長にも、自分の婆ちゃんにも話していない。
俺は、心霊なんて見えないし聞こえないし、というか、そういう事にしたいと思っている。
みんなが視えてないものを見て、誰もいないところであたかも誰かいるように振舞っていた事で、周囲に気味悪がられ、嫌な思いをしたというのが、大きな理由だった。
もっとも、この声の主に言わせると、心霊ではなく、我はかつて神とされた存在だ! とのことらしいのだが。
神さまに実体がない場合、人は普通の霊と神との区別を恐らくつけられない。カテゴリとして両者がまったく別物だとは勿論分かっている。
だがそうではなく……問題です、ジャジャン(効果音)
あなたの目の前に、目に見えない存在がいます。これが、神さまか、ただの幽霊であるか、回答してください。
とか言われて、そんなの分かるわけ! って事だ。
そうした、姿の無い存在や、漠然とした概念を盲信すると、後で痛い目に遭いそうな気がする。だから、最初はこの声の主にも警戒した。
そんな自分がこの声、自称神さまの所へこうして定期的に足を運ぶのは、この声が語る話しには、店長と語り合うカルト系のそれと同じ質の匂いを感じているからに他ならない。
そう、信じるか信じないかはあなた次第だが、信憑性がそこそこある話を、この声は語るのだ。
「うへへ、そりゃあんたさん、これでも一応元は神だからな!」
とか自分で言っちゃってるのは、ちょっとどうかと思うけども。
この声と出会ったのは、店長と出会うより、少し前のこと。高校入学に際し、婆ちゃんの家に移り住んですぐ、入学直前の春休みだった。
俺にとってこの地はルナちゃんとの思い出の場所でもあるわけで、久々にここへやって来た俺は、あの時の可愛い幼馴染みと再会できないかな、とか淡い期待(妄想)を胸に、休みの間に町のあちこちをうろついていた。
あの頃の記憶を頼りに、空き地、公園、神社、河原、色々見て回った。家が建ったりスーパーやコインパーキングができたり、変わった場所もあれば、何にも変わらない場所もあって、昔ながらの景色に安心した。
ただこの細路地は、幼い記憶の中には無い。
こんな場所もあったのかとうろうろしてたら、唐突に声がした。
「メズいな。こんな場所までパンピーが来るなんて。余所者か? それともお客さん?」
確かに十二年来ならよそ者か、と。俺はその時、誰かに訪ねられたと思って思わず返事を返してしまった。
「あ、すみません、私有地でしたか?」
実際そう思った。でかい家でも近くにあって、そこんちの敷地内に入ってしまったのか、とかね。しかしそうじゃなかった。
「うっは! マブい、おれの声が聞こえてんの」
しまったと思ったし逃げようとも思ったが、俺は絡まれて、クダを巻かれて、話しに乗せられてしまった。
「ここよここ、祠があるだろ? おれはここに祀られてる神だよ! あ、元神って感じかな」
「元、神さま?」
「信仰を失って、力が消えたのよ。もうその辺の怪異と変わらん程度のじゃくじゃくしい存在だがな」
「じゃくじゃくしいて……」
結局興味深い話しに飲まれてしまって、逃げるはずが、祠の隣で三時間近く話し込んだのが始まりだった。
自称神さまは、ご自身がなんの神さまだったのかも、既に分からない状態でいらした。
そして、喋れるけど動けないし、人間に加護を授けることも呪うことも出来ない、無害な存在で、毒にも薬にもならないと言った。
結果から言えば俺の見識を広めてくれた恩人、いや、恩神とでも言うべきか。
薬になるような話を色々と聞くこととなった。
「あんたさん、おれの声が聞こえるってことは、テレパス(精神感応)体質だな。霊体が視えるのも、便利な反面厄介だろう。おれみたいなのにも絡まれるわけだし」
「自分でそれ言うんですか。まあ、神さまの話は面白いですし、厄介に感じたりはしてないですよ。まあ確かに厄介なのに出くわす事はあります。どこまでも引っ付いてこられた事もありますし」
「おれは地縛霊みたいなもんで、ここから移動出来ないが、浮遊霊の連中は確かに面倒だろう。視えるから、助けてもらえると思ってついてきちまうんだな。
よし、じゃあ対処法くらいなら教えといてやろうか? ただな、普段なら情報くらい、いくらでも渡してやれるんだが、今は力を消耗しててな。
物は相談なんだが、小銭か、甘いもんを供えてくれないか。出来れば薄皮まんじゅう。出来れば三色堂の薄皮まんじゅう」
「さんしき、どう?」
「知らないの? 甘味処兼和菓子屋、ほら、ナナホシ商店街の外れにある店だよ」
後で調べたが、その店は平成二十七年に閉店していた。後日それを伝えると、
「えぇ!? マジ? 超ショック! マジあり得ないんだけど! あんなうまい和菓子作ってるのに何で?」
と超ショックを受けていた。なんだか人間臭くて、最初の警戒も忘れて話を聞いてるうちに、なんか仲良くなってしまっていた。
昭和レトロな言葉を使う神さまだった。
マブいとか、マンモス○○とか、シャバ僧とか、グラサンとか、ショバ代とかザギンとかチャンネエとかシースーとかベーターとか。昔仲のよかった人間がよく使っていた言葉、だという。
この神さまが言うには、この谷代田町というのは開拓民の土地で、戦前(第一次世界大戦)は森と川と、川の下流にあるとなり町の海へ続く辺りまでは、ほぼ手付かずの自然地帯が広がる人外魔境だったらしい。
川沿いにわずかの集落があり、人々は暗闇を恐れ、怪異を信じ、神への信仰を強く持っていたと。
まあ、第一次世界大戦前ともなれば、ええと、1910年代か。かなり古い時代の話になる。
当然ネットもなけりゃゲームもない。わらべ歌に、お手玉や、けん玉や、ベイブレードで子供たちは遊んでいたんだろう、そんな時代だ。
科学は未発達だったろうし、神さまは今より人に近い場所に存在したのだろう。
それも時代と共に、集落が大きくなり、村になり、町になり……谷代田はまだまだ田舎の町ではあるが、コンビニや二十四時間営業の施設が中心部に立ち並び、そこでは光が消えなくなり、夜の闇は濃度を薄めた。
怪異が、魑魅魍魎が跋扈することも少なくなったが、同時に神さまの存在も小さくなった。
そして今、俺の隣にいる自称神さまも、人々の信仰を得られなくなり、姿形を維持できなくなり、声だけの存在となってしまった、というのだ。
で、俺はそんな神さまの声を聞いてしまい、さらに返事までしてしまった。
「いやぁ、薄皮まんじゅうだけに、薄皮一枚でおれの存在が現世に繋がった。マァジで消えちゃう五秒前、エムケーファイブだったのよ?」
と、後日、三色堂の薄皮まんじゅうの代わりに、近所のスーパーで適当に買ってきた和菓子ミックスを祠に供えた俺に、神さまはデレデレの態度でお礼などを言ってこられた。
そう、俺は偶然、自称神さまを助けてしまった。信仰を失って存在が消えかけていた神さまを、たった一人だけど俺は、神さまがそこにいるんだと認識してしまった。俺の認識が、神さまの存在を少しだけ安定させる事になったというわけだ。
「遠山洋太、覚えたぞ、消えるまで忘れんわ、あんたさんはおれの生命維持装置だわ。マジ超マンモス恩人だわ」
しかしこの神さま、大袈裟すぎる。
「いや大袈裟じゃないぞ。あんたさんが居なくなった時が、おれが消える時だもん」
「や、あの、神さま? 過度なプレッシャーかけないでくれませんか?」
「だってホントのことだから、しょうがないじゃん? ウヘヘヘ! あ、それと、恩人なんだし、おれは『元』神ってだけなんだから、敬語なんていらないぞ、もっとフレンドリーに来てくれ。マブダチくらいの感じでいいんだぜよ!」
ヒヤヒヤしながら伝えた俺の言葉など全却下だ。
以来、生命維持装置などと言われてしまった俺は、勿論神さまの話が面白いからって理由もあるが、何だか気が気じゃなくて、定期的にこの祠に通うようになり、その度に、ちょっとしたお菓子や小銭を供えるようにもなった。
建前としては、こうして神さまとの関係が構築されたというわけなのだが……。
「いやぁ、洋太、あんたさんマジで救世主だわ。おれのような怪しいモンのところに通ってくれて。通い妻じゃん」
「いや男だから。ていうか救世主じゃないです。俺はネオのように空も飛べないし、銃弾を空間で停止させられないし」
三度目の来訪の時にはもう軽口をたたき合うくらいにはなっていた。相変わらず声しか聞こえなかったが、本音を言えば、ボッチの俺に、むしろ俺のような陰キャに気さくに接してくれて、俺こそ心の片隅で嬉しいと思っていた。
神さまは怪異についての情報、というよりは、大枠で「良くない存在」に対する対処法を教えてくれた。その内容は、後に店長から聞かされる『都市伝説空想科学』に傾倒する内容だった。
何故、清めの塩が、塩であるのか。とか、神々が酒器を供物として必要としたのか、とか。
「そもそも天の神さまなんていうけど、天よりこの地に飛来するものってのは昔から決まっていて、土着の地球人にとって、いわゆる宇宙人なのよ。んでな、人間に悪さをする宇宙人は、人間にとっては邪神なわけ。むかーしむかし、特定の宇宙人が人類を奴隷にしようとしたり、いじめて遊んだりしてたんだ。
けど、そんな連中を良く思わない、別な宇宙人もいた。こっちが人間にとって善良な神さま。けど地上に降りて直接悪い神さまとやり合うのは、生態系をぶっ壊したり、不都合な事が多かったから、対策として人間に弱点を教えたんさ。そのひとつが塩。塩の化学成分、分かるかな」
「塩化ナトリウム、NaClですか。じゃあ、悪い宇宙人、すなわち邪神の類は、構成塩基に塩素かナトリウムという化合物が、劇薬か何かのように作用したと?」
「そう。それが清めの塩として日本人の文化に残ったわけだ」
「なるほど。うーん、でもそれだと、その邪神にとっては、地球そのものが劇薬になるんじゃないんです? だって地球の七割は塩水なわけだし」
「するどいな! そう、だから古い時代にやってきた奴らは、今でいう核兵器に近い武力を持って、海を消そうとしたんだ。これが、ええとどこだっけかな、キリスト教か、あれでいうサタンたちの天からの襲撃なんだよ」
「神さまは、神話が現実だったと言うんですか」
「神話は過去の人間たちの口伝を文字にしたもんだからな。誇張はあるけど、半分くらいは本当だったと解釈していいよ?」
「じゃあ、核兵器のような凄い武力を持ってたサタンはなぜ、古代人を掌握出来なかったんですか?」
「何故だと思う? あんたさんの推論を聞いてみたいぜ」
「まあ、安直だけど、善良な宇宙人、つまりキリスト教で言うなら光あれの方の神さまたちが人間に加担したから、ですかね?」
「そ! なんとかの箱舟、だったかな? あのくだりだ。海水を枯渇させようとした悪性星人に対抗するため、善良星人は、逆に塩水を大量発生させる兵器で応戦した。結果大量の水が地球に降り注ぐことになるから、自分たちの母船に土着の地球人類と動物たちを避難させたんだ。
ちなみにだけど、この時使った兵器の残骸が、月ね。元々地球の重力圏をかすめ、太陽に向かう角度で侵入してきた小惑星だったんだけど、これに水分がたくさん含まれていたから、兵器に転用したんだ。宇宙空間を渡って地球に大量の水を降らせたのさ。
ただ、結果地球パイセンの体重が重くなって、太陽系の軌道が狂いそうになったから、小惑星は地球の軌道上に回して公転修正に利用すれば都合がいいから、そのまま地球パイセンの衛星にした。これが月の起源」
「うぉぉ、脳みそ弾けるぜ。てか、ジャイアントインパクト説全否定っすね。
って……あれ? その話、確か木内鶴彦さんの本に似たような事柄が載ってた気がするな……。
ねえ神さま、地球の古代人って地底に住んでたとかあります?」
「ああ、あるよ一部」
「ガチかよ。興味深い」
「ウヘヘ、洋太ってやっぱり賢いよな。異星人侵略の話をしただけで地底文明まで推察出来る人間は、おれの知る限りじゃあんたさんくらいしかいないよ」
「いや、違いますよ。俺がカルト系厨二病で、前情報を集めてたから知ってただけの話で」
「チュウニ病? それはこの前言ってたレトロウイルスに類する感染病の一種か?」
「あーと、中二病については、なんて説明したらいいのかな」
ってな感じで、神さまと俺は対話しながら、現代の文化や、都市伝説についてを話した。神さまはそれをいにしえの知識に当てはめた解釈で再翻訳したりして、神さまと話す時間は俺にとっても脳みそをぶっ飛ばす良い時間となった。
ちなみに神さまが酒を欲するのは、車にガソリンを入れるように、アルコールが燃料となるからだと言われたが、お酒っておいしい飲み物だから欲しいんじゃないのかと首をかしげる思いだ。まあ、俺は未成年だし飲んだことが無いので何とも言えないが。
っと、長くなりそうなのでこの辺にしておこう。す、既に長いと思われたら申し訳ない。でもこれはまだ馴れ初めに過ぎず、この後一年こんなやりとりは続いて今に至るのだ。
こんな得体の知れない神さまを、本気で信じる気になったのは、神さまの元に通い始めてから数週間してのこと。
俺は無事に谷代田高校に入学を果たし、ボッチとなり、五月の連休も終わり、梅雨になり、それもたけなわ、という頃合いの事だった。
「ゴミ拾いをするといい。あと、掃除。特にトイレ掃除は最高にいい」
「金運アップ、的な、運気があがるからですか?」
「そ。運と気について教える時が来た。座学の時間だ。さて、良いものを引き当てる確率が高い事を、運がいいと言うよな」
「はい」
その日はスーパーのフードロス削減のための見切り品コーナーに売られていた、六十八円の薄皮まんじゅうをお供えした日だった。神さまは大喜びした。俺は見切り品で申し訳ないと思ったが、
「気持ちが大事よ。あんたさんは、おれが薄皮まんじゅうが好きな事をちゃんと覚えていて、これを供えてくれた。その気持ちがおれは嬉しいのよ」
と言ってくれた。お供えした小銭や和菓子が、次に来た時には消えてるから、俺もそろそろこの声の主がただものじゃないことは感じ始めていた時だった。神さまは言った。
「運の正体こそが、ダークエネルギーだ。すなわち、意思の力」
「うーん……おーん……。宇宙の始まりはビッグ・バンじゃなくて、全の意識、すなわちアカシックレコードのひずみだった説ですかね? これもまた木内先生の本にあった話ですね」
「察しがいいな。そういう事だ。大きな意識から生まれたから、宇宙ってのは意識と言う名の情報によって作られている」
「つまり意識の力こそが、我々下等人類がまだ計測すら出来ないダークエネルギーの正体と」
「ウヘヘ、その通りだが、下等などと卑下しちゃいかんぞ。なぜなら言葉はイメージになり、意識になるから。そして意識とは、今言った通り力そのものだ。
情報とは意思であり、意識であり、イメージだ。これが宇宙を満たしているエネルギー、すなわち力そのものなんだ。だから上質な意識は上質な力になる。この図式を忘れるな。これが宇宙の真理だ」
「な、なるほど。自虐についてはすみません。てか、今俺は、さらっと宇宙の真理を教えられたんですか?」
「そだよ。はっはっは、仰々しく捉える必要なんてない。おれたちだって宇宙の中の、小さな地球パイセンの上に存在してるんだ。目に見えないだけで、真理なんてどこにでもある。身構える必要はない」
「うーん、なるほど。そう言ってもらえると少し楽にはなりますが。ちょっと、咀嚼するのに時間はかかりそうな話でした」
「真理を求めるのに急ぐ必要はないさ。時間がかかるなら、ゆっくり時間をかけたらいいぜ」
「そっか。分かりました……。そうだ、それで、最初のトイレ掃除やゴミ拾いが、今の話に繋がるんですか?」
「おうとも。今までたくさん供物をくれた洋太に、おれはこれから少しだけ、出来る範囲でお返しさせてもらおうと思う。マブダチのしるしだ」
マブダチは未だに恐れ多いのだが。そんな神さまが言うには、今からナナホシ商店街に行って、ゴミ拾いをせよ、とのことだ。
「意識の宇宙の中に、行動の世界であるこの地球パイセンが存在する。ここでは行動が九割、意識が一割と思えば分かりやすい。この割合は厳密には変化するが、話が長くなるので今は割愛だ。意識と行動は介在し合えるとだけ覚えておいてくれ。
それから原理だけ、最初に説明しとこう。あんたさんは俺に小銭と和菓子をくれた。時として、相場ってのは変化する。人間が作った文化も同じく。一円の価値が百円くらいになることもある」
「そ、それは凄いな。百倍株だ」
「そ、あんたさんがくれた百円が、おれの中で壱万円になることがある。その百倍株をプレゼントしよう。では、いってらっしゃい」
「え? あ、ホントに今からなんですね。分かりました」
俺は神さまに言われるまま、今はもう寂れかけた商店街、ナナホシ商店街に行き、ゴミ拾いを始めた。スーパーで買い物して、レジ袋を持っていたしちょうどよかった。
寂れた商店街だったが、俺が見たその時、妙にゴミが落ちていた。空き缶、お菓子の包み紙、ティッシュ、不織布マスク、吸い殻、諸々。
それらを追っていくうちに、商店街から外れた道に出ていた。ふと、道を歩く人の姿を目にとめた。杖をついた年配の女性だった。路面の点字ブロックを杖で探っていて、盲目の人だと気付いた時、その数メートル先の点字の上に捨てられたごみ袋があり、カラスにでも食われたか、中身が散乱していた。
このまま歩いて行けば、足を取られて転んでしまうかもしれないと思って、俺は咄嗟に声をかけた。
少し驚いて立ち止まる女性に、突然声をかけてすみませんと言いつつ、目の前にゴミが散らばっている事を説明し、手早く拾って集めた。
杖の女性に何度もお礼を言われたが、もしかしてこれが、神さまが何か仕組んだことなのかと思って、素直に喜ぶにはややはばかられた。
「ところで、ナナホシ商店街という場所に、斎藤呉服店ってお店があるんですが、道は合ってますか?」
女性に聞かれた。その店には心当たりがあった。以前神さまに、三色堂の薄皮まんじゅうの事を聞いて、商店街の地図を調べた事があったので。
「場所知ってますんで、よかったらお連れしましょうか」
俺はその杖の女性と、呉服店まで行った。道中は十分少々の距離だったが、女性はその呉服店は親せきが経営していて遊びに来たのだと説明した。
呉服店について、何度もお礼を言われるので気恥ずかしくなってすぐに俺は撤収したが、少しだけいい事が出来たかなと嬉しくも思った。
「見ていたぞ、若者よ!」
帰り道、突然かけられた声に俺はビビり散らかして肩をビクンとさせてしまった。
そこに、まるで亀仙人のような男性が立っていた。
「おろ、昔ワシの店に来た事あるよな? 覚えとる? ブック=オープンの店長だよ。しかしキミ、いい事するんだな、今どきの若者にしては珍しい。良ければ来ないか! 一杯奢るよ!」
「い、一杯って……」
これがきっかけで、俺は店長の書店でバイトする事になり、この店長に色々とお世話になる事となった。
神さまがこの一連のきっかけを作ったとするのなら。
確率を操り、俺を店長へと巡り合わせてくれたということになる。結果俺の人生は好転した。これがダークエネルギーの運用なら、神さまは本当に宇宙の法則を利用し、運用したことになる。
これを信じたから、俺は神さまを本当に神さまなのだと疑わなくなった。
以上、回想終わり。
ちなみにだけど、以来バイトの帰りや移動時間に、少しずつだがゴミ拾いをする習慣が身に付いた。
運気は……どうだろう。学校でのクラスカーストは相変わらずだったし。でも、俺は神さまに、店長も含め、やたら年配の方々にモテるようになった。
「聞き取り調査をしよう。あんたさんがテレパスであることは先刻承知だ。そしておれとこうしてやり取り出来ることも。では逆に、影響を与える事は出来るか?」
現在に戻って。
「それは、意思を伝えるってことですか? 心霊に?」
俺は神さまからの座学を受ける。久しぶりだ。最近は雑談と、時々脳みそぶっ飛ばす宇宙論の話。店長とのやり取りと似たり寄ったりだ。
「意思だけではない、もっと雑に言うと、触ったり、ぶん殴ったり出来るかということだな」
「それは無理ですね。あ、いや、というか、触ろうと試みた事が無いです」
「なるほど。送信はいずれ、要検証だな。
さて、相手と情報のやり取りにおいて、受信は出来るが送信が出来ない状態は、いうなればテレパスの中でもレセプション、レシーブというのかな? それになる」
レセプション、つまり受信ということか。では送信はすなわち、神さまが言うところのぶん殴りのことだろう。要は、憑いてきた奴に、憑いてくんなと一蹴する力。
「今のところ、送信、すなわちトランスミットは未検証なので、出来ない前提で、エネミーを攪乱して逃げる方法を伝えておこう」
「あるんですね。あ、もしかして、塩とかですか?」
「塩化ナトリウム水溶液は、一部の宇宙生命への防衛手段にはなるが、心霊のすべてには効かん。効く奴も一部にはあるがな」
「一部には効くんですね」
「うん。だがどんな手合いに出くわすかは分からないため、ここではもっと汎用的に効かせる必要があるな。だいたいの雑鬼が、一瞬姿が保てなくなるくらいには散らせるものが」
「それは、何ですか?」
「爆弾だ」
...what?
「心霊はなぜ心霊足りえるのか。そこにエネルギー場があるからだ。何もないところには、何も依存できない。分かるな?」
「ええっと、何かを定着させるためには、そのエネルギーを安定的にその場にとどめる源がある。だからそれをぶっ壊せと?」
「そ。簡単に言うと、依り代となる何か、だな。心霊の場合は、微弱な電気と、振動。簡単に例えるなら、電磁波みたいなもんなんだ」
「じゃあテレパスの中のレセプション、受信ってのは、その振動を……」
「そうそう、相変わらず頭の回転速いな。振動するってことは周波がある。これを受信できるアンテナは、基本的に全人類が持っているが、感度は人それぞれ。
鋭敏、を通り越して過敏になってくると、本来物質ではないものを脳が物質と認識してしまい、視覚的に視えたりすることがある。これが受信の正体だ。霊感てのは、乗り物酔いみたいなもんなんだよ」
「つまり俺も一部過敏だから、視えたり、こうして神さまの声が聞こえたりすると」
「おうとも。これが心霊の基本理念でもあるから、覚えとくといいぞ」
でも、その周波数を乱すのに爆弾とは、何というか……。
「常に炸薬を持ち歩けってことですか?」
「うーむ。結論を言えばそう。『ダイマナイト』持ってりゃいいんだけどな。まあそういうわけにはいかんだろうから、代用できるものを考えるんだ」
電磁波を散らすなら、どうする?
「強力な磁石とか、ですか?」
「残念ながら、そこそこ強い磁力でも、電磁波を攪乱する事は難しい。お使いの携帯端末のケースは、マグネットで蓋が閉じる仕組みだろ?」
それは確かに。あれはスマホにマグネットがほぼ影響しない事を意味している。じゃあ、なんだろう。
「それに、電磁波みたいなもん、とは言ったが、霊の正体がイコール電磁波と言ったわけじゃない。
さすがにムズいから、手っ取り早い回答のひとつを挙げよう。簡単に用意できるもののひとつは、音だ」
「音、ですか? 確かに、音もそれ自身が振動ですけど」
「仏教では、木魚を叩き、鈴(りん)を鳴らすよな。なんでチーンってやるかっていうと、死者の魂と共鳴させるため、鈴の音で発せられる振動を利用するんだ」
「それが大元の由来なんですか。でも逆に、共鳴しちゃまずいんじゃ」
「まあね。送信可能なら、あえて共鳴させた状態で相手を浄化するという手段が使えるが、今はその前提ではないのでこれも割愛だ。
よって、鈴を使うんじゃなくて、もっと別の適当なもので、でかい音を立てるんだ。物質の体を持たない連中を振動で散らす、イメージ分かるかな。この振動ってヤツは重要な要素で、時に物質の体を持つ奴にすら効くことがある。この振動をすこぶる嫌う宇宙生命もいるんだ」
「あ、ヴェノム! なるほどそういう事ですか」
何でもいいから、ガチンガチン音を出して、振動で相手を攪乱させろって事を、神さまは言ってるらしい。
「音の他には何かないですか?」
「他か。振動を発している本体をぶっ壊す。おれで例えるならこの祠をぶっ壊しちまえばいい。そうすりゃ俺が依り代に出来るものがなくなって、いずれ消える」
「ご自分をそんな滅相もない例えに挙げないでください……」
結局、爆弾が最適解だった。
あと、神さまわざとダイ「マ」ナイト、って噛んでたな。ツッコミ損なっちまった。
引用、出展、参考文献等
トトロ となりのトトロ 監督:宮崎駿 スタジオジブリ
ベイブレード 販売:タカラトミー
救世主ネオに関する記述 マトリックス 監督:ラナ・ウォシャウスキー リリー・ウォシャウスキー
サタンの襲撃に関する記述 キリスト教、新約聖書、その他
光あれ、及びノアの箱舟に関する記述 旧約聖書、創世記
「臨死体験」が教えてくれた宇宙の仕組み 著者:木内鶴彦
映画ヴェノム 監督:ルーベン・フライシャー マーベル・エンターテインメント、その他
ご挨拶
当作品を読んでくださりありがとうございます。
一応書いている者です。
年末年始の連休中(それ以前も含め)創作した文を投稿致しました。
一応社会人で、明日から仕事となりますので、これ以降の投稿は、週末、週に一度程度の頻度での投稿になります。
当作品、山姥の騎士について、現代ファンタジーというジャンルに設定しておりますが、ここまでの通りで、怪異、都市伝説、その他少しの空想科学要素などを含んだ作品となっております。
投稿頻度は低くなりそうですが、自分自身が納得できる形での完結までは続けたいと思いますので、よろしければ、また読んでくだされば幸いです。
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