第8話


「……で、リリス! クエストっていったい何を受けるつもりなんだ?」



「はぁー……。ホントに何も知らないのね? 良い? 先ずは、冒険者になったらギルドが貼り出したクエスト票から好きなクエストを受諾できるの! もちろん最初はEランクからよ! そして、ギルドが決めた規定をクリアーすれば、ランクが上がっていく仕組みなの!」




リリスは、どこか得意げに解説を続ける。




「ランクが上がれば、危険は伴うけどそれだけ高額な報酬が得られるわ! だから、最初はスライムとかアーモンドリザードとかを討伐して日銭を稼ぐのが定番ね! まぁ、いずれはランクが上がってドラゴンとかを討伐出来たら万々歳よ!」




なるほどな。




いわゆるこの世界は、定番のファンタジー世界らしい。




レイナさんのような「もふもふ獣人」もいるし、ステータス表に「魔法」の文字もあった。




俺の職業が『自宅警備員』じゃなかったら、今頃は夢の異世界ライフに胸を躍らせていただろうに。




しかし、それよりもだ……。




「リリス……もう一つ聞いて良いか?」



「何かしら?」



俺は、目の前の「光景」に対して全霊のツッコミを叩きつけた。




「なんで、お前は昼間からっ! から揚げをツマミに泡の出る飲み物なんかを飲んでんだよおおおおおおぉぉぉぉーっ!!」




俺の声が、食堂の中にこだました。




そう、あろうことかこの「ひよっこ勇者」は、ギルドに隣接する食堂で酒……いや、泡の出る飲み物を昼間から優雅に煽っていたのだ。




「べ、べつに! 良いじゃない! 何事も焦っても良い結果は得られないのよ? それに、クエスト中にお腹が空きすぎて倒れでもしたら、それこそ危ないじゃない! 身体は一つしかないし、仮に死んでしまったとして蘇生魔法なんて使えるのは国に数人いるかどうかよ? ハルトは、デビルトマトが死んだ時見たいにグチャってなりたいわけ?」




そう言いながら、リリスは皿の付け合わせのトマトをフォークで無残に潰して見せた。




「……百歩譲ってだ。仮にリリスの言う通りだとしても、武器や装備の新調とか、モンスターの情報を仕入れるとか、やる事はいくらでもあるだろっ! なんで、お前が一番最初にやる事が『昼間から一杯やる事』なんだよ! お前、それでも勇者かよっ!」




「ちょっと待って! 勇者だからっ! 可憐で可愛い、勇者様だからっ!」




「ひよっこ勇者だけどな」




「なっ! ハルトだって、全ステータスEランクで職業だってわけのわかんないヤツだしー! 今まで、どうやって生きて来たか知らないけど、良く恥ずかしくも無く人前に出られるわねぇー! わたしなら、屈辱過ぎて死にたくなるレベルよ!」




「何をーっ!」




「なによっ!」




俺とリリスはテーブルを挟んで、ガシッと手を組み睨み合う。




……異世界に来て最初のクエスト。




俺たちの前途は、多難どころか「遭難」しそうな勢いだった。

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2026年1月11日 07:46 毎日 07:46

熱盛!女神に騙され、残念な仲間たちと借金を抱えた俺はもう、ダメかも知れない!(借金返済ファンタジー) 空飛ぶチキンと愉快な仲間達 @sabanomisoni0730

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