第4話
「で、リリスはホントに勇者なのか?」
「もうー! ハルトったら、何回も言ってるでしょ! わたしは、勇者ったら勇者なの! それも今までのむさ苦しい勇者とは違うの! 可憐で、美少女で! 誰もが羨む位強い勇者様なんだから!」
リリスはどうだと言わんばかりに胸を反らせて見せた。
自分で美少女とか言っちゃう辺りでお察しだぞ。
三時間ほどかかったリリスの長い話を要約すると、こうだ。
ある日、女神アリスから魔王討伐の天命を受け、勇者になった。
元々は代々勇者を輩出してきた貴族の家系。
十日前に旅立ったものの、道に迷って彷徨っているうちにこの街に流れ着いた――。
そう、迷子である。
助けてもらったお礼に小麦粉の仕入れ作業を手伝った俺たちは、冒険者登録をするために街の中央にある『冒険者ギルド』に向かっていた。
「けど、リリスが自称勇者なのは分かったが剣はどうしたんだ? 勇者の家系なら鎧はともかくとしても、剣位はありそうなんだが……」
リリスの格好は、どう見ても軽装だ。
「自称じゃ無いから! 勇者だからっ!! けど……剣は……ったわ……」
「うん? すまん! もう一度言ってくれ。剣はどうしたって?」
「だからー! 剣はー! ……ったわ……」
「え? 良く聞こえない」
「あーっ、もうー! そうよ! 先祖代々伝わる勇者の剣は売ったのよ! ねぇー悪いっ!? そりゃあ、誰っだって何日もご飯を食べてない状態で! この街に来る前に、たまたま寄った街の露店に美味しそうなお肉があったらそうするわよね? お金だって途中で落としちゃうし、無一文だったら大切な鎧とか剣でも質屋に持って行って売るわよね!? だって身体が資本でしょ!? わたしが死んだら魔王討伐とか言う話しじゃないじゃない! それに、一回家に戻ろうかとも思ったけど怒られるのはイヤだったし……それに……」
「……それに?」
「それに……帰り道が分からなかったから……」
リリスはズドーンと落ち込んだ。
もう、なんというか目も当てられない。
「け、けど……勇者の剣って言う位だからそこそこの値段になったんだよな?」
頑張って話題を変えようと試みる。
「……三万ギル」
「それって……高いのか?」
「三食ご飯付きの宿に泊まったら、三日で無くなる位の金額ね……」
「…………」
「…………」
二人で無言のまま、トボトボと歩く。
「ねぇー……ハルト……」
「……なんだ?」
「わたしって……もしかして……大変な事をしちゃったのかな?」
「…………」
「ねぇー……ハルト……。どうして……黙ってるの?」
「……いや……あれだ! うん、そう……」
必死に励ましの言葉を捻り出そうとするが、何も出てこない。
「ねぇー……ハルト……。どうして……さっきから目を見て話してくれないの?」
リリスが俺の顔を覗き込んできた。
俺は……そっと、リリスから目を逸らす。
そして――。
「ああああああああああああああぁぁーっ!! ねぇー、どぉうしよー! ねぇー! ハルトおおぉぉーっ! 仲間なんだから、たじゅけぇてよぉーっ! 見捨てないでぇー! うわあああぁぁーんっ!」
「お、おいやめろ! 涙と鼻水を俺の服に撒き散らすなっ! って、かむなっ! 俺の服でちーって鼻をかむなー! 人が見てるから! ねぇ、やめて! もう、ホントにやめて! 分かった、分かったから!」
なんとかリリスを引き離し、俺は考えた。
なんなら、作者も考えた。
もう、勇者が剣を売った時点でこの話し終わりじゃね? と。
『「熱盛!」じゃなくて、「冷盛!」異世界ラブコメを待っていたのに、無双出来なかったらしいですよ! 完』でいいんじゃね? と。
……てか、「作者」って誰のことだ?
リリスは顔面を鼻水と涙でぐちゃぐちゃにしていた。
「ねぇ……ぐす……。ハルト……。いい案、浮かんだ? ぐす……」
「そうだな……。リリスは剣を質屋に売ったんだよな? そ、それなら……金を貯めて買い戻したらいいんじゃないのか?」
リリスの顔に、みるみるうちに生気が戻っていく。
「そうよ! そうだわ! お金を貯めて剣を買い戻せばいいじゃない! ハルトのくせにやるわね! さぁ、そうと決まれば早速『冒険者ギルド』に乗り込むわよ!!」
「ハルトのくせに」は余計だ!
そう言い返そうとしたが、やめておいた。
面倒なことになりそうだし、何よりリリスは一人でウキウキ気分で歩き出していたからだ。
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