第3話
ガツガツ、もぐもぐ、ガツガツ。
「おかわりっ!!」
少女は凄まじい勢いで飯を食らう。
……いや、もうそれで五杯目だぞ?
「まだ、おかわりはあるからねー! たーんと食べな!」
パン屋の女主人は、聖母のような笑顔で台所へ戻っていく。
本当に申し訳ねぇ。
路地裏で困り果てていた俺と少女を、この女主人が心配して声をかけてくれたのだ。
「てか、なんでお前はあんな事になってたんだよ?」
「お前じゃないから! わたしにはお父様とお母様に貰ったリリスって言う大切な名前があるの! てか、あなたこそ名前を聞いて無かったわね? 特別に、助けてくれたお礼に名乗ってもいいわよ!」
「いや、大丈夫だ」
「なっ……。せめてね、ほら……。名前って大切じゃない? こうやって出会えたのも何かの縁だし……。そ、そうよ! それこそ、女神アリス様の導きがあっての事だからね! と、特別に名乗っても……」
「だが、断わる!」
「けど……。ほら、名前を知らないとこれから先不便じゃない? やっぱり……仲間になるのなら、コミュニケーションも大事っていうか……ねぇ?」
「いや、仲間になった覚えはないぞ?」
これはマジなやつだ。
俺は本気で言っている。
「ぐす、なんでぇよぉ……。 名乗りなさいよぉ……。 わたしが聞いて上げてるじゃない……。ねぇ、ほら! 早く! 遠慮しないで!仲間なんだから! ねぇ!」
だめだ。
やっぱり、とんでもなく面倒くさいやつに捕まってしまったらしい。
「こら! 男の子が女の子を泣かせるもんじゃないよ?」
皿にスープを入れて戻ってきた女主人が、俺をピシャリと叱った。
「……ハルトだ」
仕方なく、俺は名乗る。
「そう、ハルトって言うのね! いい名前じゃない! それなら、最初から恥ずかしがらず言えばいいのにー! もうー、ハルトは照屋さんなんだからー!」
こいつ、ぶっ叩いていいか?
「てか、おま……リリスはなんでこんな事になってんだ?」
「……こんな事って?」
リリスは、何のことかさっぱり分からないという表情で聞き返してきた。
「じゃあリリスは、なんで倒れそうになるまで腹が減ってたんだ?」
「そうねー……話せば長くなるんだけど、これから命をかけて戦う仲間に隠し事をするのもね……。も、もちろん! わたしの、スリーサイズとかそう言う乙女の秘密はダメよ! けど、最近胸が大きくなってきたわねぇーって、お母様が言ってたし……。は、ハルトがどうしても知りたいって言うなら! ほ、ほら! ハルトもやっぱり思春期の男の子でしょ? そう言う女の子の身体に興味があるのはわかるけど……。わたしとハルトは出会って間も無いわけじゃない? だけど、やっぱり物事には順序ってモノがあると思うのだけど……。ハ、ハルトはどう思う?」
「どう、思うって言われてもな……」
正直、「知るか!」としか思わない。
ホントに俺の「美少女イベント」が来たという淡い期待を、今すぐ返して欲しい。
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