第2話


気が付くと、俺は街の入り口に立っていた。



石畳の道、レンガの家々、輝くステンドグラス、そして遠くの時計台。



「やべー。ついに来た、夢にまで見た世界だ……!」



行き交う冒険者、馬車、響き渡る鐘の音。



帰りたくねぇ。夢なら一生覚めないでくれ。



……あ、待てよ。



あのクソ女神が宣った「俺の死因(黒歴史)」を思い出し、慌てて下半身を確認する。



「ふぅー安心してくれ。履いてる」



だが、格好は完全なる寝間着(Tシャツとスウェット)。



道行く人々の視線が痛い。



「……とりあえず、服からなんとかしないとな」



歩き出したはいいが、金も知識もチート能力も無いことに気づく。



普通、ラノベなら「困ってる美少女を助けてフラグを立てる」あたりから始まるもんだろ……。



そう思った瞬間、目の前に「何か」がひらひらと舞い落ちてきた。



拾い上げると、布のような肌触り。それでいて、強烈な親近感。



「き、きゃーーっ! へ、変態よっ! 下着泥棒だわっ! だ、誰かあぁーーっ!」



「なっ!」



どこからともなく現れた女性が俺を指さし、一瞬で守衛が集まってくる。



「おい、どうした?」



「あ、あの人がっ! わたしの下着をっ!」



「なにっ! それは本当か!」



「ち、違うっ! 俺はただ道を――」



パサッ。



俺の手の中で、女物のパンティが風に揺れた。



「…………」



「…………」



「か、確保ーーっ!!!!!」



「い、いやあああああああああああああああああぁぁぁぁぁーーっ!!」



走る、走る、走るッ!



異世界に来て早々、ブタ箱行きなんてたまるか!



後ろから鬼の血相で追ってくる守衛を、人生最高の猛ダッシュで振り切る。



「ぜぇーっ、ぜぇーっ……。し、死ぬかと……思ったぞ……」



裏路地のゴミ溜めで息を整える俺。



「いきなり勘違いイベントとか、期待してないからな……。……待てよ」



金なし!


家なし!


仕事なし!



残ったのは、ただの変態扱い。



「なにも良い事、一つも言ってねぇーじゃねぇかあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」



叫ぶ俺の耳に、情けない音が届いた。



ぐー……。



「腹の虫が鳴った?」



いや、違う。



そこには、芸能人級の美少女が立っていた。



(き、キターっ!!)



さっきのクソ展開は前振りか! こっちがメインイベントだな!



「ゴホンっ、私に何か用でしょうか? お嬢さん?」



ギャルゲーで学んだ決め顔とイケボで返す。



「はひぃ……。用って程では……無いのですが……」



なんだ? この子、様子が変だぞ?



「お嬢さん、大丈夫で――」



突如、彼女が豹変した。



「ねぇ、あなた!? も、も、もしかして、こんがり焼いたアーモンドリザードだったりしない? てか、お肉でしょ! お肉の匂いがするもん! お願いだからあああああああああぁぁぁぁぁーっ!!」



「なっ! やめろ、離せ! それは近くのダクトから出てる匂いだ! 俺の服でヨダレを垂らすな!」



「ご、ごめんなしゃい……つい、おひぃしそうな匂いがしたから……。うぅ……わたし、これから……ぐじゅ」



「どうしたら……って……おい! 噛むな! そこは俺の腕……っ、てか、そこは……ち、違う、そこはだめな所! 本には書けない所だからああああああっ!」


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