第1話

目が覚めると、そこはファンタジーの神殿だった。



「たしか……俺は、怪しげな広告をクリックして――」



俺は、異世界に転生してしまったのか?



その瞬間、階段の上にスポットライトが当たり、バンッと一人の少女が現れた。



「おめでとうございます! 田中悠人さん! あなたは無事、新たなる転生者として認められました」



俺は固まった。



目の前の少女が、二次元オタクの俺ですら息を呑むほどの美少女だったからだ。



「……田中悠人さん? どうされましたか? あなたは、可愛い女神様アリスの手によって、数いる人間の中から選ばれたのです。安心して下さい。あなたの気持ちは分かります……。わたしが可愛いくて、見惚れている事は痛い程分かります。しかし……例えわたしがどれだけ可愛い女神であっても、あなたの淡い恋心が実る事はありません。それは、わたしが女神でも……。もちろんあなたが、引きこもりニートのアニオタでゲームオタクの冴えない男だからと言う理由でもありません。それは、わたしが可愛い女神様アリスだからなのです」



「あのー……なんとなく、女神様なのは分かったんですが。今……さらっと、ディスりませんでした?」



「……いえ、女神はその様な事は致しません。女神は常に人々に平等に接し、どんな時も真実しか述べません」



なんだろう。



この女神、簡単に言うと、すっごくムカつく。



「……一つ聞いてもいいですか?」



「なんでしょう? あなたが、わたしの事を『やべーめっちゃ可愛いよー! はぁー、はぁー。今夜のおかずはこの可愛い女神様だな!』とイヤらしい目で見ている気持ちは分かります……。ですから、わたしのスリーサイズや年齢な等の、個人情報以外ならお教えしますけど……」



えっ? なにこの女神、バカなの? ねぇ、アホなの?



「いえ……。俺が異世界転生の人間に選ばれた事は分かったのですが……。俺の……その……向こうでの存在はどうなったか知りたくて……」



「あら、意外とこの状況の呑み込みが早いのですね?」



「まぁ……慣れているもんで……」



予行練習(妄想)の賜物だ。腕をつねれば、しっかり痛い。これは現実(リアル)だ。



「田中悠人さん。あなたがあちらの世界でどうなったかと言う、真実を聞く覚悟はありますか?」



「はい……聞かせて下さい」



「分かりました。では、お話ししましょう……。結論から言いますと田中悠人さん、あなたはあちらの世界では死んだ事になっています……」



想定内だ。死んだか、消されたか。その二択だと思っていた。



「その……両親は、どうしてましたか?」



「そうですね……まず、田中悠人さんの死因は負荷の掛け過ぎによる心臓麻痺です。夜中にパソコンの前でムフフなサイトを閲覧しながら、『オレの嫁可愛いよ……はぁー、はぁー』と何回も数をこなす内に、テクノなんちゃらでポックリと………。それは天国に登る様に下半身がたわわの状態で、幸せそうに死にました。ちなみに、第一発見者はご両親で――」



「もうーやめてえええええぇぇぇぇぇぇーっ!!」



死因がイヤすぎる!



「はい。それでは時間も押していますので、今からあなたがこれから生きる事になる、世界の説明をしますね」



切り替え早すぎだろ! 一応、女神だよな?



「あっ、もう一つだけ聞いてもいいですか?」



「ちっ……。なんでしょうか?」



え? 今、この女神、舌打ちした?



「えっとー……。なんでネット広告なんかで転生者を募集したんですか?」



「あぁ……その事ね。今の若者ってネットばかりしかやらないじゃない? それかと言って、寿命とか運命で死んだ人間を転生させるのもめんどくさいし。それなら、ファンタジー世界の知識をある程度持ってる若者で、なんか頑張って生きて行けそうな奴だったら誰でも良かったの。まぁーオタク知識がある人間なら、適当に女神の加護でもつけて送り出せばいいかなーって。それで、ネット広告作ってまさかこんな詐欺みたい広告に引っかかる奴なんて、いねぇーだろって思ってたら、あんたが引っかかって。超ウケるんですけどって思いながら、こっち呼んだわけ。ねぇー、もういい?」



「……はい……すいません」



泣きたい。



「あっ、ごめーん。なんか時間来ちゃったわ」



そう言って、女神は何も付けていない左手首を見た。



もう色々隠す気ゼロだな!



「分かりました。転生を……あっ、でもその前に女神の加護とかチート能力的なーー」



「汝、超可愛い女神様アリスが命じます。次の世界では、自由に生きるのです。そして、今度は少しでも長く生きなさい。短命な人間がいると、わたしの仕事が増えてしまいますので」



俺の身体がどんどん透けていく。



「おい待て! 俺はあっちの世界の事も女神の加護もまだーー」



「さぁ、お行きなさい! あなたには新しい人生が待っています。どうか、あなたに女神の加護があらん事を……」



女神のムカつくほど可愛い「営業スマイル」を最後に、俺の意識は途絶えた。


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