第4話 とあるお昼のワイドショー

 スタジオの照明が一段と明るくなり、司会者が硬い表情で原稿に目を落とした。

「続いてのニュースです。✗✗県内で、三十歳の女性が交際相手の男性を包丁で刺し、けがをさせたとして指名手配されています」

 背後の大型モニターには、ぼかしの入ったアパートの外観が映し出される、

 テロップで示される名前は穂津田桂香(30)とあった。彼女の写真は学生時代のもののようでセーラー服を着ていた。

 

 年配の司会者の声は、いつもの軽やかさを抑えている。

「警察によりますと、男性は命に別状はありません。女性は長期間にわたり暴力を受けていたと友人に話しており、いわゆるDV被害を訴えていたということです。そしてその穂津田桂香さんの行方は現在不明とのことです」

 スタジオに小さなどよめきが走る。

 ワイドショー特有の、同情と好奇心が入り混じった空気が満ちる。


 カメラがコメンテーター席へと切り替わった。

 最初に口を開いたのは、柔らかな物腰で知られる女性コメンテーターだった。彼女は家庭料理研究家でもある

「正直、胸が痛みます。三十歳で、逃げ場もなく追い詰められていたのかなって。DVって、外からは見えにくいですからね。助けを求められなかった背景を思うと、かわいそうだなと感じてしまいます」

 彼女の言葉に、司会者は小さくうなずく。

 だが、すぐ隣の席から別の声が重なった。

「ただね」

 法律に詳しいコメンテーターが眼鏡を直しながら言う。

「どんな理由があっても、暴力は暴力です。被害者であった可能性が高いとしても、包丁で刺すという行為が正当化されるわけではありません。そこは冷静に分けて考えないと」

 画面下には《かわいそう? それでも暴力はNG?》という刺激的なテロップが踊る。

「でも、追い詰められた結果だったら……」

 と、別の女性タレントが言いかける。

 その女性タレントは配信者としても有名だ。

「だからこそ、周囲や制度が早く介入できる社会にしなきゃいけないんです」

 法律コメンテーターは続けた。


「彼女一人の問題にしてはいけない。そう言うことですね」

 司会者はコメンテーターたちの間に視線を配り、まとめに入る。

「同情すべき点と、許されない行為。その両方を見つめる必要がある事件かもしれません。DVの相談窓口は、こちらに表示しています」

 モニターに相談先の番号が映し出される。

 スタジオの空気は、さきほどより少しだけ重く、しかしどこか落ち着いていた。

 カメラが引いて、次のコーナーの予告が流れる。

「寒い冬には鍋料理ですね。最新のお鍋事情をお送りします」

 年配の司会者は女性料理研究家に話題をふった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る