第一幕 抜忍
山菜やきのこを籠いっぱいに入れ、山を下りた影龍と千歌は、山の麓に建つ、一軒の古びた家へときた。
「ここが、あたしん家。おんぼろだけど、うちは、貧乏だから仕方ないの。」
影龍は、目の前の小屋といってもおかしくない程の、ボロボロの家を見上げる。
『昔の俺の家のようだ……。』
幼き頃に、家族で過ごした家を思い出し、影龍は、クスッと、力無く笑った。
二人が入口に来ると、中から、長い髪を後ろに束ねた女が出てきた。
「お千歌。遅かったじゃない。心配したんだよ。」
「ごめんなさい……。影龍と出会って、お話しながら取ってたから、遅くなっちゃった。」
そう言うと、ペロッと舌を出し、千歌は、籠を背から下ろした。
「でも、見て!影龍が手伝ってくれたから、こんなに取れたのー!」
「まぁー!」
驚いたように声を上げ、女は、眉を寄せ、影龍を見つめた。
影龍は、女に軽く頭を下げる。
「何もありませんが、中で休んでいかれて下さい。」
「今日、ここに泊めてもいいでしょ?夕飯、あたしが作るから!」
「でも……。影龍さんにも、都合があるでしょ?」
「だって……もう、約束したもの。」
「……すみません。千歌がわがままを言って。」
「いえ……。俺も、行くあてが無くて困っていたのです。泊めて頂けると、助かります。」
「汚い所ですが……どうぞ。」
そう言うと、女は、影龍を中に招き入れた。
女は、千歌の母親で陸(りく)と言った。
まだ、若い感じの優しい顔をしていた。
陸は、囲炉裏に掛けたやかんで、湯呑みに湯を注ぐと、影龍に差し出す。
影龍は、囲炉裏の側に腰掛け、頭を下げる。
「いただきます。」
お茶っ葉も入っていない、ただの白湯だが、影龍は、湯呑みを手に持ち、一口飲んだ。
「すぐに、夕飯を作るから、待っててね!」
土間の洗い場で、取ってきた山菜を洗いながら、千歌は言う。
それを見て、陸は、フフフと、声を上げ笑った。
「千歌ったら、嬉しそう。張り切っちゃって……。」
陸の言葉に、影龍も、口元に笑みを浮かべた。
何時ぶりだろうか?
このように、人間らしい生活をするのは……。
忍びの世界を抜けてから、毎日のように、地獄の日々が続いていた。
敵とはいえ、元は仲間だった者達との戦い。
殺したくなくても、殺らなければ殺られる。
生き延びる為とはいえ、影龍は、精神的にも、かなり参っていた。
そんな中での千歌との出会いは、影龍にとって、大きな出会いであった。
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