第一幕 抜忍




千歌は、山の麓に住む木こりの娘で、父親と母親の三人で暮らしているという。


今日は、山に山菜やきのこを取りにきたのだ。


「影龍は、何処に住んでいるの?」


「俺は……住処はない。両親も兄弟も、早くに亡くしていないんだ。」


「……そっかー。一人ぼっちなの?」


「……一人ぼっちだ。」


実際、両親も兄弟もいないわけなので、一人ぼっちなのは確かだった。


しかし、改めて、こうして、口にしてみると、何だか、とても孤独なような感じがした。


少し、顔を曇らせた影龍を見て、千歌は、眉を寄せる。


「寂しい?」


「…………。」


千歌の言葉に、すぐに、返事が返せなかった。


忍びの世界に入る前から、孤独ではあったが、あそこには、仲間がいた。


明日をも知れぬ命ではあったが仲間がいたから、寂しいなんて感じた事がなかった。


しかし、忍びとはいえ、影龍も、まだ十五の少年なのだ。


寂しくないわけがないのである。


口を閉ざした影龍に、千歌は、明るく微笑む。


「でも……もう、寂しくないでしょ?」


「えっ……?」


「だって……。あたしがいるもの!」


にっこりと笑う千歌に、影龍も、口元に笑みを浮かべる。


「そうだな。」


「ねぇー、今日は、うちに泊まりなよ!父さんと母さんも喜ぶしさー。夕飯、頑張って作るから、一緒に食べよう!ねっ?いいでしょ?」


「……ありがとう。」


「じゃあ、影龍も、山菜ときのこを取るのを手伝ってね!」


フフフと、嬉しそうに笑う千歌に、影龍は、優しく微笑み頷いた。

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