第一幕 抜忍




朝になり、太陽の日差しが眩しく照りつける。


鳥のさえずりに、目を覚ました影龍は、ゆっくりと、上体を起こす。


『どうやら、諦めてくれたようだ……。』


辺りの見渡し、人の気配がない事を確認した影龍は、立ち上がり、刀を鞘におさめた。


『また……命拾いをしてしまったか。』


フッと、口元に笑みを浮かべた影龍は、人の気配に、ハッとなり、木の陰に身を隠す。


一人の少女が背に籠を担ぎ、山道を歩いてくる。


少女は、キョロキョロと、辺りを見渡すと、ササッと道を外れ、草の中に入って行く。


影龍は、足音を忍ばせ、距離を置いて、少女の後を追う。


少女は、もう一度、キョロキョロと辺りを見渡し、着物を腰まで捲り上げ、身を屈めた。


それを見た影龍は、ハッとなり、顔を赤らめると、クルリと、背を向ける。


『何だ……小便か……。』


口元に笑みを浮かべ、そこを去ろうとした影龍は、背後から響く悲鳴に、ビクッと身体を震わせ、足を止めた。


「きゃあぁぁぁあ!!見られた!見られたー!!」


顔を真っ赤にして、泣き叫ぶ少女に、影龍は、慌てたように、声を掛けた。


「心配するな!見てはおらぬ!」


「嘘!見てたもの!!」


「嘘じゃない!背を向けてたから、見てはおらぬ!」


少女は、半べその顔で、影龍をジィーッと見つめると、着物を整え、影龍の側に近付いてきた。


「ほんとー?」


「ああ、本当だ。」


少女は、ジィーッと、影龍の目を見つめている。


影龍も、少女の目を見つめ返す。


しばらく、見つめ合っていたが少女は、いきなり、片手を伸ばすと、着物の上から、影龍の股間をギュッと掴む。


「な……!?」


驚いて、後ろに飛び退き、言葉を失った影龍に、少女は、にっこりと笑う。


「これで、おあいこだ。お互い、恥ずかしい思いをしたんだからね。」


明るい口調で、そう言った少女に、影龍は、顔を真っ赤にして怒鳴る。


「何があいこだ!俺は、見てないと申しておるだろ!!」


怒鳴る影龍に、少女は、シュンと、少し顔を伏せ、上目遣いで見つめる。


「怒ったの?」


眉を寄せ見つめる少女に、影龍は、顔を赤らめ、プイと、顔を背ける。


「別に……。減るものじゃあるまいし。」


「そうだよね!減るものじゃないものね!」


あははと笑う少女を影龍は、呆れた顔で見つめた。


「あたし、千歌(ちか)。あなたは?」


「影龍……。」


影龍が名乗ると、千歌は、スッと、片手を差し出した。


「仲良くしましょ!」


差し出された手をジッと見つめ、影龍は、小さく呟く。


「俺なんかと、仲良くするものではない。」


「どうして?」


首を傾げ見つめる千歌に、影龍は、顔を背ける。


「俺は…………。」


そう言いかけて、口を閉ざした影龍に、千歌は、優しく微笑む。


「言いたくない事は、言わなくていいよ。」


そう言うと、千歌は、草の中を歩いて行く。



少し、変わり者のようだが千歌のあどけない笑顔に、影龍は、久しぶりに心が安らいだ気がした。

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