終章

いつの間にか、再び壁の余白は消えていた。

タワーマンションの高層階に住み、帰れば愛する妻もいる。

絵は高額で取引された。


だが、成功は長く続かなかった。

画家は一度大成すれば安泰だという考えは、あまりにも甘かった。

時間とともにすべてを失い、私は実家へ戻った。


久しぶりに入った自室は、物置と化していた。


「……片付けるか」


最低限のスペースを作るため、少しずつ物を出す。


そのとき、ひとつの箱が目に入った。


『たからもののはこ』


小学生か中学生の頃に作ったものだ。


「懐かしいな」


箱を開けた瞬間、衝撃が走った。


そこにあったのは、彼の絵だった。

――いや、かつての自分の絵だった。


「僕は、あなたなんですから」


言葉が蘇る。


私は、羨ましかったのだ。

孤独を埋めるためだけに絵を描いていた、昔の自分が。


私は急いでペンを取った。

今なら描けると思った。

自分が羨ましがった、あの絵を。


描き終えた絵を見て、私は絶望した。


そこにあったのは、「天才」の私が描いた絵だった。


「また会いましたね」


そんな声が、聞こえた気がした。


部屋には、慟哭だけが残った。

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天才の空白 @Applehaniwa

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