第10話 凋落

同じ時期にニコ生をやっていた配信者のことを、私は肉屋と呼んでいる。理由は特にない。肉屋みたいな配信をしていた、というだけだ。荒くて、勢いがあって、理屈は少なかった。


最近、その肉屋がダンス動画を上げ始めた。踊りながら、皇室の話ばかりをしている。構成はよく分からないが、本人は楽しそうだった。私はその組み合わせを、無理だとは思わなかった。無理かどうかは、数字が決める。


配信の切り抜きが流れてきて、日本初の女性首相の悪口を言っている場面を見た。語気は強く、論点は雑だった。だが、主張の方向だけは、私と被っていた。そこに気づいて、少し苦笑いが出た。


被る、というのは不思議な感覚だ。自分が丁寧に言い換えてきたことが、雑な言葉で流通している。腹が立つほどではない。だが、気持ちがいいわけでもない。


私は彼のチャンネルを開いた。再生数が、以前より明らかに落ちている。コメントも減っている。おすすめにも出てこない。数字は正直だ。努力や思想とは、別の場所で動く。


その瞬間、胸の奥が軽くなった。理由は分かっている。比較だ。自分より先に落ちていく存在を見つけたとき、人は安心する。


「やったぁ! ざまあみろ!」


声に出して言った。誰も聞いていない部屋だった。私はすぐに、その気持ちを彼女に送った。報告、という形が一番しっくりきた。


「肉屋、再生数死んでたw」


送信して、少し待った。返事はすぐには来なかった。私はもう一度、肉屋のチャンネルを見た。数字は変わっていない。変わるはずもない。


しばらくして、彼女から通知が来た。短い文だった。


「……」


それだけだった。句点もなかった。評価もなかった。否定もなかった。


私はその三点リーダーを、いくつかの意味に分解しようとした。呆れか、距離か、それとも単なる既読の合図か。どれも決め手に欠けた。


画面を閉じると、部屋は静かだった。肉屋の凋落は、私の上昇を意味しない。その当たり前の事実だけが、あとから追いついてきた。


私はもう一度、自分の再生数を確認した。減ってもいないし、増えてもいない。凋落は起きていない。隆盛も起きていない。安定という言葉は、こういう状態のためにある。


「ざまあみろ」と言った感情は、もう残っていなかった。残ったのは、報告してしまったという事実だけだった。彼女に対して、何か補足を送ろうかと思ったが、やめた。


数字は、誰かが落ちても上がらない。誰かが上がっても下がらない。私はそれを、何度も見てきた。それでも、つい確認してしまう。


スマートフォンを伏せると、画面が暗くなった。反射に、自分の顔が映った。私はそれを見なかったことにした。凋落は他人のものだと、まだ信じたかった。

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