第9話 茜!始動します!
茜が全世帯訪問するのに1か月かかっていた。午前は両親の手伝い、午後のみアンケート回収のために訪問に行く。それも、一軒一軒が離れているので、一日の訪問数は3軒ぐらいだった。全世帯79世帯あるうちの42世帯のみアンケートの回収が出来た。回収できなかったのは、留守で居なかったところ、反発して書いてもらえなかったところ、様々あった。茜は反発されても、最後まであきらめずに、全世帯周った。
辛い日もあった。自信を無くした日もあった。行けない日もあった。それでも、最後まで諦めずにやりきることが出来た。町の全世帯70%弱のアンケートが茜の手元へ集まっていた。
(今日はとうとうアンケートの集計ね。住人の困り事を解決する手掛かりがこの紙に…。)
茜は一枚一枚、紙を広げ、中身をすべて読んでいった。なかには、不便を感じない人もいた。そして、このアンケートの文句を書く人もいた。色々な人の考え方を目の当たりにしていた。アンケートを見るたびに、茜の感情が揺さぶられ、一喜一憂していた。しかし、茜は逃げなかった。目を瞑りたくなるような言葉にさえも、住人の思いが詰まっているように感じた。諦めからの言葉かもしれない。そんな気がしてならなかった。最後まで集計して、わかったことがあった。やはり、今一番困っていることは買い物だった。近くですぐ手に入るお店が無いことがこの町での困り事だった。訪問するたびに茜は驚いていた。この町は高齢者が6割ぐらいで、若い夫婦というのが1割だという真実。あと3割はまだ会えていないから、わからない。高齢者の多い町でこれだけ、困っていて手助けを必要としている人が沢山いることに唖然としていた。山間の町は車移動がほとんどで、高齢者の返納問題が浮上している。家族のいる家庭は子供たちが運転できるだろう。しかし、一人暮らしの高齢者もこの町では多い。なかなか車を手放せなくて困っている人も多いみたいだ。
茜が、一番、気になったのが、自由に記入してもらった不安なことに『一人暮らしで話し相手がいない』という事だった。隣家も離れている町では孤独との戦いも垣間見れた。茜は、なんだか寂しい気持ちになった。出来る事ならば、自分が話し相手になってあげたいとまで思った。
すべてのアンケートを開封して、茜の気持ちは固まった。反発されても、喜んでくれる人がいるなら、前を向いて、この道を進もうと。嬉しい時は共に喜び、悲しい時は寄り添っていきたい。そんな風に心が変わっていった。
茜はアンケートを見て、移動販売をやるべきだと思った。しかし、茜は販売に関してはど素人で何から始めるべきか悩んでいた。
「お父さん!やっぱり、ここには移動販売が必要だと思う。これだけおじいちゃん、おばあちゃんがいて、一人暮らしの人も多いことにびっくりしたんだ!アンケートにも、話し相手がいなくて寂しいって。私はそんな人たちを癒す存在になりたい!だけど、何から始めればいいかわからなくて…。」
「茜は優しい子だな、、、。俺はお前が頑張りすぎないか心配だよ。でも、茜のその行動が誰かの役に立つなら、俺は誇りに思う。」
お父さんは少し、照れくさそうに話しをしてくれた。
「それだったら、街の方に行って、お店で聞いてみたらどうだ?販売の事はプロに聞いたら確実だろ?」
「そっか、、、。…そうしてみる!ありがとう。」
お父さんに助言を貰って、茜の心も少しスッキリとしていた。空いてる時間はネットで調べ、アンケートをもとに何を販売するべきか決めていった。
後日、街へ行って個人経営のお店に突撃訪問してみることにした。電話で話すより、対面で直接聞きたかったからである。今回、訪問予定なのは酒屋と米屋と定食屋に行く予定である。どんな話しが聞けるのか茜自身も楽しみだった。
街に到着し、まず向かったのは酒屋だった。入り口を入ると沢山のお酒の瓶が棚に陳列されていた。奥に向かうとレジがあり、その手前にはお酒を飲むためのグラスも並んでいた。大中小と様々な大きさ、様々な形のグラスがあった。レジに目をやると男の人が立っていた。
「いらっしゃいませ!」
元気なお兄さんだった。見た目は茜と変わらないぐらいの年齢で、爽やかな感じだった。茜は静かにその店員さんに近づいて声を掛けた。
「あの~、すみません。少し教えてほしいことがあるんですが、、、。」
「はい、なんでしょう?どうかされましたか?」
「私、最近、町に帰ってきて、近隣の人に野菜とか少しずつ売れたらいいなぁと思っているんですけど、仕入れとか皆さんどうしてるんですか?山間の町なので皆さん苦労しているみたいで、、、。」
「あぁ、確かにあそこの町は近くのお店って言っても、この辺しかないから、いつも大変そうにしてますね。しかし、少しで、ってなると、ちょっと難しいかもしれません。少量取引って、仕入れ先は嫌がるのがほとんどなんですよ。」
「そうなんですか、、、。何かいい方法ないでしょうか?」
「1週間に一回まとめて仕入れするか、、、、、????!!!!!あ、それなら、杉本商会に連絡してみてもいいかもしれませんね。もしかしたら、あそこなら、融通聞くかもしれません。」
「本当ですか-!?一度連絡してみます!!連絡先を聞いてもいいですか?」
話しをしていると、どうやらこの男性は店主のようだ。茜は酒屋店主に、連絡先を聞いた。何度も何度もお礼をして、茜は一筋の光を見つけたかのように嬉しくなっていた。酒屋の店主も凄く話しやすくて、色々なことを教えてくれた。まず販売にあたりやるべきことは営業許可の取得、そして、今後、調理品を扱うなら、食品衛生責任者の資格も必要になる事も教えてくれた。とりあえず、今は営業許可を最優先に取得しなければならない。そして、杉本商会との面談も必要だろうと、思っている。この先、茜の移動販売が住人の希望になれるように努力しようと心に決めた。
何度も何度も酒屋の店主にお礼をして、店を出た。続いて、米屋、食堂へ向かい、有益な情報を手に入れた茜は、自宅へと戻っていった。
茜の中でも、いよいよ走り出した感があって、心晴れやかに明るい気持ちとなっていった。
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