第8話 お願い
午前中は畑の収穫の手伝いをする。昨日、バイク屋に取りに行ったバイクと共に両親の乗る軽トラの後ろを追いかけた。お父さんが運転する軽トラには沢山の空箱が載っている。プラスチック製の網箱で通気性が良さそうな箱たちだ。お父さんは茜の事を心配しているのか、いつもよりもゆっくりと走っていた。バイクに乗るとこの季節は風が気持ちいい、春の花の香りもほのかに香る。周りは、畑が多いせいか土の香りで包まれていた。山間の町だからといって、道路も舗装されてないわけじゃない。県道もある。ただ、少し、道をずれると未舗装の小道に入ってくる。農業用水の流れる音も聞こえる。近くの川から引いている。自然の多い町だけど、茜はやはり、この雰囲気が大好きだった。
少し走ると、両親が育てている野菜の畑が見えてきた。畑には色んな野菜たちが育てられている。軽トラが止まり、茜もその後ろにバイクを置いた。
「茜―、ちょっと手伝ってくれー!」
「はーい!今行くよー!」
お父さんに呼ばれた茜は軽トラから沢山の空箱を地面におろした。今日の茜がする収穫は玉ねぎとネギらしい。茜は手伝いでやって来たのだ。お母さんと茜が収穫をして、お父さんはその他、雑草取りや追肥の作業を行うことになっていた。茜には道具の要らない作業を割り当てられた。道具を使うとしても、小さいスコップで掘り起こせるぐらいの野菜たちで、茜はまだ慣れていないから、簡単な収穫を任された。
「お父さん、玉ねぎは何個ぐらい獲るの?」
「そうだなぁ。今日は30個ぐらいでいいか。玉ねぎが半分見えてる物は大きくなってるから収獲していいぞ~。」
「は~い!」
玉ねぎの畝を見て見ると、大きさにばらつきが多少あるようだった。葉っぱは元気にピンとしているけど、土に完全に埋もれているものとか、葉っぱが倒れてしまっているもの、そして、収穫時の土から顔を出しているもの。収穫時を見極めるのも農家の仕事だ。長年やっているからこその感覚で、収穫を見極めている。
茜は手袋をして、玉ねぎの葉っぱを握って、上へと引っこ抜いた。まんまると太った玉ねぎがポンッと出てきた。茜は初めて自分の手で収穫した。子供の頃に一度来たことはあるが、その時はお父さんと一緒に掘り起こした記憶だけあった。自分で獲った玉ねぎはなんだかかわいく思えた。土の付いた玉ねぎを軽くはたいて土を落とし、プラケースへと入れていった。次々と玉ねぎを引っこ抜いた。茜は収獲するたびに楽しくなって、無我夢中で掘り起こしていた。今日の収穫数も少しだけオーバーしてしまった。
次はネギを抜いた。玉ねぎと違って、抜きやすくて、軽い力で抜けた。ネギも予定数量抜いて、茜はなんだか満足していた。
そんな時に、お父さんに話しかけている男の人が目に入った。
「駒田さん、今日は娘さんも一緒かい?いいねぇ、手伝ってもらえて。」
「ハハハ、まだ手もおぼつかないんですけどね。」
「おはようございます。」
茜は挨拶をして、お父さんの方へ近づいていった。話しを聞いていると、隣の畑で作業していた田中さんというおじいさんだった。日頃から、父親とは楽しく会話をする間柄で、お世話になっている。初めて見て見る顔で、少し緊張していた茜だが、凄く気さくな人で、すぐに打ち解けることが出来た。
「そういえば、田中さんって、この辺に住んで長いんですか?」
「そうだな、生まれてからずっとだからな。70年ぐらいになるかな。」
「そうなんですね。ちょっと聞きたいことがあって、アンケート書いてもらえませんか?すぐ終わるので。」
「あぁ、いいよ。茜ちゃんの頼みだ。何でもやる。」
田中さんは笑いながら承諾した。茜はバイクのリアボックスに入れておいたアンケート用紙を渡した。田中さんはアンケート用紙に目を通しながら、真剣に答えてくれたようだ。
「無記名のアンケートにしたいので折り曲げたら、この缶ケースに入れてもらえますか?」
「はいよ!書けたよ!」
「ありがとうございます。」
缶ケースの中にアンケートを入れてもらった。田中さんは少し不思議そうな顔をしながら、茜に尋ねた。
「茜ちゃん、何か始めるのかい?」
「まだ、ちゃんと決まってはいないんですけど、皆さんの役に立てるようなことを目指してます。」
「そうか。それは、大変そうだけど、頑張れよ。」
「ありがとうございます。」
茜は田中さんの言葉が嬉しかった。アンケートを書いてくれたのが家族以外で一人目。なんだか胸が熱くなった。この一瞬で、考えてきたことが間違いじゃないと証明された気がした。
この畑作業を終えて、午後からが本格始動を予定している。町の住人を訪問して、アンケートを書いてもらう。その繰り返しだ。半日で何人の住人を周れるかは見当もつかなかった。
畑作業も終えて、自宅へと帰ってきた。お昼ごはんも済んだので、住人の訪問へ向かうことにした。一番最初に行くところは山の上り坂の先にある2軒並んでいるお宅への訪問だった。自宅からはおよそ15分。渡辺さんちの真逆の方向へ。道中にはわりと急勾配の上り坂があり、スクーターのアクセルも強めに回しながら上っていく。車が無ければ、本当に到底、住めないであろう地域になっていて、移動も大変そうだ。
坂道を抜けると、瓦屋根が見えてきた。山の中腹辺りに、歴史を感じるような家が並んでいた。まるで廃墟のような雰囲気をまとっている。怖さと不安で緊張しながらも茜はバイクを降りて、とりあえず、呼び鈴を鳴らしてみた。
———ブーーーーーー———
呼び鈴が部屋に響いていた。すると中から、年配のおばあさんが出てきた。人の良さそうな雰囲気をしていて、その瞬間、一気に心が軽くなった。
「突然、すみません。駒田といいます。初めまして。」
「あら?駒田さんとこの娘さん??」
「あ、はい!え~と、、、」
「あら、やだぁ、忘れちゃった?昔、子供たちと一緒に遊んでくれてたじゃない?」
「もしかして、隆君の!?」
「そうよ!そうそう!もうあの子も自立して、家を離れちゃったけどね。」
「すみません、気づかなくて。」
「いいのよ~。今日はどうしたの?」
「今、皆さんにアンケートに答えてもらいたくて周っているんですけど、記入お願いできませんか?私、皆さんの役に立ちたくて、困っていることがあれば教えてほしいなって。」
「全然いいわよ~。中で書いてきていい?」
茜は思わぬ再会に喜んでいた。アンケートも快く、書いてもらって、幸せな気分に浸っていた。
「まだ、はっきりと決まっていないんですけど、可能なら移動販売をこの地域でやりたくて、皆さんがどんなことに困っているかの事前調査みたいなことをしているんです。」
「確かに、ここに移動販売とかあったら、凄く助かるわ。もし始める時は教えてね。買いにいくから。」
「ありがとうございます。是非!このままお隣さんにも聞いてきます。」
「・・・・・・・え~と、お隣さんはやめときなさい、、、。」
「え!?なんでですか?」
「ちょっとね、変り者っていうか、偏屈っていうか、、、」
「そ、そうなんですね。でも、皆さんに聞かないと、、、。」
「聞いてみてもいいと思うけど、、、話すのも勇気がいるっていうか、、、」
「ちょっと、聞いてみます!ありがとうございます。」
茜は少し不安になった。しかし、皆に答えてもらいたいとの思いから行く決心をした。ここで躓いていたら、移動販売も出来ないと考えていた。
勇気を出して、呼び鈴を鳴らした。呼び鈴は室内で響いているようだった。人の気配は感じられない。誰もいないのかなぁと思っていた時、中から物音がした。茜は少し驚き、怖くなっていた。
そんな時に、出てきたのはおじいさんだった。無精ひげを生やし、髪はぼさぼさで白髪頭の清潔感は全くなかった。
「と、突然すみません。い、今お時間よろしいでしょうか?」
緊張で声が上ずってしまっていた。
「なんじゃ、お前。なんの用だ!」
「す、すみません。さ、最近地元に帰って来たんですけど、何か皆さんの役に立てないかなぁと、、、。思いまして、、、アンケートをお願いしたくて。」
「なんだ!?押し売りか!?帰れ帰れ!間に合っとるわ!」
急な訪問で誤解されてしまったようだ。言葉を返す間もなく扉を力いっぱい閉められ、茜はそのまま追い返されてしまった。この日は怖くなってしまい、直接は話しづらくなってしまって、とりあえず、アンケート用紙を郵便受けに入れて、離れることにした。
(あぁ、怖かった。話しの切り出し方難しいなぁ。)
茜は、少し反省しながら道中を走っていた。震える手と心臓の鼓動が共鳴しているようだった。隆君のお母さんにはアンケートを書いてもらったので、それだけで、良しと思うようにして自宅へと戻った。心が少し折れかけてしまった日はゆっくりとお風呂で考えることにしよう。
(どう、話しをすればいいのだろう…?)
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