第10話 交渉の先に

自宅に戻って来た茜は、早速、酒屋さんの店主から聞いた杉本商会に連絡をすることにした。お米屋さんも定食屋さんも杉本商会にはお世話になっているようで、たまに少量で仕入れをしているという情報を茜は手に入れていた。酒屋さんから聞いた電話番号にかける。茜は少し緊張していた。


———Prrrrrrrr———

『はい!杉本商会です!』

「こんにちは。私は駒田と申します。少し、お伺いしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?近いうちに移動販売を始めたいと思っていまして、現在、仕入れ先を探しています。是非、お話を伺いたいと思いまして、連絡差し上げました。」

『かしこまりました。それでは、出荷担当にお電話をおつなぎいたしますので、少々お待ちください。』

『・・♪~~~』

『はい!お電話変わりました出荷担当の庄司です。仕入れの事で聞きたいと伺っておりますが、どのようなご用件でしょうか?』

「私は駒田と申します。近々、移動販売を始める予定でして、仕入れの件でお話を伺いたいのですが、御社は少量仕入れもご対応いただけますか?」

『・・・う~ん、ちょっと難しいですね。今は新規の契約も大量仕入れに限らせていただいていて、大変に申し訳ありません。』

「・・・・・そうですか、、、。」

『誰かのご紹介で連絡いただいたのでしょうか?』

「あ・・え~と、そうですね。川原町の酒屋さん、お米屋さん、定食屋さんが口をそろえて、御社に連絡を差し上げるのがいいのではないかと仰っていただいて、お電話差し上げました。」

『あぁ、そうでしたか。いつもご注文いただいてるお客様ですね。素朴な疑問なのですが、どちらで移動販売する予定でしたか?』

「花守町で予定しております。山間部で近隣に店舗が無く、日常の買い物に不便を感じている方が多いため、その解消を目的としています。」

『素晴らしいお考えですね。一度、その旨を社長に伝えさせていただいてもよろしいでしょうか?個人的には、とても意義のある取り組みだと感じました。しかし、私の一存では決め兼ねますので、またご連絡差し上げてもよろしいでしょうか?』

「はい!お願いします。」

『それでは、一週間だけお時間頂いて、検討させていただきますので、よろしくお願いします。』

「ありがとうございます!」


 茜は電話越しに深々とお辞儀をして、電話を切った。初めは断られると思っていた。しかし、茜の純粋な気持ちが伝わったみたいだ。緊張と不安と、使い慣れない丁寧語で少し心が疲れていた。しかし、まだまだやる事があった。それは営業届を役所に出す必要があるため、まずは、ネットで調べる必要があった。何が必要なのか、担当部署は何処か、全て調べた。忘れ物があれば、また大変な時間を費やすことになるため、入念に調べ、後日、仕入れ先が決まった後、役所へ行くことにした。調べていく中で、移動販売に対しても補助金が自治体ごとに存在することを知った。名前もわかりやすく『移動販売導入支援補助金』という。こういう補助金は自治体によっても金額が変わるみたいなので、役所に届け出のついでに話しを聞いてくる予定。

 頭をフル回転して、1日を過ごしていたため、早めの就寝をすることにした。蛙の鳴き声にも慣れてきて、子守歌のように聞こえるようになっていた。

 次の日も、また、次の日も午前中は畑の手伝いをして、午後は移動販売関連で調べものをしたり、まだ会えてない住人に会ったりして、あっという間に、一週間が過ぎていった。

 ある日の午後、一本の電話が鳴った。それは、杉本商会の出荷担当の庄司さんだった。


『駒田さん、お待たせしてすみません。弊社で検討しました結果、今回のお話しをお受けすることになりました。つきましては、弊社での面談と契約をさせて頂きたく存じます。』

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

「面談の日を決めたいのですが、直近ですと、明日の午後とかいかがでしょうか?」

「はい!あいてます!是非、お願いします。」

『それでは、明日、お待ちしております。』


 茜の気分は最高潮に高揚し、飛び跳ねるような気分で、嬉しさが爆発していた。今一番難しいと思っていた仕入れ交渉が一社目で解決して、ホッと肩を撫で下ろしていた。それと同時に、茜はここで運を使い果たしたんじゃないかと思うばかりに少し不安にもなっていた。仕入れ先が契約はまだにしろ、目途が立ったので、役所へと、向かうことにした。

 清々しい気持ちで風を切りながらバイクで走る茜。役所の手続きでさえ、待ち遠しく感じた。

 役所に到着した茜は、バイクを駐車して、入口から入って、町民生活課で営業届の申請を行った。以外にも、営業届の申請には時間はそこまでかからなかった。この時には移動販売の屋号も決めていた。それは『花森よろず屋』だ。町の便利屋さんで、何でも売っている印象を付けたかったためである。どんな、商品も取り扱い、住人の助けになるお店で居たい思いがこの名前を導いた。申請の後、産業振興課へ足を運んだ。そこでは補助金を詳しく説明してくれるみたいだ。

 

「すみません。補助金制度で伺いたいことがあって。」

「はい。どのような相談でしょうか?」

「近々、移動販売を始めるのですが、『移動販売導入支援補助金』の上限金額と手続き方法を知りたくて。」

「それでしたら、この申請書にご記入いただいて、提出いただければ…。」


受付の人が補助金申請書を机の上に出した。


「交付決定まで1か月かかりますので、手続き終了まで待っていただいて、交付決定通知が届きましたら。使用した費用の領収書を無くさないように保管していただき、実績報告書に添付して、郵送で送っていただければ、よろしいかと思います。もし、手続きの事でわからないことがあれば、外部の方に依頼してお願いするのもよろしいかと思いますよ。」

「そうですか。親切に教えて頂き、ありがとうございます。」

「それでは、このまま、申請の手続きをしてもよろしいですか?」

「はい!お願いします!」


 茜は補助金申請書に記入をしていった。丁寧にお礼をしながら、提出をして役所を後にした。

 すべての手続きが終わり、1か月後の交付通知書が届くのを待った。ただ、一つ心残りがあるとするならば、バイクの修理も実は交付通知書が届いた後だったら、もしかしたら、補助金で直せたかもしれなかったこと。お父さんには申し訳ない事をしてしまった。

 あれから1か月がたって、お母さんが茜を呼んだ。


「茜ちゃん、郵便ポストに入ってたわよ。これ大事な書類でしょ?」


 茜はお母さんに近づいて、手に持っていた書類を渡された。そこには、『交付決定通知書』と書かれていた。やっと、仕入れが始められる。みんなの役に立つ時が来た!と、笑顔でお母さんに抱きついていた。嬉しい知らせは初夏の風にのってやってきたのかもしれない。

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