第7話 価値観はそれぞれ

 無事にバイクに乗って、帰宅した茜は、もう少しだけ近所を走ることにした。バイクに乗って移動できることが嬉しかった。小さな川のせせらぎを聞きながら、自然を感じていた。ヘルメットをしているせいか、少し音はこもって聞こえるが、川の音や鳥の鳴き声は聞こえる。当てもなく、走っていたら、いつの間にか、渡辺さんの家の近くまでやってきていた。自宅から車で15分かかる時間もバイクと一緒なら、なぜか短く感じた。

 せっかくなので、挨拶をすることにした。


———ピンポーン———

「はーい。どちら様ですか?」


 玄関の入り口に人影が見えた。中から返事をしてくれていたようだ。


「あら、どうしたの茜ちゃん。何か用事だった?」

「いえ、今日は近くに来たものですから。それに、今日は父からもらったバイクの試し乗りしていて。」

「へぇ~、おばさんにもちょっと見せてよ。」


 茜は自慢げにバイクを見てもらって、嬉しい感情を表に出し、満面の笑みで語っていた。それから、みんなの役に立ちたいことも話しの流れで語った。


「それは、すごいじゃない。茜ちゃんなら出来るわよ。頑張ってね。」

「ありがとうございます。頑張ります。今、色々調べていて、この町の人たちって、買い物行くのも大変だと思っていて、週に何回買い物に行って、あと、他に何か不便なことは無いか聞きたいの。まだ、確定ではない話だけど、実は移動販売をやってみたいと思っていて、そのために住人の方に話しを聞こうと思ってるの。」

「すごい!それはとても助かるわ。何か買い忘れた時に、いつも遠くのスーパーに行くのが億劫だったのよね。近くにあれば助かるわ。」


 渡辺さんの奥さんはとても移動販売に対して、素直に喜んでいた。その瞬間、茜もより一層、移動販売に対して前向きに考えようと思っていた。


「この地域は自然があって、素晴らしいのだけど、ちょっと不便な所もあるわよね。買い物もそうだし、銀行も近くにないし、お店だってないし。服を買いに行くのも、遠いのよ。だから、どうしても買い物に行くときはまとめ買いになっちゃって。私も結婚した時は驚いたわよ。でも、長年居ると慣れるものね。」


 笑いながら、奥さんは話しをしていた。結婚生活が長くて、この地域のやり方に順応してきたみたいに、今は不便だとは思いつつも、特に辛いとか苦しいとかは無さそうだという思いは伝わってきた。あれば助かるぐらいの印象だった。


「ありがとうございます。参考にさせてもらいますね。それじゃ、帰りますね。」

「あ、ちょっと待って待って。」


 おばさんはまた家の方へと、走っていった。またもや、手に何かを抱えていた。


「午前中にまとめ買いしてきたのよ。おすそ分けね。」


と、渡してくれたのはロールケーキだった。この地域では珍しいコンビニスイーツ。


「私、このロールケーキ大好きで、買うんだけど、美味しいわよ~。是非、食べて。」

「貰ってもいいんですか?ありがとうございます。いただきます。」

「いいのいいの。持ってって―。」


 気前のいいおばさんは現在も健在だった。まさかロールケーキまで貰えるとは思っていなかった茜は少し、気が引けたがおばさんの好意を素直に受け取ることにした。

 渡辺から移動し、自宅へと帰る途中、後ろから夕陽が当たり、バイクの前の影を見つめていた。茜がバイクに乗っている自覚と、茜自身の姿に少し、格好よく見えた。

 自宅では、夕飯の準備に勤しむお母さん。お父さんは野菜の袋詰めをしていた。茜は、家に戻るなりパソコンに向かった。と、いうのも渡辺さんで質問していた時、思いついたことがあった。それは、住人の皆さんにアンケートを取ることだった。質問形式で記入し、答えてもらう。それが、今、住人の皆さんが困っている事の内容がわかると思っていた。次の日には、町を回りながら、アンケートに答えてもらおうと考えていた。パソコンに向き合って、どんな内容のアンケートにするか考えていた。不便なこと?近くにどんなお店があれば助かるか?もし、移動販売があれば売ってほしいもの?選択式にするか、自由回答にするか。そこもしっかり考えるようにして、パソコンに打ち込んでいった。考えに考えた結果6つの問いを作成することが出来た。


問1. 日常生活で「一番困っている事」はなんですか?

問2. 買い物や通院の移動は、主にどうしていますか?

問3. 移動について、正直どう感じていますか?

問4. 家でよく困るものはなんですか?

問5. 週一回、家の近くで買えると助かるものは?

問6. 今の暮らしで「不安なこと」「こうだったらいいな」と思うことがあれば、自由に書いてください。


 アンケートは選択式で作成した。6問目だけは自由に記入してもらうようにした。茜はアンケートを完成させ、プリンタで印刷した。パソコンと共に引っ越しの時に持ってきたプリンタだ。活用する時が来るだろうと、捨てずに置いておいた。

 完成したアンケートをお父さんとお母さんに見せた。


「これ、茜ちゃんが作ったの?すごいじゃない。」

「これは、俺たちで書いてもいいのか?」

「え!?書いてくれるの?嬉しいけど、無記名のアンケートにするつもりだから。書いたら、この空いた缶ケースに折り曲げて入れて。明日から、皆のところ周るから、それと一緒にしておく!」

「そうか。じゃあ、書いたら入れるようにしよう。まずは、ご飯だ。」

「そうね。先に食べちゃいましょう。」


 楽しい夕食の時間も過ぎ、ゆったりとした時間を過ごした。お父さんもお母さんも空いた時間でアンケートに記入して、缶ケースに入れた。

 寝る準備が終わった。茜は最初のアンケートを外から眺めながら、答えを想像して、夜の眠りへと入っていった。外の蛙は相変わらず合唱して音を奏でていた。

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