第5話 磨けば光る

 涼しい朝の風。鳥のさえずり。料理中のいい香りがしている。久しぶりに畳の上で一晩寝た茜は疲れも吹き飛び、スッキリと目覚めることが出来た。今日は午前中に引っ越し業者がやってきて、荷物を運びに来てくれる。都会で住んでいた時の大きな荷物を運んでもらう約束になっている。

 茜は布団から出て、寝ぼけたまま台所へ向かった。


「おはよー。」

「茜ちゃん、おはよう。よく眠れた?」

「うん、ぐっすり!ちょっと顔洗ってくる。」


 目をこすりながら、お母さんに挨拶をして、洗面台へと向かった。冷たい水で顔を洗い、一気に目が覚めた。実家の水道は地下水から汲み上げている。その為、夏でも冷たい水が供給される。都会では夏になるとぬるい水が出てきて、なんとも中途半端で気持ち悪さがあった。地下水の冷えた水は頭までスッキリしてくれる感覚もあった。だが、冷たすぎるあまり、お湯を使うことにした。洗面台は山間の町だからといって、都会と違うわけじゃない。水も出れば、ちゃんとお湯も出る。しっかり鏡も付いている。収納も付いている。不便なく、使えるのは茜にとっても助かっている。

 トイレもそうだ。両親が農作業で関節を痛めるようになってから、洋式に買い替えたみたいだ。ただ、しいて言うなら、昔の名残でタイルの床にタイルの壁で結構冷えるということ。我慢できないほどではない。茜は準備を整え、台所に立っているお母さんに声を掛けた。


「お母さん、何か手伝えることある?」

「いいの、いいの、座ってて。」


 お母さんは茜が帰ってきて、本当に嬉しそうにしてくれている。料理の手伝いもしばらくは出来なさそうだ。今朝のご飯は焼き魚のようだ。香ばしい匂いがしている。お母さんは慣れた手つきで、料理を完成させていき、あっという間に終わらせてしまった。


「茜ちゃん!お父さん起こしてきてくれる?」

「はーい!」


 茜は玄関横の寝室へ向かった。布団にくるまったお父さんに近づき、体をポンポンと叩き、揺さぶってみた。


「お父さん、起きてー!朝だよー!」

「う、、、、う、、、ん、、、、ぁい、、、。」


 お父さんは寝ぼけながら、返事をした。もぞもぞと布団の中でうごめいている。むくっと起き上がり、寝ぐせだらけの髪を触りながら、体を伸ばしていた。茜はお父さんを起こすと、また台所の方へ行き、椅子に座った。


「起きたよ。たぶん、もう少しでこっち来る。」

「ありがとう。お父さん、昨日は寝るの遅かったみたいだから。」


 その時、お父さんが居間の方へやってきた。寝ぐせはまだ直ってはいなかったが、目は覚めたようだ。


「おはよう。、、、茜起こしに来てくれてありがとな。」

「いいよいいよ、さぁ食べよ。お腹すいちゃったよ。」


 お父さんが席に着くと、みんなで食べ始めた。お母さんの料理は美味しい。懐かしい味を堪能した。朝のニュースを見ながら、みんなで食べる朝ご飯は賑やかで楽しくて、美味しくて、最高だった。

 

「今日の午前中さ、引っ越し業者が荷物届けてくれることになってるから、家で留守番してるね。」

「あら、そうなのね。じゃあ、お父さんと畑に行ってくるから、その間お留守番頼むわね。」

「茜、午後からはバイク屋に行くから、予定空けとけよ!」

「うん、お父さんありがとね。」


 ご飯を食べ終わり、お父さんとお母さんは畑に行く準備を始めた。農作業用に帽子を被り、家を出ていった。お父さんが運転する軽トラにお母さんも乗り込んで、出発した。

 茜は引っ越し業者が来るまで、何をしようか考えていた。特に何もやることが無かったので、家の周りを散歩することにした。

 自然の山を眺めながら、歩いていると思うことがあった。山は遠くで見ると綺麗だけど、近くで見るとただただ、木が生い茂っているだけにしか見えないこと。木陰で涼しいが、歩きづらい地面はやる気をそぐこと。茜は幼少期の事を思い出していた。山の斜面を使って、段ボールをお尻の下に敷いて、滑り台にして遊んでいた。懐かしい思い出だった。田舎だからこそできる遊びを小さいながら、工夫して遊んでいた。

 そんな昔の事を思い出しながら歩いていると、遠くの方からトラックが近付いて来るのが見えた。引っ越し業者だ。茜は家へと戻って、待機した。


———ギ、ギ――――———

トラックのブレーキ音が響いた。


「駒田さん、お待たせしてすみません。今から荷物を下ろしちゃいますね。」

「ありがとうございます。あそこの縁側までお願いできますか?大きいものは部屋へお願いします。」


 引っ越し業者のスタッフが俊敏に荷物を下ろしていく。家の周りには傷がつかないように丁寧に養生してもらっている。重い電化製品だけは配置場所へ持っていってもらうようにした。テレビやパソコンが運び込まれた。一人用のコンパクトな冷蔵庫も一応持ってきて、お母さんに聞いてから処分しようと思っていた。大きい荷物はこれくらいだろう。1人暮らしだったので荷物は少なめだ。あとは、小物を段ボールに詰めたものと衣装ケースだけだった。

 荷物を下ろすのに時間はそんなに掛からなかった。あっという間に引っ越し業者は帰っていった。ここからが、茜の荷物の解体の時間だった。中身を確認して、すぐ必要になるものだけ段ボールから出した。一応持ってきた食器類も台所の棚にしまったりと、せかせかと慌ただしく、片付けていった。終わった時間はもう昼に近くなっていた。茜は少し、休憩して、のんびりと時間を過ごしていた。

 茜のやりたいことはまだ残っている。それはお父さんからもらったバイクを掃除することだった。エンジンはまだ掛からないが、少しでも埃だけでも取って、綺麗にした状態でバイク屋に修理をお願いしたい。バイクを庭へと移動して、軽く埃を取った後、水を上からかけて汚れを落とした。水拭きをしながら洗い流し、最後は乾いた布で、磨いていった。車体を洗い終えて、びっくりした。とても真っ白で、光り輝いていた。太陽の光が反射するように、眩しかった。まるで、別のバイクのような輝きを取り戻した。

 茜は、このバイクを眺めながら、将来を想像していた。このバイクで、どこでも行ける。みんなが困っていることも助けてあげられる。そんな気分になって、ワクワクしていた。この自然の中で颯爽と走る茜の姿を想像して、午前中は過ぎていった。

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