第2話 故郷へ帰ろう

 ある日の仕事帰り、いつも通り近くのコンビニに立ち寄った。茜にとって、当たり前になっているコンビニは地元にはない。品揃えが良くて、24時間やっているお店が故郷にはなかった。実家の近くにあったら、どれだけ便利なのだろうと、コンビニに入るたびに茜は思っていた。入口の扉を開けると、冷暖房がしっかりしていて、一定に保たれた気温に何度も救われた。夏は涼しく、冬は暖かく。お店にいるだけで、なんだかホッとする空間で、温かいコーヒーは冷たくなった体を温め、持っている手の指先まで温めてくれる。都会では当たり前のようなことを茜は故郷でも実現できたらいいなぁと、ぼんやりと考えていた。24時間は無理だとしても、みんなが安心できる場所を作ってみたいなぁっと考えが湧き始めていた。

 自宅へと帰り、ネットで調べてみることにした。まずは地元のマップをもとに、スーパーやコンビニがどれくらい離れているかを見た。そして、病院や銀行、郵便局も調べた。どの店舗も、車で1時間弱はかかりそうな距離で、高齢者が一人で完結できる距離ではないと改めて茜は感じた。10年前まで住んでいたにしろ、この不便さをやはり何とかしたいと思っていた時、一つのネット記事を見つけた。そこには軽トラを改造して、パンの移動販売している記事だった。店舗で焼いたパンを、改造した軽トラに載せて、遠く離れた地域の人にも提供するという記事だった。茜は記事を読みながら、地元の方にもこんな移動販売があればなぁと感心して見ていた。

その時、茜は気づいた。ずっと地元の事で調べ物をしていること。住人のために何が出来るかを考え続けていた。


(ハハ、、、なぁんだ、、、答え出てるじゃん、、、。)


 茜はずっと考えていたことに、ようやく気付いた。今は何が出来るかわからないけど、地元の役に立ちたいと願うようになっていた。きっと、挫折もあるだろうけど、茜自身はやってみたいと思うようになっていった。そうと決まれば、調べることが沢山ある。仕事をしながら、家に帰宅するなり、ネットで調べもの。そんな毎日を過ごしていた。母の電話から一週間たったころ、また母から連絡がきた。


『茜ちゃん、どう?気持ちの整理は出来たの?私は、茜ちゃんの事が心配よ。こないだみたいにまた辛くて泣いてるんじゃないかと思って。』

「お母さん、私、実家に帰ることにしたから。帰ったら、しばらくは農作業も手伝うからね。」

『本当にいいのね?後悔しないのね?』

「うん!この一週間で考えてることといえば、地元の事だったから。ここにいても地元の事しか考えないって、もう未練はないってことだと思うから。」


 茜は清々しく母に答えを出した。悩んでいたことが嘘のように、この一週間は心も晴れていたような気がした。地元の事を考え、移動販売がしたいと思うところから、茜は前向きになったのかもしれない。地元に帰るまでは情報を手に入れて、帰ってから、実行に移せるように準備だけはしておこうと動き出した。

 後日、会社に退職届を出し、引継ぎの時間を含めて、1か月後の退職が決まった。それまではいつも通り、仕事が終わったら、家で調べものをする。そして、寝るを繰り返していた。

引継ぎも終わり、有給休暇の残りを使って、コンビニに行っては、普段お客さんが何を買うのかも検証してみた。やはり、ドリンクは必須で、お弁当やおにぎり、パンも売れている。カップ麺も買う人は多かった。しかし、食べ物は消費期限がある。売れ残ったら廃棄になりやすい。あまり仕入れ自体は増やしたくない商品ではある。その点も踏まえながら、この検証も資料として加えることにした。品揃えが豊富な移動販売を茜は目指していた。しかし、それにしても、客観的に見たら、怪しさMAXだ。

地元に帰った時に、何が不便か体感しないとわからない部分もある。とりあえず、今できることをやっていこうと茜は動いていた。

茜はまだやらなければならないことがあった。それは引っ越しの準備だ。持っていくものと捨てるものと分ける必要があった。一人暮らしとはいえ、10年分の荷物はクローゼットを圧迫していた。休みの間に整理して引っ越し業者に頼まなければならない。毎日少しずつ片付け、地元に帰る準備を進めていた。

あれから、時間が経ち、いよいよ、引っ越しの日。引っ越し業者が午前中の早い時間に来て、荷物をまとめて急いで出発していった。空っぽになった部屋は声が響き、なんとなく空気も冷たく感じた。10年間住み続けたこの部屋とも今日でお別れ。名残惜しいような、寂しいような、何とも言えない感情だった。都会に憧れて出てきて、心もウキウキしながらこの部屋を借りたことを思い出しながら、軽く掃除をして茜は荷物を持って玄関へ向かった。玄関から見る部屋は荷物が無いせいか広く感じた。

いよいよ、ここからが茜の再スタートだ。扉を閉めて、鍵を閉め、不動産会社に鍵を返却した。外に出て、見上げる空はやはり狭く感じた。

実家への道のりは長い。駅に向かい、そこから、乗り換えを3回ほどしなければならない。時間で言うと、約3時間ほどかかる。電車の窓から見えるビル群が太陽の光に反射して眩しく感じ、見送られているような感覚に陥った。ビル群を抜けると、マンションが立ち並び、そして一軒家と緑が増えてくる。茜の地元は緑の多い山間の町。まだまだ先は長い。日頃の疲れからか茜に睡魔が襲い、乗り換えの駅まで寝ることにした。今乗っている電車は終点で降りるので、安心して寝ることにした。

もうまもなく、到着という辺りで目が覚め、無事に降りることが出来た。そして、ちょうどお昼の時間になった。お店に入って食べてもよかったのだが、せっかくなので駅弁を車内で食べることにした。久しぶりの駅弁は懐かしい味がした。山菜がたっぷり入った弁当で故郷を想像させた。窓から見える景色は山の雰囲気だった。

ゆったりとした電車旅ももう間もなく終わる。やっと、地元の駅に到着する。


『まもなく、水守駅~、水守駅です』


 場内アナウンスが聞こえ、茜は降りる準備を始めた。ドアが開き、ホームへ降りた。ここは無人駅。改札も何もない。周りは田んぼと畑があり、手が届きそうな距離に山がある。ここが茜の地元だ。

辺りを見回すと白いボロボロの軽トラックが1台とまっていた。父親の軽トラだった。運転席に座っている父親の姿を見つけた。


「おぅ!茜、遠かっただろう。疲れてないか?」

「お迎えありがとう。電車の中で寝たから大丈夫。お父さんは元気にしてたの?」

「おぅ!俺は大丈夫だ!」


 他愛もない会話がなんだかうれしかった。早速、軽トラに乗り込み、実家へと向かった。ここからまた、車で1時間弱走る。道中は都会での暮らしの事やこっちの暮らしの事を2人で話して、笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る