町はずれのよろず屋は今日も忙しい

翔峰リアン

第1話 狭い空の下で

 春の暖かな光の下で、公園に女性が一人いた。名前は駒田茜。10年ほど、住んできた夢の都会だったが、自然が少なく、その代わりに人の多さ、高層ビルの多さに少しずつ心が蝕まれていた。子供の頃は自然に囲まれて育ってきて、田舎で見る空は広く感じ、都会でビルの隙間を覗かせる空を見ていると、狭さが際立つ。人間の視覚というものは不思議なものである。

 彼女は公園で、ベンチに腰を下ろし、空を眺めていた。この公園は大きくて広い。その為、田舎の空を思い出す。遮るものがない、あの空を。仕事の休憩に立ち寄った公園が、茜の憩いの場所でもあった。悩んだ時も、ここに来ては、田舎の事を思い出す。

 彼女の地元は山間に建っている大きな平屋。近隣との距離も近くはない。買い物に行くにしても、車移動は必須。そんな所だった。ただ、そんな田舎にもいい所はある。それは自然が沢山あるということ。山や川があり、穏やかな毎日で親たちは農作業をして、生活をしている。畑自体はそこまで大きくはないが、多少の貯金が出来る程度で満足はしているようだ。そんな、母から久しぶりに連絡がきた。


———Prrrrrr……ピッ———

『茜ちゃん!久しぶりね。元気にしてるの?たまには、帰って来なさいよ。5年前に帰ってきたきりじゃない。』

「お母さん、久しぶりだね。お母さんも元気だった?こっちも色々あってさ、なかなか帰れなかったんだよ~。」

『あら、そうなの?体は大丈夫?無理してない?』

「お母さん、、、。」

『どうしたの!?何かあったの?』


 突然、泣き出した茜に対して、母は心配そうに声を掛けてくれた。いつも味方でいてくれる母の優しさを思い出し、茜は涙を我慢するように空を見つめ、一言母に伝えた。


「もう仕事を辞めて帰りたい、、、。」

『何言ってんの。茜ちゃんは今まで頑張って来たじゃない?今辞めて、後悔しないの?』

「わからない…。だけど、私には都会は息苦しい…。苦しくて、いつも実家の事を思い出すんだ。帰りたいよ、、、。」

『……。』


 茜の心はもうズタズタだった。息苦しい毎日で、落ち着く場所が公園しかなかった。人当たりはいい方だが、都会の人とは壁があるように感じてしまっていた。誰かのせいでもなく、茜自身の寂しさ、心のゆとりのなさが積み重なっていた。母は黙って、茜の話に耳を傾けていた。母は相槌を打ち、最後まで話しを聞いてくれ、茜の心は少しだけ回復していった。


『茜ちゃん、もし、この一週間で気持ちが変わらなかったら、帰って来なさい。もし、頑張れそうなら、そのまま頑張りなさい。茜ちゃんの人生なんだから、好きに生きなさいよ。』

「わかった。話しを聞いてくれてありがとう。少し考えてみる。」

『うん、いつでも帰ってきていいからね。私とお父さんは茜ちゃんの帰りを待ってるから。』


 茜は電話を切った。空を眺めながら、今後の事を考え始めた。今のまま、都会で住み続けるメリットがあるか、田舎に戻って、何をやるかなど沢山考えた。やりたいことはあった。ただ、挑戦することに怖さがあった。その時に、ふと脳裏によぎったのはおじいちゃんの事だった。子供の頃の記憶。それは、おじいちゃんが話しをしている時の笑顔だった。田舎の山間では訪問客は少ない。おじいちゃんは足も悪いせいか、外出もほとんどできなかった。そんな時に家族以外で話しが出来る唯一の相手というのが、訪問看護の人だった。週一回のお喋りする時間が楽しみだったのかもしれない。訪問看護の時間だけは笑い声も聞こえて、楽しそうにしていた。なんとなく、茜の頭でそういう人の役に立ちたいと思い始めていた。ただ、まだ迷いはある。今の仕事を手放してまで、やっていいものかどうなのか、わからない。茜は公園を離れ、考えている事をそっと胸にしまった。

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