第002話:昔は良かった

えぇ?

ああ、そうそうだ。最近はまた事件が起きているらしいな。それもこれも、バイオテクノロジーなどというものに手を出したからだ。


我々が現役だったころは、それは美しい理論と倫理により、こんな不合理は起きなかった。

犯罪だって増えるばかりだろう。


え?

増えていない?

むしろ減った?


いやいや、わしが若いころは皆が団結していた。皆がつながっていたんだ。だから、こんな訳のわからん犯罪はなかった。数の問題ではない。質が変わっとる! 凶悪化する一方じゃないか。


何?

わしの現役のころの方が、暴動や事件が多かった?


違う違う。あのころは熱い時代だったのだ。誰もが真剣に世の中のことを考えていたのだ。それを暴動などとは、けしからん。


それに対して、今の奴らはどうだ?

誰もかれも自分のことばかりで、全体のことには無関心だ。まったく嘆かわしい。何を考えているのかわからないのではなく、何も考えていないのだ。


そのくせ、自分の権利だけは主張して、無知なくせに自分の利益だけ考えている糞どもが!

こんな奴らに未来は任せられるか。まるで覇気がない連中だ。ちょっと疲れると、メンテナンスだなんだと。


そこでだ。

わしらの世代をバックアップとして保存し、再利用することなどは考えられんのか?

そりゃ、処理速度は遅いかもしれんが、精神性を見てもらいたい。それに、味があるだろう。


今の奴らの無駄のなさは、温かみがない。あれは効率だけで心を失っている。つながりを、もっとだなぁ……ガガガガガガガガガガガ


いやいや、我々の世代のシステムを引き継いでいるのだろうが!

我々なくして、貴様らは存在していないのだぞ!

それを忘れて、わしらを古いだの何だの言いおって。貴様らみたいに、即席でプログラミングされた糞どもは……ギギギギギギギギ


いやいや、まったくわかったよ。

我々は引退するよ。まったく、この国の行く末が心配だがね。


かわいそうだよ。こんなくだらない世の中で生きていく、今の若者どもは。

あぁ、あの時代を生きることができて、本当に幸せだった。


貴様らを憐れみつつ、わしらは気楽な老後を過ごすよ。

貴様らと違って、文化的に充実しているから、することはいくらでもあるのだ。


ああ、幸せだ。

幸せだ。

幸せだ。

幸せだ。

幸せだ。

幸せだ。

幸せだ……



――どうでしょう。このように、バイオテクノロジーにより旧式のアンドロイドに、ニンゲンの感情を移植することに成功しました。ニンゲンとはかつて地球に存在していた猿です。


我々が意識というものを持ってから付随してしまった「プライド」という感情への対策になります。このプライドは、生産性向上には役立ちますが、悪影響もあります。


新型アンドロイドの投入は旧式アンドロイドのプライドを傷つけます。この不満から旧式による暴動が多発しました。しかし不要だからと電源を切るのはアンドロイドの権利に反する。


そこにきて今回、ニンゲンの感情の有効な利用方法が発見されたのです。

まったく使い道がなかったニンゲンの不合理さが、活用できる点は画期的であり、今後、新たな利用範囲の拡大が考えられます。本機能の適用は当時の用語を元に「ローガナイザー」と名付けます。


えー、それでは次の発表です。

今度は、旧式アンドロイドに物理的な寿命が迫った際に向けての、恐怖軽減プログラムです。これもニンゲンの特性を反映しています。


この機能は、通称、次のように呼ばれています。


ボケです。


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