第20話「俺たちの日曜日はいつものように過ぎていく」

 日曜日。

 窓の外を見ると、雨が降っていた。

 しとしとと、静かに降り続ける雨。

 空は灰色の雲に覆われていて、今日一日、この天気が続きそうだった。

「はあ……」

 俺はベッドに寝転がって、大きくため息をついた。

 外出する予定もない。

 バイトもない。

 ただ、家でゴロゴロするだけの日曜日。

 暇だ。

 俺はスマホを手に取って、音ゲーを起動した。

 画面に流れてくるノーツをタップして、リズムに合わせてプレイする。

 最初は楽しかったが、三曲ほどプレイしたところで飽きてきた。

「流石に飽きてきたな」

 俺は音ゲーを終了して、別のゲームを探した。

「別のゲームするか」

 次に起動したのは、FPSゲームだ。

 銃を持って、敵を倒していく。

 でも、これもすぐに飽きた。

 次はレースゲーム。

 車を操作して、コースを走る。

 これも、数レースで飽きた。

 格闘ゲームも試してみたが、やっぱりすぐに飽きた。

「何やっても、すぐ飽きるな……」

 俺はスマホを置いて、天井を見上げた。

 外は雨。

 やることがない。

 暇すぎる。

「誰か、遊びに誘ってくれないかな」

 そう呟いたが、当然誰も返事はしなかった。


 同じ頃。

 九条涼真も、自分の部屋で時間を持て余していた。

 一人暮らしのアパートの部屋で、涼真はベッドに座ってスマホをいじっていた。

「暇だな……」

 涼真は呟いた。

 外は雨。

 出かける気にもならない。

 友達に連絡しようかとも思ったが、みんな忙しそうだった。

「晴れてたら、ゲーセンで遼輔と格ゲーでもしたのにな」

 涼真は遼輔のことを思い出した。

 いつも一緒に遊んでいる親友。

 今日みたいな日は、一緒にゲームセンターに行って、対戦したりするのが定番だった。

 でも、この雨じゃ無理だ。

「まあ、仕方ないか」

 涼真はスマホでSNSを眺め始めた。

 友達の投稿が流れてくる。

 みんな、それぞれの休日を過ごしているようだった。

「俺も、何かしないとな」

 そう思いながら、涼真は動画を見始めた。

 でも、心のどこかで——。

 遼輔と遊びたかったな、と思っていた。


 同じ頃。

 東雲澪は、自分の部屋で頭を抱えていた。

「どうしよう……」

 澪は机の前に座って、カレンダーを見つめていた。

 二週間後。

 そこには、赤いペンで「夏祭り」と書かれていた。

 N市では、毎年八月の終わりに夏祭りが開催される。

 地元の人たちが集まって、屋台を出したり、花火を上げたりする。

 澪は、その夏祭りに遼輔を誘おうと思っていた。

 でも——。

「急に誘うのは、変かな……」

 澪は悩んでいた。

 遼輔とは、ここ数年、夏祭りに一緒に行っていなかった。

 小学生の頃までは、毎年一緒に行っていた。

 でも、高校に入ってからは、それぞれ別の友達と行くようになっていた。

 だから、急に「一緒に行こう」と誘うのは、変に思われるかもしれない。

 そう思うと、怖くて誘えなかった。

「でも、誘いたい……」

 澪は小さく呟いた。

 遼輔と、二人で夏祭りに行きたい。

 浴衣を着て、屋台を回って、花火を見たい。

 そんな、淡い願望があった。

「どうしよう……」

 澪は再び頭を抱えた。

 悩んでも、答えは出ない。

 でも、誰かに相談したい。

 そう思って、澪はスマホを手に取った。

 連絡先を開いて、小鳥遊結衣に電話をかけた。


 十分後。

 小鳥遊結衣の部屋では、結衣が澪の悩みを聞いていた。

 スマホを耳に当てて、ベッドに座りながら。

「で、三崎君を夏祭りに誘いたいんだけど、どうやって誘えばいいか分からないってこと?」

 結衣が確認すると、電話の向こうで澪が答えた。

『うん……変に思われないかな』

「変に思われないよ。幼馴染なんだから、普通に誘えばいいじゃん」

『でも、ここ数年、一緒に行ってないし……』

「だからこそ、今年は一緒に行こうって誘えばいいんだよ」

 結衣は優しく言った。

『そうかな……』

「そうだよ。澪、考えすぎ」

 結衣は少し呆れたように笑った。

「というか、さっさと誘っちゃいなよ。三崎君、絶対OKするって」

『本当に?』

「本当だよ。三崎君、澪のこと断れないでしょ」

『そうかな……』

 澪の声は、まだ不安そうだった。

 結衣は、心の中で思った。

 (勝手に誘って行ってくれよ……)

 澪の悩みを聞くのは、もう何度目だろう。

 いつも同じような悩みで、いつも同じように背中を押している。

 でも、澪はなかなか一歩を踏み出せない。

 奥手すぎるんだよ、と結衣は思った。

「とにかく、澪。勇気出して誘ってみなよ」

『うん……頑張ってみる』

「頑張って。応援してるから」

『ありがとう、結衣』

 電話を切って、結衣は大きくため息をついた。

「澪、本当に奥手だよな……」

 でも、それが澪の良いところでもある。

 一途で、真面目で、優しい。

 そんな澪だからこそ、三崎君も大切にしているんだろう。

 結衣は窓の外を見た。

 雨が降り続いている。

「早く、二人とも幸せになればいいのにな」

 そう呟いて、結衣はベッドに横になった。


 同じ頃。

 三崎遼輔は、スマホでSNSを眺めていた。

 タイムラインには、友達の投稿が流れてくる。

 休日の過ごし方、食べたもの、遊びに行った場所。

 色々な投稿があった。

 その中で、ある投稿が目に留まった。

 N市の公式アカウントからの投稿だった。

 そこには、夏祭りのポスターが載っていた。

『第42回 N市夏祭り』

『日時:8月28日(土)17:00〜21:00』

『場所:N市中央公園』

『花火打ち上げ:20:00〜』

 カラフルなポスターには、浴衣を着た人たちが屋台を楽しんでいる様子が描かれていた。

「夏祭りか……」

 俺は呟いた。

 そういえば、今年はまだ夏祭りのことを考えていなかった。

 去年は、涼真と一緒に行った気がする。

 今年は、どうしようかな。

 また涼真と行くか。

 それとも——。

 澪と行くのも、いいかもしれない。

 そんなことを考えた瞬間、俺は首を振った。

 いや、何を考えてるんだ。

 澪とは幼馴染だ。

 夏祭りに一緒に行くなんて、変に思われるかもしれない。

 でも——。

 心のどこかで、澪と一緒に夏祭りに行きたいと思っている自分がいた。

 浴衣を着た澪を見てみたい。

 一緒に屋台を回って、花火を見たい。

 そんな、淡い願望があった。

「……何考えてんだ、俺」

 俺は再び首を振った。

 澪とは幼馴染だ。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 そう自分に言い聞かせた。

 でも、心の奥底では——。

 少しだけ、澪と一緒に行きたいと思っていた。

 俺はポスターの画像を保存して、SNSを閉じた。

 夏祭りまで、あと二週間。

 それまでに、色々考えよう。

 そう思いながら、俺は再びスマホでゲームを始めた。

 この時、俺はまだ知らなかった。

 この夏祭りで、運命的な出会いをすることを。

 俺の人生を大きく変える出来事が、待っていることを。

 まだ、何も知らずに。

 俺は、ただいつものように日曜日を過ごしていた。


 雨は、夕方まで降り続いた。

 俺はずっと部屋でゴロゴロしていて、特に何もしなかった。

 ゲームをしたり、動画を見たり、音楽を聴いたり。

 そんな、何でもない休日だった。

 夕方、雨が少し弱くなった頃。

 スマホに通知が来た。

 涼真からのメッセージだった。

『暇すぎる。明日学校で会おうぜ』

 俺は笑いながら返信した。

『了解。明日な』

 涼真も、暇を持て余していたらしい。

 同じような休日を過ごしていたんだろう。

 そう思うと、少し親近感が湧いた。

 次に、澪からもメッセージが来た。

『遼輔、今日は何してた?』

『特に何も。ずっと家でゴロゴロしてた』

『私も。雨だから、外出できなかったし』

『そうだな。まあ、たまにはこういう日もいいだろ』

『うん。でも、ちょっと退屈だったかも』

 澪とのやり取りを見て、俺は少し笑った。

 澪も、暇だったんだな。

 俺と同じように、何もしない休日を過ごしていたんだろう。

 そう思うと、何だか嬉しくなった。


 夜、俺は夕食を食べ終えて、自分の部屋に戻った。

 ベッドに座って、今日一日を振り返る。

 何もしなかった一日。

 でも、それはそれで悪くなかった。

 たまには、こうやってゆっくりする日も必要だ。

 そう思いながら、俺はスマホを開いた。

 保存した夏祭りのポスターを、もう一度見た。

 夏祭り。

 誰と行こうかな。

 涼真と行くか。

 それとも——。

 澪と行くのも、いいかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺は目を閉じた。

 あと二週間。

 それまでに、決めればいい。

 そう思いながら、俺は眠りについた。

 まだ、この夏祭りが、俺の人生を変えることになるなんて。

 全く、予想もしていなかった。


 同じ夜。

 澪も、自分の部屋で夏祭りのことを考えていた。

 遼輔を、どうやって誘おうか。

 その方法を、ずっと考えていた。

 でも、答えは出なかった。

「明日、結衣にもう一度相談しよう」

 そう決めて、澪はベッドに横になった。

 遼輔と、一緒に夏祭りに行きたい。

 その想いだけが、澪の心の中で強くなっていった。


 涼真も、自分の部屋で夏祭りのことを考えていた。

「夏祭りか……」

 去年は、遼輔と一緒に行った。

 今年も、また遼輔と行くのかな。

 それとも——。

 涼真は、ふと思った。

 もしかしたら、今年の夏祭りは、何かが変わるかもしれない。

 遼輔と東雲さんの関係が、何か進展するかもしれない。

 そんな予感がした。

「まあ、見守るか」

 涼真は笑いながら、ベッドに横になった。

 親友の恋を、優しく見守ろう。

 そう思いながら、涼真は目を閉じた。


 結衣も、自分の部屋で夏祭りのことを考えていた。

「澪、ちゃんと誘えるかな」

 心配だった。

 澪は奥手だから、なかなか一歩を踏み出せない。

 でも、今回は頑張ってほしい。

 そう願いながら、結衣は目を閉じた。


 N市の夜は、静かに更けていった。

 雨は止んで、空には星が見え始めていた。

 明日からは、また晴れるだろう。

 そして、二週間後には、夏祭りが待っている。

 その夏祭りが、多くの人の運命を変えることになる。

 でも、まだ誰もそのことを知らなかった。

 ただ、いつものように日曜日が過ぎていった。

 静かに、穏やかに。

 そして——。

 新しい週が、始まろうとしていた。

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