第10.5話「九条涼真の日常」

 学校からの帰り道、いつものコンビニに立ち寄った。

 自動ドアが開いて、冷房の効いた店内に入る。

 平日の夕方ということもあって、店内には学生や仕事帰りのサラリーマンが何人かいた。

 俺、九条涼真は、店内を歩きながら今日の夕飯を考えていた。

 一人暮らしの身としては、自炊するのも面倒だし、かと言って毎日外食するわけにもいかない。

 結局、コンビニ飯が一番楽なんだよな。

 ホットスナックのコーナーに向かって、ショーケースを覗き込む。

 唐揚げ、アメリカンドッグ、フランクフルト、肉まん。

 色々並んでいるが、今日は唐揚げの気分だ。

「すみません、唐揚げください」

 店員に声をかけると、唐揚げを袋に入れてくれた。

 レジに持っていこうとして——ふと、もう一度ショーケースを見た。

「あ、もう一個ください」

 なぜか、そう言っていた。

 店員はもう一つ唐揚げを袋に入れてくれた。

 二つの唐揚げを持って、レジに向かう。

 会計を済ませて、袋を持って店を出た。

 外はまだ明るかったが、夕暮れが近づいている時間帯だった。

 家に向かって歩き始める。

 その時だった。

「あ」

 向こうから歩いてくる人物に気づいて、思わず声が出た。

 小鳥遊結衣。

 クラスメイトで、遼輔の幼馴染である東雲さんの親友だ。

 ショートカットの髪型が特徴的で、活発そうな雰囲気の女子。

 そして、俺とは犬猿の仲だ。

「あ、九条じゃん」

 小鳥遊もこちらに気づいた。

 二人は道の真ん中で立ち止まった。

「何してんの、こんなところで」

「コンビニ寄ってただけだ。お前こそ」

「私も買い物」

 小鳥遊は手に持ったコンビニ袋を見せた。

「一人暮らしは大変ね」

「うるせえ」

「図星?」

「図星じゃねえよ」

 俺は少しムッとして答えた。

「お前に言われたくない」

「別に何も言ってないでしょ」

「言ってるだろ。その言い方が気に入らねえんだよ」

「は?何それ。意味分かんない」

 小鳥遊は呆れたような顔をした。

「九条って、本当に面倒くさい性格してるよね」

「お前もな」

「私は面倒くさくない」

「十分面倒くさいわ」

 二人は道端で言い争いを始めた。

 通りすがりの人たちが、不思議そうにこちらを見ている。

 でも、俺たちは気にしなかった。

「大体、九条はいつも——」

「お前だって——」

 言い争いは数分続いた。

 でも、お互い本気で怒っているわけじゃない。

 いつものことだ。

 こうやって口喧嘩するのが、俺たちの日常だった。

「もういい。帰る」

 小鳥遊が先に折れた。

「じゃあね、九条。また明日、学校で」

「おう」

 小鳥遊は手を振って、反対方向に歩いていった。

 その後ろ姿を見送ってから、俺も歩き始めた。

 家までの道のりを、一人でてくてくと歩く。

 コンビニ袋を持ちながら、ふと中身を確認した。

 おにぎり、サンドイッチ、お茶。

 それと——唐揚げが二つ。

「……あれ?」

 俺は立ち止まった。

 唐揚げ、二つ買ったんだっけ?

 一つでよかったはずなのに。

 なんで二つ買ったんだ?

 記憶を辿ってみる。

 ショーケースを見て、唐揚げを一つ注文した。

 それから——もう一度ショーケースを見て、なぜかもう一つ注文した。

 あの時、何を考えていたんだろう。

 特に理由なんてなかった気がする。

 無意識に、二つ注文していた。

「まいったなぁ……」

 俺は袋を持ったまま、ぼんやりと呟いた。

「俺、こんな食べたい気分じゃないのになぁ……」

 唐揚げ二つは、一人で食べるには多すぎる。

 一つで十分だったのに。

 なんで二つ買ったんだろう。

 その答えは、自分でも分からなかった。

 ただ、無意識に手が動いていた。

 それだけだ。

 でも、心のどこかで——。

 もしかしたら、誰かと一緒に食べたかったのかもしれない。

 そんなことを考えて、俺は首を振った。

「何考えてんだ、俺」

 一人で食べるしかないだろう。

 そう思いながら、家に向かって歩き続けた。

 でも、心の中には、微かな寂しさが残っていた。

 唐揚げ二つ。

 一つは俺の分。

 じゃあ、もう一つは——。

 その答えを考えるのをやめて、俺は足を速めた。

 夕暮れの道を、一人で歩き続けた。

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