「題材選び」もみうらじゅんに学べ!

アイリッシュ・アシュモノフ

題材選びもみうらじゅんに学べ!

「うーん、困った。ネタが尽きた」

僕はパソコンの前で頭を捻る。

ここ数日で何度目かの光景である。

画面は真っ白なままで、カーソルだけが規則正しく点滅している。

まるで「早く書け」と無言で急かされているようだ。

年末休暇を利用して、文章を書くライティング・ゼミに参加した。

講義の終了後、ほぼ毎日2,000文字の課題投稿が必要になる。

よくよく考えたら、狂気の沙汰だ。

まあ、深く考えなくても、どうかしている。

申し込む方も気がふれていたとは思うが、

企画側もなかなかにクレイジーである。

とはいえ、締切がある以上、プロを目指す者として、

書くことを止めるわけにはいかない。

しかし、2,000文字を書くというのは並大抵のことではない。

プロライターへ続く道は、どうやら修行の連続らしい。

もちろん1本ならサクッと書ける。

だが、全部で9本の投稿が必要になる。

文字数にしたら、2,000文字×9本=18,000文字。

数字にすると、急に途方もない山に思えてくる。

きっと立山連峰を一息に縦走するようなものだ。

どちらにしても、登山経験のない僕にとっては過酷な旅である。

コンパスと地図はもらったが、すでに道を誤り、

遭難している可能性すらある。

持っている頭の引き出しを全部ひっくり返し、

カラカラに乾いた雑巾から水を一滴絞り出すように文字を書く。

投稿も5本目ともなれば、

温めていた上等なネタはすでに使い果たしている。

自分でも「これは良い」と思っていた話ほど、

不思議と早めに切ってしまうものだ。

僕の中にまだ眠っているネタなんて、

旬の過ぎたゴシップか、

人様にはお見せできない過激なエロネタくらいである。

どれも書けなくはないが、

出すには少し勇気がいる。

言うなれば――

いや、言わなくてもいい。

紛れもなく、恥部である。

まだ人前で恥部を曝け出せないのは、

「僕」という「コンテンツ」に自信がないからだと思う。

それ以前に、まず「出していいのか」で迷ってしまう。

この迷いそのものが、自信のなさの表れなのかもしれない。

自分自身を

「自分が一番面白い」と洗脳できれば、

きっとネタに昇華できる。

これは、いつか紹介した

「自分を洗脳する」という、みうらじゅんのテクニックである。

そういえば講義の中で、

題材が良ければ、

その理由はいくらでも後から生えてくる、と言っていた。

つまり「面白さ」は、

ひらめくものではなく、積み上げるものなのかもしれない。

ならば白紙を用意して、

自分の面白いところを、

主観だけで書き出していく。

・ギャンブル(競艇・競馬・パチンコ)が好きな刹那主義者

・経営学修士号(MBA)を持つ臆病者

・スケベな快楽主義者

・歴史好きなロマンチスト

などなど。

最後に名前を伏せて眺めてみる。

どうだ。

客観的に見たら、案外、面白いのではないか。

いや、これは――

面白い人間だ。

どれも人に誇るほど立派ではないが、

隠すには惜しい属性である。

むしろ、こうした矛盾や歪みこそが、

人間らしさであり、文章の芯になるのかもしれない。

なぜ、こんな面白い人間が、

この世の中に眠ったままでいるのだろう。

そう考えた途端、

過去の面白いエピソードが、

ふつふつと湧いてくる。

そしたら、次は見せ方になる。

どういう構成なら、この面白い奴をわかってもらえるのだろうか。

いや、万人に受けなくてもいい。

みうらじゅんに笑われたい。

どのエピソードなら笑ってくれるだろう。

キャバクラに入れ込んだ話なんて、

案外ウケるかもしれない。

僕の脳内で作り出したイマジナリーみうらじゅんは、

親指を上に向けて、

「Good JOB! いいよ、面白い」と言っている。

この話にはどういう前提条件が必要かな。

小ネタは足りているだろうか。

そう考えているうちに、

自然と筆も進み、

文章のリズムも整っていく気がした。

もし、つまらなかったら?

ふと頭をよぎる不安に、

イマジナリーみうらじゅんはこう言ってくれる。

「そこがいいんじゃない」

うん、そうだ。

人は失笑と呼ぶかもしれないが、

時にはシュールな笑いも、

僕の文章には必要なのだ。

最後にタイトルを付けよう。

「漢磨き キャバクラ編

~アフターデートの狙い方~」

そして書き上げた原稿を読み返して思う。

いや冷静に、

これってゴシップ系週刊誌の記事じゃないか。

過激すぎる。

どう考えてもカクコムの肌には合わない。

さっきまで、あれほど応援してくれていた

イマジナリーみうらじゅんは、

「あ、掲載場所が違うなら、お暇しますね」

と言って、静かに消えていく。

そして僕は、

パソコンの前で、

また頭を抱えるのであった。

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